示した道
そうして、翌日。
セシリアは学園の寮の入口で、ララリが出てくるのを待った。彼女はいつもの時間より少し遅れて、重い足取りでゆっくりと歩いている。
いつも朗らかな表情も、やや暗い。
ゲームのときのヒロインは、どんなときでも明るく笑っていた。
恋する相手のためなら、多少のことは耐えられたのかもしれない。だがまったく気のない他国の王太子の相手をしなくてはならず、さらにそれに嫉妬する令嬢たちに攻撃されて、かなり疲弊している様子だ。
その姿を見ると、胸が痛む。
「ララリさん」
声を掛けると、ララリはびくりと肩を震わせてから、怯えたようにこちらを見た。そして、声を掛けたのがセシリアだと知ると、その表情が一気に明るくなる。
「セシリア様!」
そんなに急いだら危ないのではないか。そう思った途端に目の前で躓いて、慌てて手を差し出す。
「もう、そんなに慌てたら危ないわ」
「す、すみません」
謝罪しながらも嬉しそうなララリの様子に、随分懐かれたものだと内心苦笑する。
「セシリア様は、どうしてこんな時間に?」
「あなたを待っていたのよ。一緒に行きましょう?」
「本当ですか? ……でも」
一緒に行くと告げると、ぱあっと明るくなったララリの表情が、一瞬で曇る。
「あの、事情があるとおっしゃっていましたが、それはまだ解決されていないのでは……」
ララリには、何も話していない。
だが彼女なりに考え、セシリアが身を潜めているのは、ローダナ王国の王太子ニクラスが関係していると理解したのだろう。
そのニクラスはまだ花嫁候補を決めていない上に、頻繁にララリの周辺にいる。
「私なら大丈夫。アルヴィンがいるから」
そう言って振り返ると、ふたりを静かに見守っていたアルヴィンが、穏やかな表情で頷く。
落ち着き払った様子に、ララリも安心したようだ。
「それよりも、あなたの方が大変そうね。大丈夫?」
声を掛けると、その瞳がたちまち潤む。今まで誰にも言えずにひとりで耐えていたのだろう。
「す、すみません。わたし……」
もしセシリアが悪役令嬢になっていたら、こんなふうにララリを追い詰めていたのかもしれない。そう思うと、断罪され、修道院に送られても仕方がないと思ってしまう。
「一番困っているのは、令嬢たちの嫌がらせ? それとも、ニクラス殿下のこと?」
「嫌がらせは、このまま黙って耐えていれば、いずれなくなると思います。ただ、父が……」
ララリの父であるエイター男爵は、爵位に見合わず強い魔力を持って生まれた娘を、何とか上流階級に嫁がせようと必死になっているようだ。この間のお茶会も、ララリは数人だけの小規模なものを望んでいた。それなのに張り切った男爵が、あれほどまで大体的に開催してしまったらしい。
そしてローダナ王国の王太子が、ララリに興味を持っていることを知った。ララリは市政で育った男爵家の娘だが、向こうの事情も複雑だ。
高い魔力さえあれば、何とか婚約者に選んでもらえるのではないか。そう考えて、周囲の視線も気にせずに動き回っているという。
嫌がらせをしていた令嬢たちも、それを身の程をわきまえずに見苦しい、と非難しているそうだ。
「私には、王太子殿下の婚約者など無理です。この国を出るのも嫌です。ですがお父様は、そんなことを口にするなと叱るばかりで……」
実の父とはいえ、庶子のララリは、貴族の家に引き取ってもらった立場上、強く言うことができないのだろう。
「もう、どうしたらいいのか……」
「そうね……」
ララリの困り切った顔を見て、セシリアは思案する。
エイター男爵は、もしローダナ王国の王太子妃にはなれなかったとしても、他の縁談を持ち込むだろう。
それに、強い魔力を必要としている貴族は多い。ララリならば子爵家どころか、伯爵家や侯爵家の者と婚約できる可能性もある。
だが口には出さないが、ララリはまだ元王太子のアーサーを慕っている。他の縁談を持ち込まれるのは苦痛だろう。
何か良い方法はないか思案していたセシリアは、ゲームのエンディングのひとつを思い出す。
「それなら、聖女を目指してみればいいわ」
「聖女、ですか?」
「ええ」
ゲームのエンディングのひとつに、聖女エンドというものがあった。
攻略対象とのエンディング条件を満たさず、聖魔法の数値を限界まで上げると、ヒロインは教会によって聖女に認定される。
(この世界の聖女は、救世主みたいな特別なものではなくて、役職のひとつだけど……)
それでも聖女に任命されるのは相当な名誉であり、聖女を輩出した家も尊重される。そして他国の者が、その国にとって大切な存在である聖女を奪うことはできないのだ。
エイター男爵も、自分の家系から聖女が出るとなれば手放しで喜ぶだろうし、ローダナ王国の王太子も、相手が聖女では諦めざるを得ない。
(聖女になるには、ある程度神官リアスの好感度も必要だけど、それはきっと問題はないわ)
ララリはよく、彼の元を訪ねて聖魔法を習っている。
「私にできるでしょうか……」
彼女は不安そうだったが、次の瞬間には覚悟を決めたように両手を握りしめた。
「いえ、やるしかないですね。聖魔法を極めるのは、私の望みでもあります」
道を示していただいて、ありがとうございます。
ララリはそう言って、深く頭を下げた。
次の更新は2/16の予定です。
少し間が空きますが、再開後は更新頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




