エンディングの先の世界
フィンがどうなったのか尋ねると、彼にも同じ魔道具を付けさせ、そのまま治療のために神殿に運ばれたらしい。
アルヴィンから受けたダメージが、相当大きかったのだろう。
もともとフィンは、魔力は少なくとも魔法知識は豊富だった。
それに闇の力が加わったのだから、アルヴィンもあまり手加減できなかったようだ。
フィンを倒したアルヴィンは、すぐにセシリアの元に向かおうとした。
でもその前に、ミルファーによって出動命令が出された騎士団と魔導師団。そして、魔道具の材料を持ったララリと遭遇したらしい。
アルヴィンは魔道具よりも、セシリアと合流することを優先したかった。
だが、もしアルヴィンに倒されたフィンが目を覚ましてしまえば、普通の騎士団や魔導師団では相手にならない。
闇の力を得たフィンと騎士団が戦闘になれば、大惨事になっていた可能性がある。ヒロインのララリにも被害が及んだかもしれない。
「アルヴィンが魔道具を優先させてくれて、よかったわ」
セシリアは安堵したが、ひとりで戦わせてしまったことを、アルヴィンはとても悔やんでいる様子だ。セシリアをきつく抱きしめる彼の腕に、そっと手を添える。
「アルヴィン?」
「すまない。ひとりで戦わせてしまった。俺は、お前の守護騎士なのに」
「ううん、ひとりじゃなかったわ」
セシリアは、アルヴィンの胸に甘えるように頭を擦り付ける。
「もうすぐ来てくれると信じていたから、戦えた。わたしはひとりじゃなかったわ。ずっとアルヴィンのことを考えていたもの」
たとえこの先、離れて暮らさなくてはならない状況になったとしても、互いに想い合う心がある限り、ひとりになることはないだろう。
「それに、わたしは強いのよ。だから心配しないで」
体力は尽きそうだったが、まだまだ魔力には余裕があるようだ。きちんと体力をつければ、もっと強い相手とも戦えそうだと思った。
「アルヴィン」
それでも心配そうな彼の腕に触れようとして、その腕が傷だらけなことに気が付いた。
慌てて治癒魔法をかける。
「フィンとの戦いで?」
アルヴィンをここまで傷つけるほどの力だったのかと驚いたが、彼はそれを否定した。
「違う。王太子に力を与えている魔族を探ろうとしたら、逆に弾き飛ばされた」
「!」
アルヴィンはこの魔道具を発動させる前に、アレクの力の源を探ろうとしたようだ。
けれど相手の力は、アルヴィンの想像を遥かに上回っていた。
「どうしてそんな、無茶なことを」
傷は浅いように見えるが、いくら治癒魔法をかけても、なかなか塞がらない。焦ったセシリアがさらに力を注ごうとしたが、アルヴィンに止められた。
「これ以上、魔力を使うな。王太子との戦いで、自分が思っているよりも消耗している」
「でも、アルヴィンが……」
「たいした傷ではない。放っておいても問題はない」
たしかに彼の言うように、見た目は浅いようだ。
だがセシリアは、魔族から受けた傷をアルヴィンに残しておきたくなかった。制止の声を振り切って、治癒魔法をかけ続ける。
「セシリア!」
魔力を注ぎ続け、ようやく傷口が塞がったのを見た途端、めまいがした。
「無理はするな」
アルヴィンの肩に身体を預けながら、傷ひとつなくなった腕を見て、ほっとして息を吐く。
「だって、何だか嫌な予感がしたの。このまま魔族から受けた傷を残しておくと、よくないことになる気がして」
責めるような視線を、わざと拗ねたように見返す。
「アルヴィンが無茶なことをしたせいだからね?」
魔族を単独で追いかけようとするなんて、本当に無謀なことだ。もし何かあったらどうするのか。
セシリアの怒りに、アルヴィンは戸惑ったように視線を逸らす。
「……すまない」
「うん。わかってくれたらいいの」
そう言って頷くと、安心したのか、疲労から意識が遠のいていく。
こんなに魔力を使ったのは初めてだ。
とてつもなく眠いのは、休めば魔力が回復するからなのか。
「……アルヴィン」
助けを求めるように名前を呼ぶと、ふわりとした浮遊感。
抱き上げられたようだ。
「もう大丈夫だ。少し休め」
優しく囁かれ、こくりと頷くと目を閉じた。
セシリアが眠っている間に、ララリとともに王城に到着していた騎士団、そして魔導師団が、意識を失って倒れている人達の救出をしたようだ。
王城で倒れていた人たちは、国王陛下を始め、全員無事だったようだ。
救出された国王陛下は王女が意識を取り戻したことを喜び、一連の犯人が王太子であるアレクであることを知って、苦悩したようだ。
だが、アルヴィンやララリ。王女ミルファーや神官リアスの証言で、事件を起こした彼らは、魔族に操られていたことが報告されている。
特にフィンは魔を退ける魔道具を発見し、その制作に深く携わったことで、極刑は免れそうだ。
問題は、王太子のアレク。
セシリアが予想していたように、アレクにはもともとそれだけの魔力がなかったことから、事件を起こしたのは彼の意志ではないと結論が出たようだ。
だが王太子の地位にいる者が、やすやすと意志を奪われるなど、あってはならないことだ。
アレクの魔力の低さから、以前からミルファーを王太女に推す声があったのだが、それがますます大きくなっているようだ。
これから彼がどうなるか、それは上層部の人間が決めること。セシリアには、それを見守ることしかできなかった。
これからこの世界がどうなるのか、セシリアにはわからない。
もうゲームの知識は通用しない。エンディングの先の世界を生きるようなものだ。
それでもアルヴィンが傍にいてくれるなら、きっと何とかなると信じていた。
学園はまた何日も閉鎖されることになってしまったが、事件の事後処理が終わったら、再開することになっている。
その前に、アルヴィンとふたりきりでデートをするという、あの約束を果たさなければならない。




