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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
幼少期

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守護騎士

 もちろん、表立ってつらく当たるようなことはしない。

 話しかければ、普通に答えてくれる。

 そんな兄の秘めた憎悪に気が付いたのは、アルヴィンだった。もともとセシリアの言葉で兄を警戒していたからだろう。

 言われてみれば、表向きは優しそうに微笑んでいるが、兄だってまだ子供である。

 その瞳の奥の憎しみまでは隠せない。

 自分よりも強い魔力を持っているセシリアを、実母が亡きあと、その寵愛を一身に受けている継母を、兄はずっと憎んでいたのだ。

(うーん、やっぱりそうだったか)

 セシリアは、深く溜息をつく。

 前世の記憶が蘇ったとき、自分の置かれた状況から考えて、兄は自分を憎んでいるのではないかと思った。

 でも十歳のセシリアにとって、兄は優しい人だったのだ。

 何の知らない十歳の自分は、いつか両親は自分に関心がまったくなく、優しいと思っていた兄は自分を憎んでいたと知るだろう。

 そのとき、記憶のないセシリアはそれに耐えられただろうか。

(無理だわ。きっと、心が壊れてしまう)

 そう思ったときに、ふと思い浮かぶ記憶があった。

 信じていた家族から裏切られ、絶望したセシリアは、誰も信じられなくなる。やがて、使用人や学園の同級生にも高慢に振る舞うようになっていく。

 そうして過ごしていた十八歳のとき、その身分と魔力の高さから、王太子の婚約者に選ばれた。

 本当は心の底から愛を切望していたセシリアは、近い将来、家族になる彼に愛を求めるようになる。

 だが、王太子は婚約者となったセシリアを愛さなかった。

 彼が愛したのは、身分は低いけれど明るくて健気な男爵令嬢。

 今度こそ愛が得られると信じていたセシリアは、それを受け入れることができず、とうとうその男爵令嬢を手にかけてしまう――。

(……え、この記憶は何?)

 困惑して、首を振る。

 突然、頭の中に浮かんできた記憶は、まるで自分のことのように思い出せる。

 もしかしたらこれも、前世の記憶が蘇らなかったら辿っていた未来なのだろうか。

 あの、十歳の誕生日に魔力を暴走させて人を傷つけてしまったかもしれなかった日のように。

(これは……。控えめに言っても身の破滅なのでは……)

 いくら公爵令嬢で王太子の婚約者とはいえ、その想い人を手に掛けたセシリアが無事に済むわけがない。

 その記憶の中でセシリアは、公爵家から追放され、王都から遠く離れた修道院に送られる途中、盗賊に襲われて殺されてしまう。

 だがその盗賊は、兄の手の者だったのだ。

 それを告げられたセシリアは、絶望の中で命を落とす。

(わたしは、セシリアはお兄様に、そんなに憎まれていたの?)

 身内から殺されるほど憎まれる。

 セシリアよりも年上で、異世界で生きてきた上嶋蘭にだって、そんな経験はない。

 思わず自分自身を抱きしめるようにして肩に手を回すと、傍にいたアルヴィンが心配そうに覗き込んできた。

「セシリア、大丈夫か?」

「……アルヴィン」

 ブランジーニ公爵家の紋章が入った騎士服を着用しているアルヴィンが、心配そうに覗き込んでいた。

 少し強引に公爵家に連れてきてしまったアルヴィンだったが、今は毎日のように手料理を振る舞っていたせいか、だいぶ打ち解けていた。

 穏やかな顔で笑ってくれることもある。

 でも彼は自分の素性について、まったく話そうとしなかった。

 迷惑をかけてしまうことを恐れているのかと思い、ここは公爵家であり、自分は公爵令嬢であることを告げて安心させようとした。

 だが彼は、自分の問題を公爵の名で解決してしまうことを望まなかった。

 アルヴィンがここにいるのは、セシリアを助けるため。

 助けてほしいと、懇願されたからだ。

 そうきっぱりと告げられ、中身は二十九歳なのに、思わず惚れてしまいそうになった。

 なんと気高く凛々しい少年だろう。

 だから、こうして一緒に過ごしていても、彼の詳しい事情は知らないままだ。知っているのはアルヴィンという名前と、セシリアと同い年だという年齢だけ。

 でもその痩せた身体を見ると、たとえその理由が何であれ、アルヴィンを保護することができて本当によかったと思う。

 きっと成長したアルヴィンは、自らの手で問題を解決する。だからそれまで、傍で守ってあげようと決意した。

「大丈夫。ちょっと、これからのことに不安を感じただけ」

 そう言って笑みを向けると、アルヴィンはセシリアの足もとに跪き、真剣な表情で言う。

「心配はいらない。何があっても、俺が守護騎士として守る」

 セシリアは、かろうじて崩れ落ちそうになる身体を支えた。

 ここで少年騎士の美貌と健気な言葉にノックダウンされるわけにはいかない。

「ありがとう、アルヴィン。あなたを信用しているわ」

 そう言って微笑む。

 色々と困難はあるかもしれないが、彼が傍にいてくれるなら、きっと大丈夫だと信じていた。



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