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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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変わった関係と変わらない絆

 目を開けると、眩しい光が飛び込んできた。

「ん……」

 カーテンが開いたままだったようだ。朝のすがすがしい光が、大きな窓から容赦なく降り注いでいる。

 それがあまりにも眩しくて、思わずもう一度目を閉じた。

 今日はとても快晴のようだ。

(ここ、どこ?)

 自分の寝室ではないと気が付いたセシリアは、身体を起こして周囲を見渡そうとした。

 でも、動けない。

 そこでようやく、自分が誰かにしっかりと抱きしめられていたことに気が付いた。

「……アルヴィン」

 セシリアを腕に抱いたまま、目を閉じているのはアルヴィンだった。よく見ればふたりとも、儀式のときの服装のままだ。

 彼を起こさないように気を付けながら周囲を見渡してみる。

 見覚えのある光景。

 ここは学園寮にあるセシリアの部屋の、応接間にあるソファーの上だった。

(ええと、儀式のあと、わたしは気を失ってしまったのよね。アルヴィンがここまで運んでくれたのかな?)

 アルヴィンも、相当量の魔力を使ってしまっていた。ここまで移動するのが限界だったのかもしれない。

 セシリアの部屋まで辿り着き、そのままふたりで眠ってしまっていたようだが、まさか朝になっているとは思わなかった。

 それだけ魔力を使ってしまったのだろう。

 でもゆっくりと眠ったお陰で、魔力はほとんど回復していた。

(こんなふうに寝顔を見るのは、子供のとき以来ね)

 間近にある綺麗な顔を見つめて、思わず微笑む。

 子供の頃は、こうして一緒に寝ることもあった。でも互いに成長して距離を取っていたが、今はまた恋人同士として寄り添い合うことができる。

 関係性が変わっても、積み上げてきた絆は変わらない。むしろこれから、もっと強くなっていくのだろう。

(儀式も、ふたりの関係が変わっていなかったら、乗り越えられなかったかもしれない)

 アルヴィンはセシリアの守護騎士という立場から、絶対にセシリアの助けを拒んでいた。騎士として、守護するべき主を危険に晒すことなどできないと、強く思っている。

 でも想いが通じ合っていたから、アルヴィンのことが大切だと言ったセシリアの言葉を優先してくれたのだ。

 儀式の成果を確かめようとして、窓から外を見上げる。晴天の空に、陽光を反射してきらめく結界が見えた。

 王都をドーム状に覆っているこの結界は、人の出入りを制限することはないが、魔物の侵入を防ぐことができる。魔力を持つ者が減りつつあるこの国にとって、心強い存在になるだろう。

 セシリアはその結界を見つめながら、当日のことを思い出す。

 もし魔石が盗難に合わなかったら、儀式は何事もなく無事に終わっていただろう。アルヴィンの魔法は安定していたし、魔力も充分だった。

 でも魔封石の存在が、すべてを狂わせてしまった。

 あれが王家からの提供でなければ、アルヴィンの傍に置いたりしなかった。でもあの状況では、形だけでも使ったように見せなければならなかったのだ。 

 魔石が奪われたことも、その代わりに魔封石が設置されてしまっていたことも。アルヴィンがそれに触れてしまったことも、本当に不幸が積み重なってしまっただけなのか。

 他にも考えなければならないことは、たくさんある。

 現場で見かけた兄のこと。

 ダニーのときにも出現した、黒い瘴気のこと。

 ゲームの知識とこの世界が、少しずつかけ離れていくこと。

 そして、これから学園で顔を合わせるだろうヒロインのことも。

(なかなか、前途多難ね)

 思わず溜息をつくと、肩に回されていた腕に力がこめられた。

「セシリア」

「アルヴィン、目が覚めたのね。大丈夫?」

「……ああ」

 彼は頷くと、ゆっくりと身体を起こした。

 でもその動作はいつもよりも気怠そうで、魔力がまだ完全には回復していないのだとわかった。

「無理はしないで。まだ休んでいたほうがいいわ」

「セシリアは、大丈夫か?」

「うん、わたしは元気よ。魔力も完全に回復したみたい」

 そう言うと、アルヴィンは複雑そうな顔をした。

「魔力の回復も早いのか」

「アルヴィンのほうが魔力の消費が大きかったから、仕方ないよ」

「……そうかもしれないが」

 少し拗ねたように言う彼が愛しくて、思わずその腕に触れる。そのまま手を引き寄せられて、腕の中に閉じ込められた。

「あれは、何だった?」

「魔封石よ。この王城の宝物庫に保管してあったようね。見た目は魔石と変わらないから、間違ってしまったのね」

「故意ではないと?」

「……わからないわ。でも、儀式の成功を一番願っているのは、王家の人たちよ」

「そうだな。俺も、見ただけでは魔封石だとはわからなかった。慌てていた王太子が間違ったとしても、仕方がない」

 王城で管理していた魔石が盗まれたあとだ。

 きっと王太子も、何とかしなければと慌てていたのだろう。

「事故、かな?」

「そうなるだろうな。だが、油断はするな。彼にはなるべく近寄らないように」

「うん、わかっているわ」

 次に考えなければならないことは、兄のことだ。

 本当にあのとき見かけたのは、兄だったのか。そうだとしたら、魔石の盗難に関わっているのか。

「……セシリア」

 腕の中に抱かれたまま、次の問題について考えた始めたセシリアに、アルヴィンは声を掛ける。

「ん?」

「いろいろと、考えなければならないことは多そうだ」

「うん、そうね」

 これからのことを思い、セシリアの顔が曇る。

 まだ入学して間もないのに、このイベントの多さはどういうことだろう。

「だが、セシリアがひとりで解決しなければならないことなど、ひとつもない。気になることがあるなら、すべて話してほしい。俺は何があってもセシリアの味方だ」

「……そうね」

 頷きながら、セシリアは俯いていた。

 転生者であることは話したが、前世のこと、ゲームのことは何も話していない。

 黒い瘴気のこと、それに魔族が関わっていることを理解してもらうには、それを話さなくてはならないとわかっている。

(わかっているけど……)

 そこまで彼を巻き込んでいいのか、まだ迷いがあった。

 前世のこともゲームのことも、確固たる証拠があるわけではない。むしろセシリアの妄想だと思われても仕方のない話だ。

 それでも今はもう、アルヴィンが信じてくれないかもしれないとは思わない。彼はセシリアの話を疑うことなく信じて、一緒に戦ってくれるだろう。

 でも、相手は恐ろしい魔族だ。

 しかもあの儀式のせいで、魔族を弱体化してくれる魔封石もない。そんな戦いに、大切なアルヴィンを巻き込んでもいいのだろうか。

「セシリア、俺はもう十歳の子供ではない。もう、守ってくれなくてもいいんだ」

 そんなセシリアに、彼は言い聞かせるように優しく言う。

「アルヴィン?」

「俺を巻き込むことを、怖がっているように見えた。だから今まで、話せなかったのだろう?」

「わたしは……」

 彼はもう立派な騎士で、魔導師だ。

 魔力はセシリアの方が強いかもしれないが、魔法の腕はアルヴィンの方が上である。

 そうわかっているつもりだった。

 でも彼の言うように、十歳のあの頃のように、まだアルヴィンを守らなくてはと思っている気持ちがあったのかもしれない。

「俺は頼りないか?」

「ううん、そんなことない。アルヴィンが強いのは知っている。ただ、わたしはあなたのことが大切で」

「それは俺も同じだ。儀式のとき、どうしてもお前の力を借りたくなかったのも、セシリアが大切だからだ。でも、力を貸してもらった。俺が倒れたら、セシリアが泣くと思ったから」

 それと同じように、セシリアもアルヴィンの手を借りるべきだと彼は言っているのだ。

 ふたりはもう、主従関係だけではない。

 互いに大切に想い合う、恋人同士なのだから。

「……うん」

 アルヴィンを頼って、すべてを話す。そう覚悟を決めて、セシリアは頷いた。 

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