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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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王太子の失態

 魔法が構築されていく。

 その有様が、今のセシリアには手に取るようにはっきりとわかった。

 アルヴィンの魔力も安定している。その魔法が王都を覆っていく様子を、セシリアは静かに見守った。

 その背後で、儀式に立ち会った高位の貴族たちがざわめいている。

 彼らはこの国では比較的、魔力の強い人たちだ。アルヴィンの魔力の強さが、はっきりとわかったのだろう。

 ブランジーニ公爵よりも強いのでは、と囁く声が聞こえてきたが、彼らの反応などセシリアにとってはどうでもよかった。

(このまま無事に終われば……)

 祈るように両手を組み合わせて、魔法が成立するときを待つ。

 魔法で張る結界は、目に見えないものが多い。

 でも以前王都に張られていた結界は、住む人間に安心感を与えるために、ドーム状の筒のような形をとっていた。アルヴィンは国王の要望により、それと同じ形にするようだ。

 透明なガラスのような結界が、王都の空を覆っていく。

 魔法でその様子を透視していたセシリアは、ふと嫌な予感がして、意識を目の前のアルヴィンに向けた。

「!」

 彼の魔力が、何かに吸い取られるように一気に減っていた。

(どうして? もう結界は構築されているはず)

 セシリアは動揺して、周囲を見渡した。

 結界は張られ、あとはその形を示すだけだったはずだ。

(アルヴィン!)

 彼はわずかに顔を顰めたが、動揺することなく結界を維持している。魔石の上に置かれていた右手が、わずかに震えているだけだ。

 その魔石が赤く光っていることに気が付いて、セシリアはアルヴィンに駆け寄った。

(あれは魔石じゃない! あの不吉な色……。魔力を封じ込める、魔封石よ!)

 ゲームの第二部でヒロインが使用していたアイテムだ。

 これで魔族の多大な魔力を吸収し、弱体化してから倒していた。

 だが魔石と違い、封じた魔力を使うこともできず、さらに人間の魔力も吸収してしまうため、どの国でも取り扱いを禁止しているほど危険なものだ。表どころか、裏社会にも流通していないという設定だった。

 おそらくヒロインが使っていたものは、この王城に保管されていた魔封石だ。見た目は魔石とほとんど変わらないから、王太子も間違えてしまったのかもしれない。

(本当に間違えたのかしら? それとも……)

 不審に思うが、とにかく今はアルヴィンを助けることの方が先だった。

 彼の右手を魔封石から引き離し、両手で包み込む。

 その手は冷え切っていた。相当な魔力を奪われたのだろう。

「セシリア?」

「アルヴィン、緊急事態なのでわたしも手伝います」

 彼にだけ聞こえるように、小声で囁く。

 とにかく今は彼をこれから引き離し、結界を張ってしまわなければ。

 セシリアは冷たくなったアルヴィンの手を取ると、自分の額に押し当てる。

 ゲームでヒロインが王都に結界を張って瀕死になっていたとき、攻略対象たちは、こうやって魔力を分け与え、彼女の命を救っていた。

 アルヴィンはヒロインよりも魔力が高いから、あれほどの状態にはならないはずだ。

 でも、このままでは危険だということもわかっている。

 セシリアの魔力が、アルヴィンに注がれていく。

「このまま結界を張ってください」

「……わかった」

 セシリアに手を握られたまま、アルヴィンは結界の構築を再開させた。

 あと少しだと思っていたのに、思っていたよりも魔力を使うようだ。腕輪をしたままのセシリアでは限界に近かった。

 とうとうあんなに冷たかったアルヴィンの手のほうが、温かく感じてしまっていた。

「もういい。無理はするな」

 異変を感じたのか、アルヴィンがやや強引にセシリアから手を離す。

「駄目、まだ危険よ」

「このままではセシリアの方が危険だ。心配するな。あと少しだ」

「でも……」

 アルヴィンが離れていく。

 セシリアは必死に彼に追いすがり、強引に手を握った。振り解こうとするアルヴィンに、必死に訴える。

「わたしを引き離したら、この腕輪を外すわ」

「セシリア」

 もはや脅しのような言葉に、アルヴィンの表情が悲しげに歪む。

「……ごめんなさい。でも、ふたりで力を合わせたら乗り切れるわ。わたしを信じて」

 そう必死に懇願する。

「そういえば、いざとなったら頼ると約束したな」

「うん。だから、わたしの手を握っていて」

「ああ」

 しっかりと手を握り合い、互いの魔力を出し合って結界を築いていく。

 無事に結界を張り終わったことを確認すると、セシリアは力が抜けてしまって立っていられず、アルヴィンにしがみついた。

 しばらく呼吸を整えてから、王太子と王女に向き直る。 

 少し予想外のハプニングはあったが、無事に王都の結界を張ったこと。これからもブランジーニ公爵家の忠誠は、シャテル王国と王家に捧げられること。それらを盛り込んだ、あらかじめ決められていた口上を述べて、アルヴィンに支えられるようにして、会場から退出した。

「……アルヴィン」

「頑張ったな。もう大丈夫だ」

 優しくそう言われて、力が抜けていく。倒れかかった身体を、彼がしっかりと支えてくれた。

「アルヴィンも疲れているのに、ごめんね」

「俺のことは気にするな。少し、休んだほうがいい」

「……うん」

 目を閉じると、アルヴィンの腕を掴んだまま、セシリアの意識は途切れていった。



◇◇◇



 シュテル王国の王女ミルファーは、目の前の椅子に座り込んでいる兄を見て、忌々しそうに溜息をついた。

 兄はぴくりと反応するが、何も言わずに目を伏せる。

 自分が何をしたのかわかっているのですかと何度も言ったが、落ち込んだ様子ですまないと言うだけだ。

 よりによって王城で、儀式に使う大切な魔石が盗難されただけでも取り返しのつかない失態なのに、その魔石の代わりに、禁忌とされている魔封石を差し出してしまったのだ。

 その違いは専門家でもよく見ないとわからないと言われているが、普通の魔石ならば宝物庫の奥深くに隠されているはずがない。

 シュテル王国はもう少しで、優秀な魔導師をふたりも失うところだった。もしそうなっていたら、兄は間違いなく廃嫡されていただろう。

「……もうお兄様には何も期待していません。ブランジーニ公爵令嬢にも、もう近寄らないでください」

 あのふたりは互いに支え合い、力を合わせて王家に対する忠誠を示してくれた。

 今回のことで、公爵令嬢とその守護騎士の愛は、きっと貴族たちにも広く知れ渡るだろう。それに割って入るなど、王家にとっては悪影響でしかない。むしろうまく利用して、今回の王家の失態を隠さなくてはならない。

 無能な兄が王太子であるせいで、やらなくてはならないことが山ほどある。

 もうこれ以上兄に時間を割くわけにはいかないと、ミルファーはさっさと席を立って、部屋から出た。


 残された王太子のアレクは、誰もいなくなった部屋で俯いたまま、小さく呟いた。

「もう何も期待しない、か」

 黒い瘴気が、ゆっくりと部屋に満ちていく。


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