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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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王太子の謝罪

「セシリア」

 ふと頬に、温もりを感じた。

 アルヴィンがセシリアの頬に手を掛け、心配そうに覗き込んでいた。

「すまなかった。避けるのではなく、最初から排除するべきだった」

「それは駄目よ、アルヴィン」

 さすがに襲われる前に攻撃をしたら、こちらが犯罪者になってしまう。

「だが、怖かっただろう?」

「アルヴィンがいてくれたから、平気よ。それに、彼はわたしに近寄ることもできなかったわ」

 怖かったのは、ダニーではない。

 彼の背後にいる、得体のしれない何かだ。

 それを伝えようとしたが、警備兵が近寄ってきたので、アルヴィンの誘導通りにその背後に隠れる。被害者が公爵令嬢とその守護騎士であることもあって、警備兵は丁寧に事情を尋ねた。

 セシリアはアルヴィンの背後から、遠目から姿を見て怖いと思ったこと。裏門から入ろうとしたとき、彼と目が合ってしまい、そのあと急に追ってきたことをゆっくりと話した。

 さすがに襲撃された直後なので、彼らは護衛を申し出てきたが、セシリアはアルヴィンがいるから大丈夫だと断った。 

 警備兵たちはその話をさらに上に伝えるべく、去っていく。

「部屋に戻ろう」

 アルヴィンはそう言って、セシリアの手を取る。

「でも、授業は……」

 今日は初日なのだ。交流会に続いて欠席してしまうと、ますます行きにくくなってしまう。

 でも、おそらく今日の授業は中止になるだろうと言われて、納得する。

 さすがにこんな事件が起こったのだ。生徒たちの安全のためにも、今日はそれぞれの部屋で待機になるかもしれない。

 せっかく袖を通した制服も、すぐに着替えることになってしまった。

 侍女に事情を簡単に説明して着替えをすませ、応接間のソファーに腰を下ろして背伸びをする。

(今日の襲撃も、イベントだったのかなぁ……)

 襲われたにも関わらず、のんきにそんなことを考えていられるのは、やはりアルヴィンの存在が大きい。彼は剣も使うが、大抵の敵なら先ほどのように接近さえ許さずに倒せるのだ。

(でも、魔族が相手なら? 魔族は人間よりも簡単に魔法を使うし、魔力もかなり強いわ)

 アルヴィンは、魔族と戦っても無事でいられるだろうか。

 そう考えたとき、セシリアが先ほどから感じている不安は、彼の身を案じていたからだと気が付いた。

 ゲームの内容はよく覚えている。

 悪役令嬢セシリアの罪をすべて暴き、彼女を断罪して修道院に送るまでが、ゲームの第一部だ。だからセシリアが悪役令嬢にならなければ、第二部は始まらないと思っていた。

 でも現実は、まだ第一部さえ始まったばかりだというのに、もうあの恐ろしい魔族の影を感じる。

 しかも第二部は、第一部の恋愛中心の学園生活とはまったく違い、ほとんど戦闘ゲームだ。ヒロインは毎日のように魔族の配下と戦い、国中を転戦していた。仲間たちも傷つき、攻略対象ではない仲間は、死なないまでも戦闘不能になってしまい、何度も入れ替わっていたくらいだ。

 それなのに、今のセシリアにとって仲間といえる存在はアルヴィンだけだ。

(ゲーマーとしては、その難易度の高さに燃えたわ。でも、それが現実になるかと思うと……)

 アルヴィンが傷ついてしまうかもしれないと思うと、たまらなく怖い。

「セシリア」

 自らの肩を抱いて身を震わせたセシリアに、背後からアルヴィンが声を掛ける。

「少しは落ち着いたか?」

「……うん」

 心配を掛けたくなくて無理に頷いたが、様子が変だと見抜かれているようだ。

「あの男が恐ろしかったか?」

「ううん、違うの。たしかにこっちに向かって走ってきたときは怖かったけど、すぐにアルヴィンが倒してくれたから大丈夫だったわ」

「では、何を恐れている?」

「……」

 セシリアが口を閉ざしてしまったのは、どうやって話したらいいのか、わからなかったからだ。

 自分はゲームの内容を知っているから、魔族の存在を知ることができた。でもそれを、どうやって伝えればいいのだろう。

 黒い瘴気も魔族の存在も、ゲームで得た知識だ。きちんと示せるだけの、根拠がない。

「大丈夫よ。ただ昨日から色々なことがあって、少し疲れただけ」

 だから、そう言って笑うことしかできなかった。

 アルヴィンに嘘を言ってしまったのは、初めてのことかもしれない。

 でもセシリアが不安に思い、案じているのはアルヴィンのことだ。

それを上手く本人に伝える術がないことに焦燥を覚えながらも、心配させないように笑うしかなかった。


 学園は、一週間閉鎖されることになった。

 事件当初の状況が知りたいと、アルヴィンは何度も学園に呼び出されていた。セシリアに声が掛からなかったのは、襲撃のショックで寝込んでいるとアルヴィンが言ったからだ。

 だからこの日も、セシリアは部屋で魔法書を読んでいた。

 学校はまだ始まっていないが、もう学生であることには変わりはない。しっかりと勉強をして、学校の再開に備えなければならない。

 ふと、誰かが部屋に近づいてくる気配がして、顔を上げた。

 まだ出かけたばかりだ。アルヴィンではないだろう。

 セシリアは侍女に対応を頼み、寝台に籠ることにした。アルヴィンが不在のときに、誰かと会うつもりはない。だが、来客の対応に向かった侍女は、困り果てた様子で戻ってきた。

 彼女のこんな顔を見るのは、二度目だ。

(まったく……。面倒ね)

 また王女か、それとも王太子か。

 セシリアはうんざりした顔をしないように気を付けて、来客が誰だったのか侍女に尋ねる。

「あの、アレク王太子殿下です。先日の事件のお詫びをしたいとおっしゃっておりました」

「殿下が?」

 もし王女なら、気分が悪くて臥せっていると告げてもらい、あとでお詫びの手紙を送ればいいと思っていた。

 だが、王太子となるとそうもいかない。しかも、相手の要件は謝罪だ。会わずに帰すわけにはいかないだろう。

(アルヴィンが不在のときに来るなんて……)

 仕方なく、セシリアは寝台から起き上がる。

 ひとりの侍女には王太子を応接間まで案内してもらい、その間にもうひとりの侍女に急いで身支度を整えてもらう。

 王太子を待たせてしまうことになるが、急に訪れた向こうにも非がある。先触れくらい出せなかったのだろうか。

 ようやく正装に着替え、アレクを待たせている応接間に移動する。

 そこには、ソファーに腰を下ろしてどこかぼんやりとしているアレクと、王太子とふたりきりになってしまい、どうしたらいいかわからずに困惑している侍女の姿があった。

「お待たせしてしまい、申し訳ございません」

「いや、私の方こそ突然訪れてしまい、すまなかった」

 アレクはそう謝罪したあと、思い詰めたような顔をして俯く。

話をこちらから切り出すわけにもいかず、セシリアは静かに待つことしかできなかった。

「ダニーのことも、すまなかった。あれは、私の責任だ」

 やがてアレクは、声を振り絞ってそう告げた。

「あの後、しばらく傍を離れるように、ふたりに告げたのだ。私を思ってくれるのは嬉しいが、自分よりも高位の令嬢に敵意を剥き出しにするなど、許されることではない。互いに少し距離を置けば、冷静になれると思ったからだ」

「……」

 セシリアは溜息をつきそうになり、それを押し殺す。

 ダニーが暴走したことから考えても、きちんと経緯を説明せずに、ただ傍から離した可能性が高い。

 色々と問題はあるが、王太子に対する忠誠は何よりも強い男である。何の説明もなく放逐され、それをセシリアとアルヴィンのせいにして思い詰めるとは、思わなかったのだろうか。

 でもまさか王太子が謝罪しているのに、その通りだと頷くわけにもいかない。

「殿下のせいではございません。それに、わたしはアルヴィンが守ってくれたので、無事でしたから」

 にこりと笑ってそう言うと、アレクは呆然とセシリアを見たあと、少し頬を染めて俯いた。

「君は、優しいね。ダニーに襲撃されるなんて怖かっただろうに、こうして私を許してくれる」

「……いえ」

 王太子相手に、許していませんと言える貴族がいるだろうか。そんなことを考えているうちに、彼は勝手に語り出した。

「いずれ王になる者として、臣下がもし道を誤ったら、厳しく罰しなければならない。それはわかっている。だが、もともとは私のせいだ。それなのにダニーは、学園を追放されるだけではすまないかもしれない」

 それは当然だと、セシリアも思う。

 王族も通う学園で剣を抜いたのだ。普通に犯罪者として、投獄されると思われる。

「臣下でもあるが、友だった。それなのに、私のせいで……」

「……殿下」

 アレクはこの国の王太子だが、前世の自分から見るとまだ子供の部類だ。まだ心も身体も不安定で、彼を支える補佐が必要なのだろう。

 それでも、思ってしまう。

 今のアレクよりも、十歳のアルヴィンの方がしっかりとしていた。

 あのときのアルヴィンこそ、まだ保護を必要とする子供だったのに。

 でも彼は身体の痛みも心の傷もひとりで抱え込み、さらに助けてほしいと言ったセシリアを守ってくれた。セシリアが彼の過去を知ったのは、アルヴィンが自力ですべて乗り越えたあとだった。

 セシリアのお陰だと彼は言ってくれたが、何もできなかったという思いが強い。

 そんなアルヴィンを傍で見てきたせいか、アレクがとても弱々しく、頼りなく見えてしまう。

 慰める言葉も出てこなかった。

 あれが、王太子ルートのイベントだったのかもしれないと気が付いたのは、彼が帰った直後のことだ。

 皆の前では完璧な王太子が、ヒロインの前では、弱さや本音を語る。

 ヒロインはそれを慰め、支えていくうちに、ふたりの間には恋心が芽生えていくというイベントだった。

(下手に慰めなくて、よかった……)

 セシリアはほっとして、深く息を吐く。

 アルヴィンのことを思い出さなければ、つい落ち込んでいる彼がかわいそうになって、慰めていたかもしれない。

(傍にいなくても、守ってくれたのね)

 もうすぐ帰って来るだろう彼に、王太子が訪ねてきたことを話さなくてはならない。きっと怒るだろうが、アルヴィンのお陰で大丈夫だったと伝えよう。

 セシリアは緊張していた侍女を労うと、窮屈な正装を脱いでしまおうと、立ち上がって寝室に向かった。


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