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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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19/64

歓迎できない訪問者

 いよいよ明日から授業が始まる。

 セシリアは、もう一度教科書を読み返してみたり、貴族の交友関係を復習してみたりして過ごした。

 落ち着かない様子のセシリアを、アルヴィンは傍で見守っている。

「そんなに緊張するものか?」

「……うん。今まで、他の貴族の人たちと、まったく交流していなかったから」

 普通なら親がお茶会など開催して、ふさわしい家柄の子供を招待してくれるはずだ。

でも、セシリアの両親は他人にまったく興味がない。だからセシリアはお茶会を開催したことも、参加したこともなかった。

 しかも入学試験後の交流会では、ヒロインの存在にショックを受けて倒れてしまった。

 病弱で気弱な公爵令嬢だと思われているに違いない。

 さらに憂鬱なのは、ヒロインであるララリがセシリアと同じBクラスだったことだ。

(ヒロインはたしかAクラスだったはず。どうして今回はBなの?)

Bクラスで、トップクラスの魔力を持つ王女殿下とライバルとか、あり得ない話だ。魔力はそれなりに強いはずなので、もしかして筆記試験ができなかったのかもしれない。

(去年男爵家に入ったばかりで、勉強する余裕はなかったのかもしれない。でもヒロインなんだから、もうちょっと頑張って……)

 それに、少しはゲームの知識も役立つのではないかと思っていたが、想定外のことばかり。どうしたらいいのかわからずに、戸惑っていた。

(しかもヒロインとはなるべく接触したくないのに、同じクラスだなんて……)

「セシリア。何を不安に思っている?」

 思い悩んでいるセシリアに、アルヴィンがそう声をかける。

 授業やクラスメートのことだけではないだろうと言われて、困ったように笑う。

「アルヴィンには、お見通し?」

「当然だ。セシリアのことはよくわかっているつもりだ。不安があるなら言ってほしい」

「……どうやって伝えたらいいのか、わからないの」

 自分が転生者で、ここはゲームの世界みたいなんですとは、なかなか言えるものではない。

「すべてを話す必要はない。セシリアの不安を消すにはどうしたらいいか、それを教えてくれ」

 困った様子のセシリアを見て、アルヴィンはそう言ってくれた。

「わたしの不安を……」

 そう言われてみて、よく考えてみる。

 不安なのは、ヒロインによって破滅させられること。

 自分の破滅に、アルヴィンを巻き込んでしまうかもしれないことだ。

 彼女にはできるだけ関わり合いになりたくないと思うが、同じクラスなら何かと接する機会もあるだろう。

 それに、ヒロインはアルヴィンに興味を持っていた。

 でもアルヴィンはこのゲームの攻略対象ではない。ヒロインのものではないのだ。だから、彼には関わらないでほしい。

「アルヴィンがずっと、わたしの傍にいてくれること、かな?」

 離れないでほしいのは、心。

 ヒロインなどには惑わさずに、ずっとセシリアの味方でいてほしい。アルヴィンさえいてくれたら、他の誰に嫌われてもいい。

 そんな思いで伝えると、彼はそんなセシリアの不安を吹き飛ばすように、優しく笑う。

「そんなことでいいのか?」

「大事なことよ。だって、わたしは公爵家の娘だけど、Bクラスの平凡な生徒でしかないわ。でもアルヴィンは違う。王女殿下さえ凌ぐ魔力を持っているのよ。ヒロイン……、じゃなくて、あの子みたいに、興味を持つ人がたくさんいるかもしれない」

 セシリアが不安に思っているのは、どんなに気を付けていても、ゲームのように破滅してしまうかもしれないこと。でもこうして口にしてみると、まるで恋人が心変わりすることを恐れている少女のようだ。

「ええと、違うのよ。わたしが怖いのは……」

 それに気が付いて慌てて言い訳しようとするが、うまく言葉が浮かんでこない。困惑するセシリアの手を、アルヴィンはそっと握った。

「セシリア」

「え?」

「これは、お前を守るためのものだが、お前を縛る鎖ではない。もし魔力を開放したほうが有利だと思ったときは、迷わず外せ。セシリアは俺よりも優れた魔力を持っている。自分を貶める必要はまったくない」

「……アルヴィン」

 乙女ゲームのことを思い出してから、どうもネガティブになりすぎているようだ。セシリアはアルヴィンの手をそっと握り返した。

「そうね。わたしらしくなかったわね。うん、もう大丈夫。ありがとう、アルヴィン」

そう言って微笑んだとき、侍女がセシリアを訪ねてきて、来客を告げた。

(誰かしら?)

 学園に知り合いは誰もいないはずだ。

 少しだけ警戒していると、もうひとりの侍女が対応している声が聞こえてきた。来客は、何か伝言をして帰ったらしい。

「セシリア様」

 戻ってきた侍女は、困惑した様子でセシリアに声をかける。

「誰でしたの?」

「あの、王女殿下からお言付けが……」

先ほどの来客は、何と王女殿下の侍女だったらしい。

「王女殿下が?」

「はい。これから王女殿下がいらっしゃるそうです。セシリア様にお話があるそうで……」

「え?」

 いくら王女とはいえ、伝言だけで訪れるのは少し乱暴だが、まさか拒否するわけにはいかない。セシリアは急いで部屋着から訪問着に着替えをして、王女を迎える準備を整える。

「アルヴィン、一緒にいてくれる?」

「もちろんだ」

 彼もまた、守護騎士としての正装に着替えている。

 黒い騎士服に、ブランジーニ公爵家の紋様が入ったマントを肩に掛けた姿は、見慣れているはずなのに、つい見惚れてしまうくらい似合っている。

(王女に見せたくないなぁ……)

 つい、そんなことを思ってしまう。

 ヒロインのライバルだった王女のミルファーは、物静かで大人びた少女だった。悪役令嬢のセシリアの暴言も黙って聞き、むしろ憤る守護騎士を宥めていた。

 とてつもない魔力を持つセシリアを、怒らせるわけにはいかないと思っていたのだろう。自身の感情よりも、王女としてすべきことを優先させる。

 そんな王女だった。

 だが今は、セシリアの魔力は王女よりも低い。

 公爵家で、しかもあの父の血を引いているにも関わらず、兄に続いてBクラスなのだ。セシリアが嫌味を言って蔑んだように、王女に何か言われるかもしれない。

 そう思うと、つい身構えてしまう。

(自業自得よね。セシリアだって、王女を散々貶めたもの)

 でもそれは、悪役令嬢のセシリアであって、今の自分ではない。そう考えると、どこまでが自分なのかわからなくなる。 

「大丈夫だ」

 きつく握りしめた両手の上に、アルヴィンの手が重なる。

「俺がいる」

「……うん」

 繋いだ手から伝わる温もりに、心が落ち着いていく。

「後ろに隠れていればいいと、言ったはずだ」

「駄目。相手が女性なら、わたしの出番よ」

「そうなのか?」

 アルヴィンと王女があまり接触しないように、頑張らなくては。

そう思うと勇気がわいてきて、セシリアは力強く頷く。

「ええ、もちろんよ」


 だが、やがてセシリアの部屋を訪れたのは、王女だけではなかった。

 戸惑いながらも侍女が案内してきたのは、複数の人間。

「……」

 王女であるミルファーは、侍女も守護騎士も連れていない。でもその背後に、三人の男が立っていた。

 部屋に入ってきた彼らの視線がセシリアに向く前に、アルヴィンが立ちはだかり、彼らの視線から覆い隠してくれる。

「王女殿下おひとりと、伺っておりましたが?」

 セシリアを庇ったアルヴィンは、鋭い視線を王女に向ける。酔っ払いの暴漢さえ退けた視線に、王女はびくりと身体を震わせた。

「不敬だぞ! 守護騎士ふぜいが!」

 そう怒鳴ったのは、王太子が引き連れてきた男性のうちの、ひとり。

(ああ、見たことがある……。王太子の側近の、騎士団長の息子と、もうひとりは魔導師団長の息子だわ……)

 どちらもヒロインの攻略対象だ。

 ついでに名前やら生い立ちやら、色々なことを思い出した。

 王太子の名は、アレク。

 金髪碧眼の王子様で、魔力もそれなりに高い。

 乙女ゲームのメインヒーローとして、誰からでも好かれるように、いかにもな外見と穏やかな性格をしていたように思う。

 常に王太子として皆の見本になれるように努力を続けていて、それに気が付いたヒロインが傍で支えてあげるというストーリーだった。

(完璧な王子様が、自分にだけ本音や弱さを見せるってイベントが多かった気がする)

 彼は悪役令嬢のセシリアと婚約していたから、国のためと思う気持ちと、ヒロインを愛する気持ちが葛藤して苦しんでいるという、設定だった。

 その割にはヒロインと堂々とデートをしてみたり、夜会のパートナーにヒロインを指名してみたりと、やりたい放題だった気がする。そうしなければゲームが進まないのだから、仕様といえばそれまでだ。

(でもあれは、悪役令嬢が怒っても仕方がないって、思ったこともあったような)

 そうして、今、アルヴィンに噛み付いているこの男。

 騎士団長の息子である、ダニー・マゼー。

 爵位は伯爵で、剣技に優れ、いずれ父の後を継いで騎士団長になると期待されている男だ。セシリアの兄と同じくらい逞しく、身体を鍛えることが趣味だという。

 日に焼けた肌に、色あせた金色の髪。澄んだ緑色の瞳で、なかなか整った顔立ちをしている。

 とにかく王太子に対する忠誠心が高く、攻略が難しいキャラクターだった。だが、ヒロインに対する想いを自覚してからは一途で、ヒロインの足もとに跪き、剣を捧げるシーンはそれなりに好評だったと記憶している。

 イベントも、ヒロインが魔物やセシリアの手の者に襲われているところを守るといった、戦闘系が多かった。

 もうひとりは、魔術師団の団長の息子、フィン・アコース。

 長い緋色の髪に、青い瞳。

 爵位は侯爵で、整った顔立ちをしたイケメンだが、ややナルシスト。

 さらにヤンデレ気質があり、選択肢を間違えるとヒロインを自分の屋敷に監禁してしまう。さらにバッドエンドでは、彼はセシリアに殺されたヒロインの死体を持って、行方をくらますのだ。

(なかなか癖のあるキャラクターだったわね)

 こういう人とは現実では関わり合いたくないと思っていたが、残念ながら今、彼は目の前にいる。

(何をしにきたのかしら?)

 王太子を含めた攻略対象とは、できれば関わりたくない。

 それなのに一度に三人もセシリアの部屋を訪れるなんて、悪夢としか言いようがない。アルヴィンの背後に隠れ、服の裾をぎゅっと掴む。


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