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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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異なる未来

 よくよく考えてみれば、今のセシリアは「悪役令嬢」だったセシリアとは、大きくかけ離れている。

 両親や兄に愛されていないことなど、もう知っている。

 それでも傍には常にアルヴィンがいてくれるから、孤独を感じることはない。

 あの悪役令嬢は桁外れの魔力のせいで増長し、婚約者である王太子や王女にまで傲慢に振る舞っていた。

 でも今のセシリアはアルヴィンの腕輪のお陰で魔力も小さく、そのため、おそらく王太子の婚約者になることはない。

 考えてみれば、すべてアルヴィンのお陰だ。

 まるでセシリアが悪役になって破滅してしまうことを防ぐために、彼が手を貸してくれているようだ。

(どうして、わたしを助けてくれるの?)

 不思議に思って彼を見上げると、アルヴィンはその視線に気が付いて、笑みを浮かべる。

「少し、落ち着いたようだな」

「ごめんなさい。急に泣いたりして」

 慌てて涙を拭う。

「謝る必要はない。ただ、何がセシリアをそんなに悲しませた?」

 労わるような表情が、急に鋭さを増す。

 もし、誰かがセシリアを泣かせたのなら容赦はしない。そう言いたげな様子に、慌てて首を振る。

「違うの。誰かのせいってわけではなくて。ええと……」

 さすがに、今思い出したばかりだ。

 すべてを打ち明けるには、まだ心の整理がついていなかった。

 少し考えてから、今は、予知夢のように脳裏に浮かぶ記憶のことだけを話すことにした。

「何だか最近、変な夢を見てしまって。それは予知夢というか、これから起こることのようなの」

「予知夢……」

「ええ。さっきアルヴィンに声を掛けてきたあの子も、わたしの夢に出てきたわ。夢の中のわたしはとても性格が悪くて、自分の婚約者がその子を好きになったからと言って、ひどい嫌がらせを……」

「婚約者?」

 立場の弱い下位貴族の令嬢に嫌がらせをしていたなんて言ったら、さすがに嫌われてしまうかもしれない。そう思っていたのに、アルヴィンが反応したのは婚約者という言葉だった。

「セシリアに婚約者がいるのか?」

「その夢の中では、いたわ」

「それは、誰だ?」

「王太子殿下よ。夢の中では、わたしは魔力を隠していなかったから、強い魔力を見込まれて王太子殿下の婚約者となったの」

 アルヴィンはそれを聞くと、目を伏せる。

「俺は……。その夢の中で、どうしていた?」

「アルヴィンはいなかったわ。その夢はきっと、アルヴィンと出逢わなかったわたしが辿っていた未来よ」

 自分が傍にいないと言われて、アルヴィンは切なそうに目を細める。

「その夢の結末は?」

「我ながら、自業自得としか言えない最期だったわ」

 王太子の想い人を嫉妬から殺害してしまい、修道院に護送される途中で殺されたことを伝えると、アルヴィンは怒りを抑えるように、両手をきつく握りしめる。

「俺が傍にいれば、セシリアをそんなふうに死なせたりしなかった」

「アルヴィン?」

 まさか彼がそんなことを言うとは思わず、セシリアは驚くよりも戸惑って、そっと握りしめられているアルヴィンの手に触れる。

「夢の中のセシリアは、罪人だったのよ。ひとりの女性を殺めているわ」

「たとえどんな罪を犯そうと、セシリアであることに変わりはない。むしろ王太子ともあろう者が、婚約者がいるにも関わらず、他の女性と懇意になるなど、許されることではない」

「それは……。たしかに」

 恋愛ゲームだから仕方がないと言っても、アルヴィンには通じないだろう。だからセシリアは、今の価値観に合わせて頷いた。

 人の心を縛ることはできない。

 王太子がヒロインに惹かれた心を咎めることは、誰にもできないことだ。

 だが彼は王太子という立場にも関わらず、表立ってヒロインと交流し、好意があることを隠そうともしなかった。

 それがセシリアの嫉妬心を煽り、暴走してしまうきっかけとなる。

「俺には、そのセシリアだけが悪いとは思えない」

 その言葉を聞いて、思う。

 きっと今のセシリアは大丈夫だ。何があっても道を踏み外すことはない。

(だって、こんなにもわたしを信じて、大切にしてくれるアルヴィンがいるもの)

 どんな目に合っても、この先にどんな困難が待っていたとしても、希望を失うことはないだろう。

「どうしてアルヴィンは、そこまでわたしを信じて、助けてくれるの?」

 気が付けば、先ほども思っていたことを口にしていた。

「何を言っている」

 アルヴィンはセシリアの金色の巻き毛に指を絡ませて、笑う。

「最初に俺を助けてくれたのは、セシリアだろう? 忘れてしまったのなら、何度でも言う。あのときからずっと、俺はお前のものだ」

 耳もとで囁くように言われてしまえば、さすがにセシリアも頬を染める。

「ありがとう……」

 そんなに綺麗に笑わないでほしい。セシリアは赤くなった頬を隠すようにして、俯いた。

「もう五日後には学園生活が始まるのね」

 何だか恥ずかしくなって、話題を変える。

「そうだな。おそらく魔力の強さでクラスが決められているだろうから、セシリアが王女と同じクラスになることはないだろう」

「ええ、王女殿下ならAクラスでしょうね。わたしはBかしら?」

 守護騎士は個々の実力に関係なく、主と同じクラスになる。一番強い魔力を持っているアルヴィンが、セシリアと同じBクラスというのも申し訳ないような気持ちになるが、当の本人はまったく気にしていなかった。

 それに王女と関わりがないのなら、王太子と会うこともないだろう。

 妹想いの王太子は、学年が違うのによくAクラスに様子を見に来ていた。

(もっとも、セシリアが王女殿下を見下していたから、心配で通っていたのだと思うけれど)

 今思えばいくら王太子の婚約者とはいえ、王女に対して許される態度ではない。

 セシリアは本当に思い上がっていた。

 そして、それを許してしまったのは、この国の魔力至上主義だ。

 セシリアが変わったことで、これから先の未来も変わる。

 そう信じているけれど、心配でもある。

「不安か?」

「……少し。夢の中に出てきた人と接触するのが、怖くて」

 正直に打ち明けると、アルヴィンは頷いた。

「そうか。これからのことが心配なら、ずっと俺の後ろに隠れていろ」

「え?」

「世間知らずで気弱なお嬢様になって、誰とも接しなければいい。俺がすべて対応する」

「そんなこと、できないわ。あなたを盾にするなんて」

「俺はお前の守護騎士だ。それに、セシリアも俺を守ってくれると言っただろう?」

「え?」

「恋人が常に背後に寄り添っている男に、近寄る女はいない」

「あ……」

 アルヴィンを令嬢たちから守るために、恋人同士という設定にしたことを思い出す。

 たしかにヒロインはセシリアではなく、アルヴィンに声を掛けてきた。

 でも彼は、乙女ゲームの攻略対象ではない。だから近寄らないでほしいと、強く思う。

「互いにそれが一番……なのかしら?」

「ああ、そうだ。だからセシリアは絶対に、俺から離れないように」

 彼はそう言うと、まだ涙の跡が残る頬に触れる。

「俺はただの守護騎士だが、学園内では身分は不問という規則がある。たとえ王太子が出てきても大丈夫だ」

「……うん。でも、無理はしないでね」

 こうなったら誰も近寄れないくらい、ぴったりと寄り添っていようと思う。

 それが互いを守ることにも、繋がるのだから。

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