表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/64

恋と魔法の関係性

「そんなことは……」

 いくら何でも、それはあり得ないと思った。

 アルヴィンの魔力は、もしかしたらこの国の王族よりも高いくらいだ。

 公爵家とはいえ、ただの貴族の令嬢でしかないセシリアが、それよりも高い魔力を持っているなんて考えられない。

(でも……)

 それでも、以前のアルヴィンから魔力をまったく感じなかったのは事実だ。

 セシリアは手首に嵌めている腕輪を見つめる。

「これは、本当にアルヴィンが付けていたものと同じなの?」

「もちろんだ」

「今まで魔力は高いかもしれないと言われてきたけど、そこまで高いとは言われなかったわ」

「それは、魔力の制御がうまくできなかったからだ。あの家庭教師もそうだが、他人の魔力の強さを、成功した魔法でしか測れない者は多い」

「魔法がほとんど成功したことがなかったから、漠然とした評価しかなかった、ということ?」

「ああ、そうなる」

「……」

 セシリアは混乱したまま、両手を頬に押し当てて考え込む。

 いくら強い魔導師が優遇されるとはいえ、さすがに王族よりも高い魔力を持っているのは厄介でしかない。

過ぎた力は、恐怖となる。

 忌避されるか、利用されるか。

 そのどちらかだ。

 アルヴィンも、強すぎる魔力のせいで疎まれたと言っていた。

 その言葉以上の扱いだったことは、初めて会ったときの様子から想像することができる。

 痛々しいほど痩せた身体。

 天使のように美しかったまだ十歳の子供を、あんな状態にするなんて信じられないと思っていた。

 でも、今となっては他人事ではない。

 あのまま学園で魔法を学んでいれば、いずれセシリアの魔力が尋常ではないと知れ渡っていただろう。

 そうなったら、どうなっていたか。

(……恐れられていた。誰もが遠巻きに見ていて、けっして近づこうとしなかったわ)

 いつもの予知夢のようなものが、頭に浮かぶ。

 その中では、セシリアはあまりにも強すぎる魔力のせいで、王太子の婚約者となっていた。

 でもそのセシリアは高慢で、自分よりも魔力の低い者を見下していた。

 自分の兄や、王太子の妹である王女に対しても、ひどい態度をとっていたくらいだ。取り巻きのような者はいたが、当然のように友人と言えるような者は、ひとりもいなかった――・

「ありがとう、アルヴィン」

 自然と、彼に対してそう言っていた。

 この腕輪がある限り、そんな未来はこないと確信することができる。

「お陰で、普通の学園生活を過ごすことができそうだわ」

 アルヴィンはセシリアの感謝に笑顔で答えたが、ふとその表情が曇った。

「……少し、気になることがある」

「え?」

 首を傾げて尋ねると、アルヴィンは複雑そうにセシリアを見つめる。

「セシリアの魔力は強すぎるほどだ。制御も、そのうち覚えるだろう。魔法を理解していないわけでもない。それなのに魔力が馴染んでいない」

「……なんとなく、言いたいことはわかるわ」

 思えば、セシリアも不思議だった。

 どんなに魔法の知識を積み重ねても、魔力の制御を覚えようとしても、なぜか実践することができない。

 自分の魔力を感じることはできるが、それを自分自身のものだとなかなか実感することができなかった。

「わたしには、魔法の才能がないってことかしら……」

「いや、そんなことはない。セシリアには間違いなく、魔法の才能がある。だが、違和感があるのもたしかだ。……以前、似たような症状を訴えている者の手記を読んだことがある」

「手記? どんな?」

「自分を、異世界からの転生者である、と語っていた男のものだ」

「!」

 セシリアは驚いて、アルヴィンを見つめた。

(まさかわたしの他にも、この世界に転生したひとがいたなんて)

 その驚きのまま、質問を重ねる。

「どんな人? どこに住んでいるの? その人も、魔力が馴染まないと言っていたの?」

「……百年ほど前に書かれたものだった。もう亡くなっている」

「あ……」

 同じ転生者に会えるかもしれない。

 そう思っていたのに、叶わない夢だったようだ。俯くセシリアを慰めるように、アルヴィンがその背に手を添える。

「彼もまた、強い魔力を持っていたようだ。だがそれを使いこなすことができずにいた。それがなぜなのかというと、彼曰く、魔法を信じられなかったそうだ」

「信じられない?」

「そうだ。彼が以前生きていた世界には、魔法というものがなかったらしい。その記憶があまりにも鮮明だったせいで、魔法という力を信用できなかった」

「魔法がない世界に生まれた……」

 それはセシリアも同じだった。

 ただ百年前と違い、マンガやゲームなどを通して、魔法は身近なものになっている。

(その人よりはマシだと思うけど、でも心の底では信じ切れていないのかな……)

 だからこそ、魔力がこの身に馴染んでいないのかもしれない。

「えっと、その人はずっと魔法を使えないままだったの?」

「いや、何年か後には使えるようになったらしい。手記によると、この世界の人間を愛し、ここで生きる決意をしたら、自然と魔力が身体に馴染んでいったと記録されていた」

「この世界の人間を、愛する……」

 アルヴィンは、そんなことで魔法を使えるようになるのかと、疑っている様子だった。

 でもセシリアにはわかる気がする。

だって今でも、前世で暮らしていた日本が懐かしい。

 戻れるのなら、戻りたい。そう思っている。

 それでも百年前の彼のように大切な人ができたら、この世界で生きる覚悟も決まるだろう。

(そうしたらわたしも、魔法を自在に使えるようになるのかしら)

 いつか、そんな日が来るといい。

 そう思っている自分に気が付いて、セシリアは微笑んだ。

(もちろん、破滅するのは嫌だから、王太子殿下以外の人よね)

 もうあの予知夢の通りになるとは思えないが、避けられるものなら避けたいと思う。

 魔力も抑えているし、おとなしくしていればきっと大丈夫だ。

「セシリアには異世界の記憶なんてないと思うが、症状はほぼ彼と同じだ。だから、もしかしたら彼のように、恋をすれば変わるかもしれないな」

 前世の記憶があることを知らないアルヴィンは、そんなことを言う。

「そうね。期待しておくわ」

「誰か、心当たりはいないのか? 気になる相手とか」

 からかうように言われて、セシリアは笑う。

「いないわよ。だって今のわたしが知っている年の近い異性なんて、お兄様とアルヴィンくらいよ?」

「……」

「アルヴィン?」

「いや、それならそれでいい。まだ勝負はこれからだ」

 何の勝負か気になったが、彼があまりにも決意に満ちた顔をしていたので、何も言えなかった。

(とにかく、今は勉強のほうを頑張ろう。魔法は、これから徐々に頑張っていくしかないわね)

 百年ほど前に、この世界に生きた彼のことを思いながら、セシリアは教科書を開いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ