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【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

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過去と未来

 王立魔法学園に入学するまでは、まだ二か月ほどある。でも、それまでにやらなければならないことは山積みだった。

 このシャテル王国では、良い家柄ほど魔法の教育には力を入れている。

 だから高位の貴族は、学園に入学する前にはほとんどのことは学び終えている者ばかりだと聞いていた。

 セシリアにも、十歳のときから家庭教師がついている。

 それなのに魔力が強すぎたせいで魔力制御がうまくできず、まだ基本的な魔法が身についていない。

 このままでは、ブランジーニ公爵家の名に泥を塗ってしまう。

 アルヴィンから贈られた腕輪で魔力が小さくなっている今こそ、魔力制御を身につけ、他の令嬢たちと同じレベルまで勉強を進めなくてはならない。

(あと二か月。死に物狂いで頑張れば、何とかなりそうね)

 家庭教師の声をひと言も聞き漏らすまいと、授業に集中する。

 魔力が強すぎて目立っても面倒だが、低すぎても侮られて面倒なことになる。

 そこそこの魔力に、高い学力。

 それが理想だった。

 だから家庭教師が帰ったあとも、図書室で勉強を続けていた。

「あまり根を詰めすぎないようにしろ」

 魔法書を読むセシリアの傍に座ったアルヴィンが、少し心配そうに言った。

 今まで守護騎士として傍に付き従うだけだったアルヴィンも、魔法学園に入学するということで、セシリアと一緒に家庭教師から学ぶことになった。

 だがアルヴィンは、わずか二十日ほどで、学園卒業レベルまでの魔法を学び終えた。

 家庭教師が、もう教えることはないと言ったほどだ。今となっては、彼の教本はもう魔法研究者レベルになっていた。

 はっきり言って、魔法の才能が違いすぎる。

(何かもう、ここまで来るとチートって実在していたのねって、言いたくなるわ)

 高い魔力に騎士としてふさわしい剣技。さらに容姿まで完璧となれば、学園でもかなり目立つに違いない。

「アルヴィン、本当に大丈夫?」

「何がだ?」

 不安になって、思わずそう聞いていた。

「このままだとアルヴィンは、学園で知らない人はいないくらい目立つと思うの」

「まあ、この国の貴族ではないことはわかりきっているからな。そんな男が、ブランジーニ公爵令嬢の守護騎士として傍にいる。目立つのは仕方がない」

「あ……」

 言われてみれば、たしかに彼の言う通りだ。でもセシリアが心配しているのは、そのことではない。

「違うの。もちろんその意味でも目立つかもしれないけれど、それはあまり心配していないわ」

 このシャテル王国は他の国よりも貴族の数が少なく、結果として魔法を使える者が少ない。

 さらに、魔力を持つ者が減っているという事実がある。

 だからこの国の貴族ではないとはいえ、ここまで強い魔力を持つアルヴィンを侮る者などいないだろう。

 この国は平和で、国家間の戦争など、百年ほど起こっていない。

 だが、これからもないとは言い切れない。

 魔法の力はとても強いものだ。

 ひとりの魔導師が、戦場の勝敗を変えてしまうこともある。そのため、常にどの国でも強い魔導師を必要としている。アルヴィンの存在を歓迎することはあっても、その逆はありえない。

「むしろ目立ちすぎて、アルヴィンの敵に見つからないか心配になったの」

 正体は知らないが、彼に敵がいることは知っている。

 だからこその、心配だった。

「ああ、それなら問題ない」

 それなのに、あっさりとそう言うアルヴィンを見て、セシリアはますます不安になる。

危険なことはしないと約束してくれたが、自分自身に関することだと、あまりにも返事や態度が軽い気がする。

「もう、アルヴィン。本当に、ちゃんと考えて」

「考えているさ。ただ、もうどうでもいいだけだ」

「どうでもいいって……」

 軽いを通り越して、投げやりにも聞こえる返答に、セシリアは困り果てた。

「セシリア。五年前の俺にとって、居場所をなくすということは、耐えがたいことだった」

 困っている様子に気が付いたのか、彼は静かにそう語り出した。

「居場所?」

「ああ。生まれた国。育った家。両親。それを失ってしまったら、もう生きてはいけないと思っていた」

 セシリアも、五年前のことを思い出してみる。

 ひとりでは何もできない、まだ十歳の少女だった。

 寂しさから家出をしてみたものの、さすがにあのままひとりで生活できるとは思えない。

「そうね。あのときのわたしでも、そう思う」

 同意して頷くと、アルヴィンは言葉を続ける。

「だが今の俺は、国を出ても生きていけるし、両親などいなくても、何の問題はないことを知っている」

 そう言う彼の表情はとても穏やかで、セシリアは不安や焦りが消えていくのを感じていた。

「怒りや恐怖は永遠には続かない。いつしか色あせて、消えていくものだ。あの日の俺の憎しみも怒りも、失った恐怖も、すべて過去のこと。今の俺にとって大切なのは、お前を守り、今までの恩を返すことだ」

 アルヴィンはもう、過去を乗り越えていたのだ。

 それを知り、ようやくセシリアも微笑んだ。

「そう。だったら、心配はいらないわね」

「ああ。俺の生存を知り、向こうから仕掛けてくるなら容赦はしないが、そうでないのなら、もう放っておいてもいいと思っている」

 それに、とアルヴィンはセシリアを見て言葉を続けた。

「俺はお前の存在を隠すために、なるべく目立つ必要がある」

「え?」

 思ってもいなかった言葉に、思わず首を傾げる。

「隠すって、どういうこと? わたしのことは、みんな知っていると思うけれど」

 ブランジーニ公爵に娘がいることは、貴族なら誰でも知っていることだ。今さら隠しても意味はない。

「いや、隠すのは、お前の才能だ。あの家庭教師が無能でよかった。あの程度では、セシリアがどれだけ強い魔力を持っているか、わからなかっただろう」

「無能って……。先生は一応、優秀な方よ?」

 いきなり家庭教師の悪口を言い出したアルヴィンに戸惑い、援護する。でもアルヴィンは眉をひそめた。

「魔法を使わなければ相手の魔力を測れない者を、優秀だとは言えない。だが、今回はそれが幸いだった。セシリアのことが正しく伝われば、大変なことになっていた」

「少し、大袈裟よ? たしかに昔から魔力は高いかもしれないと言われていたけれど、実際、まだきちんと制御することもできないの。アルヴィンのほうがすごいと思うわ」

 短時間で魔法の知識を身につけ、それを自在に使いこなす才能には、少しだけ嫉妬してしまう。セシリアなど、これから学園入学の日まで、勉強漬けの毎日を送らなければならないというのに。

 溜息交じりにそう言うと、アルヴィンは少しだけ、憐れむような目でセシリアを見た。

「お前の弱点は、その鈍さだな」

 そう言って、手を伸ばしてセシリアの腕に触れる。そこには、アルヴィンから贈られた魔力を抑える腕輪が嵌められていた。

「俺がこれを身に付けていたとき、魔力を感じたことがあったか?」

「……ううん。アルヴィンに魔力があるなんて、全然気が付かなかったわ」

「セシリアは今、俺と同じものを付けている。だが、それでも普通の貴族よりは少し高いくらいの魔力がある。つまり、俺よりもずっと、お前の魔力は高い」


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