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この僕にかわいいと思わせるとは、この女、やりおるな

僕は石で完璧に舗装された道を、ぺちぺちと音を鳴らしながら陰鬱な足取りで歩いていた。


アルトラに来るまではミリーが足に保護呪文をかけてくれていた。だから、まるで靴を履いているかのように軽い足取りで歩くことが出来ていたけれど……

どうやら、あの魔法はミリーが近くにいないと効果を発揮しないみたいだ。

熱を吸い込んだ道路がじりじりと僕の足裏を焦がしていくようだ。


周りの視線も奇特なものを見るようで、心がむず痒くなった。

ワンピース一枚ひらひらさせながら裸足で歩いている僕の姿は、子供だからと流してくれる人もいるかもしれない。

でも、やはり場違い感が否めなかった。

その違和感はそもそも、この世界に僕が馴染めているのかという不安も混ざっているけれど。


僕の身体が傷つくことも問題だけど、

僕に同情するような目線ばかりが向けられて、”かわいい”よりも”かわいそう”が上回る状況だけは避けたい。


と一人ぶつくさ現状に怒っていても、僕は裸足のままだ。

でも無一文だしなあ。どこかに転がりこんで「譲ってくださいぃ……」と情けない声をあげて、どこかで恵んでもらえるかもしれない。

けれど、それはあまりにも惨めだ。僕はそんな思いをするために転生したわけじゃない……


「おっとっと。大丈夫?」


急に声をかけられてはっと顔を上げると、僕よりもやや背の高い女性が僕の両肩に手をおいて、心配そうな顔をしている。


考えながら歩いていたからか、目の前の人にぶつかりそうになったみたいだった。

彼女はぶつかる直前に僕を優しく止めてくれたらしい。

大丈夫ですと答えると、にっこりと笑みを浮かべた。


彼女は長い茶色の前髪を手で払って、僕に向き直った。

長い髪を後ろでまとめるための赤いリボンが、真昼間の街中でもよく目立っている。

動きやすそうな服装だけど、長めのスカートが彼女の雰囲気を柔らかくみせているようだった。


彼女は翡翠のように透き通る緑色の目で、じっとこちらを見ていた。

そして僕が本当に大丈夫だと思ったのか、やがてゆっくりと口を開いた。


「よかった。迷子?」


「あー、えっとー……

妹たちが買い物に行っているあいだ、僕は図書館に行こうかなって。

でも、よく考えたら靴を履いてくるの忘れてて……

どうしたもんかなって」


自分でも驚いていた。

ほとんど包み隠さずに、ありのままの情けない話を吐き出していたのだから。

ていうか、靴を履くのを仮に忘れていたとしても、歩き出せばすぐ気付くだろ。


彼女はそんな違和感だらけの話を笑ったりしなかった。


「それは大変だったね……足痛いでしょ?

私がおんぶしてあげる」


「ええ!?

そんな、悪いですよ」


「ううん、悪くない。

あなたが辛そうだから、私に手伝わせてほしいの」


「名前はなんていうの?」


「えっと、最上守羽(もがみしゅう)です

年齢は18歳で、お、女です。僕って言ってるから勘違いしちゃうかもしれないけど」


「あー、守羽ちゃん私と同い年だー!

これも熾天使様のご加護かなあ。

あ、私はカリン。カリン・マトレルカ」


「あの、僕って女の子に見えていますか?」


「うん? もちろん。私が出会った中で……

一番かわいいと思う!」


屈託ない笑顔は、僕よりも年下ながら酸いも甘いも噛み分けたあの姉妹の笑いかたとは違っていた。

まるで笑顔のお手本とでもいうような、文句のない、純粋に僕だけに向けられた笑顔。


僕は、この人の笑顔をかわいいと思った。


「いよいっしょっと」


「重くないですか?」


「ううん、ルトリューを毎日運んでいる私からしてみれば、全然重たくないよ」


「ルトリュー?」


「あれ、もしかしてこの辺の出身じゃないのかな?

ルトリューっていうのはね、私の腕でやっと抱えられるぐらいの大きな果物だよ。

私のお家はルトリューを育てて、それを売って生活しているんだ」


聞くと彼女は、いつもは危ないからという理由で、お家でお留守番しているそうだ。

しかし、今日はたまたま親の付き添いで街に来ていたという。


「アルトラに来るの、本当に久しぶりなんだー

ねえ守羽ちゃん、どこか行きたい所ある?」


「あの、靴屋へ……」


そう言うとカリンは楽しそうに笑った。


「じゃあ、行こっか!」

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