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首都アルトラに着いたけど、僕らは無一文です

「あれがメルン領の首都、アルトラだ」

「へぇー」


僕たちがしばらく街道を歩いているとだんだんと上り道になって、上に城壁のように大きい壁に囲まれたものが見えてきた。

入り口のような門には衛兵が構えていて、そこから階段に伸びている。


「僕たちはあそこを通って大丈夫なの?」


聞くとすこし先を歩いていたミリーが振り返った。


「大丈夫だよ。よほど怪しい格好していなければ、冒険者だって言えば通してもらえるって」


ということは、冒険者という職がきちんと成立する世界なんだろう。

いや、そもそも自分がどういう世界に転生したのか、まるで知らなかった。

そのうち図書館とかで、本を読んでみてもよさそうだ。


「昨日”黄昏の図書館”って言ってたけど、あそこは入れるの?」


「黄昏の図書館はここら一体を統治しているカーリオ家のものだ。一般市民は入れない。

だが、街に図書館ぐらいはあるだろう」


「あ、やっぱり貴族とかいるんだ」


「もちろん各々に大した身分の差もなく、平和にやれている場所もある。

だが大規模に統治するなら、貴族が必要なのかもしれない」


「ふうん、そういうもんか……」


正直僕にとっては実感のない話だったけど……

言ってみれば被支配者階級の代表みたいな奴隷扱いを受けていたマリオンが言うんだから、

貴族も必要悪みたいなものかなと思う。


二人に付いていくと、入口前で衛兵に呼び止められた。


「君たちは、ええっと、冒険者ですか?」


彼らは、僕たちを品定めするように頭のてっぺんからつま先まで視線を動かした。


「そうです」


僕が言うよりも先に、ミリーが衛兵に笑いかける。


「昨日の大きな爆発について知ってますか?

街から見てあちら側で起こったんですけど」


衛兵の一人は、僕らが来た方角を指した。

僕たちは一斉に顔を見合わせて、押し黙ってしまった。

いや黙っちゃダメだよ! 訝しまれないようにごまかさないと。


「いやあ……かわいい僕たちには、とてもとても物騒で関係のない話ですね。ねっ?」


最後を強く発音すると、二人とも神妙な顔をして頷いた。


「まあ、君はそう……ねえ。子供だし。巻き込まれなくてよかったですね。最近ちょっと物騒だから、気をつけてください」


僕たちはお辞儀をして、するっと二人の間を抜けていった。

門から奥に一歩足を踏み出したときに、薄いヴェールを通るような、かなり微量ながらも抵抗があった。

まるで街の内と外の間に空気の壁があるような。


「ん……?」


「どうした?」


マリオンは何も気付いていないのか、それともただ単に慣れているのか。

もしかしたら、見えない魔法障壁でも張られているのかもしれない。


「そう言えば聞いてなかったけどさ、二人って何歳なの?」


二人を見上げて、今まで全く気にしていなかった質問をぶつけた。彼女たちは僕よりも背も手足も長く、すらっとしているから年上だと思っていたけど、どうなんだろう。


「私たちは生まれてから13年になる。双子だが私のほうが先にこの世に生を受けたから、姉というわけだ」


「わたしはお姉ちゃんがお姉ちゃんでよかったと思ってるよ」


ゆるっと表情を緩める二人をぽかんと眺めながら、僕は声にならない驚きをあげた。

まさか、えぇ、年下なんだ……しかもかなり。


「じゃあ僕が一番上なんだあ……

あ、僕は18歳なんだけど、そっかあ」


女の子は成長が早いって言うし、そこまで驚く話ではないのかもしれないけど、あまりにも二人がしっかりとしているから、てっきり成人しているのかと思っていた。


「じゃあ守羽ちゃんが一番お姉ちゃんなんだね」


「私は最初から年上だとは思っていた」


「どこが!?」


僕とミリーが同時に言って、露骨にしまったという顔をしてから、ミリーが軽く舌を出した。


階段を登りきると、そこには噴水のある広場があり、ずらっと家のような建物が並んでいた。上のほうに視線を向けると、お城のような大きな建物が見えている。


「っと、ごめんなさい」


僕たちの間を、フードを被った少女が通り抜けていった。


「っと、ええと、それじゃどうすればいいのかな?」


「まずは滞在証明のために”旋熾亭(せんしてい)”に行こう。

プラウトラに街の一時滞在許可を記録させないと、宿屋に行くことも出来ないからな」


「いや、でもお金持ってないよね」


マリオンは「ああ、そうだった」と声を出して、わかりやすくしょんぼりしてみせた。


「まあまあ、何か簡単な依頼をこなせばいいんじゃないかなあ。お金を稼がないと、この先苦しいもんね」


確かに滞在拠点がなくて、野宿になってしまうと困る。

僕は二人の後ろをついていきながら、まるで初めて都会に来た子供のように、あれこれ眺め回していた。

本当に僕の住んでいる世界とは、全く違うところに来たんだなあ。


街の一角にある大きめの平屋建ての建物には看板がかかっていて、そこには羽根から雫が落ちて、下が燃えているようなマークが書いてあった。


扉を開けると、中にはいくつかのカウンターがあり、周りに椅子や机が島のように設置されていた。

それから大きい掲示板の前には人が集まっている。あそこに依頼が張り出されているのかもしれない。


僕たちは人々をかき分けながら、真正面にあるひときわ大きなカウンターに向かった。

白地に赤のラインがアクセントになっている制服を着た背の高い女性が、僕たちに気付いたらしく声をかけてきた。


「一時滞在ですか?」


「それから、いくつか依頼をこなしたいと思っている」


「りょーかいしましたあ」


彼女は僕たちに向けて手をかざすと、赤色の魔法陣が手元に展開されて、僕たちのプラウトラが光りだす。


「これでおっけーです、どこにでも行ってきてください!!!」


「な、なんかテンション高いですね……」


「テンション高くないとやってられないんですねえ」


人は見かけによらないのかもしれない。

彼女の赤い目が不敵に輝いた。


「主ちゃん、私たちは簡単な依頼をこなしてくる。

その間、街を見回ってみるのはどうだろうか」


僕が興味深そうに見ていたのに気付いていたのか、マリオンはそう提案してきた。


「いいの?」


「任せといてよ。わたしたち姉妹だって、守羽ちゃんほどは強くないけど、やれるんだから」


そう二人に言われては、こちらとしても断る理由がなかった。

僕は二人と別れて旋熾亭(せんしてい)を出て、それから気付く。


「ヤバ、地図ぐらいもらっておけばよかった……」


日差しがジリジリと僕の肌を焼いている。

とりあえず昨日の夜ミリーが言っていたように、魔術書を読みに行ったほうがいいかもしれない。


「ていうか靴、どうにかしないとな……」


僕は裸足の足を眺めて、ぼそりと呟いた。

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