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君たちはかわいい僕の盟友ってワケ

「私たちと隷属の誓を、交わしてくれないか」


「お姉ちゃん!?」


ミリーは途中までじっと話を聞いていたが、隷属の誓という言葉が出ると、飛び上がらんばかりの勢いで驚いてみせた。


「私たちは戦いしか身の立て方を知らない。だからいずれは主のもとで生き、そして死ぬものだと思っている。

君はさっき見せてくれたように、相当に高位の魔法使いのようだ。だから、これは記憶喪失の君につけ込む打算的な提案かもしれない。

自分勝手だとは思っている。だが、これは助けてくれた礼でもあるんだ。私たちを好き勝手に使ってくれて構わない」


マリオンはとても正直に、まっすぐ自分たちのことを話した。

初めて会ったときからずっとそうだ。彼女は生真面目で、嘘がつけない。


「私たち、自由になろうって、奴隷商から逃げたんだよ。それなのに、誰かの奴隷になっちゃうんだったら、また自由じゃなくなっちゃうよ」


「ミリー、守羽は少し変わっているが、悪人ではないだろう」


「いや、うーん……

自分のかわいさを押し付けがましく叫んでくる、変人だとは思うけど。

悪い人じゃないとは思う。けど、けどさあ。やっぱり納得できないよ。急すぎるよ」


思わずぐぅっとうめき声を出してしまう。

二人とも人を勝手に変人扱いして。


いやあ、よくよく考えてみると、確かにヤバいかもしれない。

魔法でビビらせた挙げ句、自分のことをかわいいと言わせているんだもんな。とても正気とは思えない。

むしろ、二人は気を遣って変人扱いで留めてくれているのかもしれない。そう思い至ると、彼女たちの気遣いが胸に染みた。


「あ、あのさ。その”隷属の誓”っていうのは、やらなきゃダメなの?

奴隷契約するってことのように聞こえるけど」


「一方を主人、一方を従属するものとして契約するのが隷属の誓だ。奴隷は命令に逆らうことが出来なくなる。まあ、目に見えはしないが魔法で首輪をかけるようなものだな」


「いや、それはさあ。かわいくないよ。奴隷従えた僕なんて嫌だよ。

友達とかじゃ駄目なのかな」


「本来なら、私たち獣人のような、魔法抵抗の弱い種族を一方的に従えることに使うんだ。私たちは昔から、そうやって飼い慣らされてきた」


そう語るマリオン。ずっと奴隷扱いされ続けている種族がいるなんて、とても悲しいことだ。けれど、何故だろう。彼女からは憎しみや悲しみのような負の感情があまり感じ取られなかった。


「もちろん、私たちにも誇りや信念がある。しかし現実問題として、”良い主君に仕えられるかどうか”もまた、大きなステータスなんだ」


「奴隷として飼われながらも幸せに生きた人。戦場で活躍して名を残した人。

そういう人への憧れは、確かにあるよ」


ミリーはにこやかに言ってみせた。

この人たちなりの価値観があるのだろう。僕がとやかく言えた話ではなさそうだ。


でも、奴隷かあ……かわいくないなあ。

僕はどう返答すべきか困って、押し黙ってしまう。

しばらくして、急に思いついたようにミリーが小さく声を上げた。


「お姉ちゃん、やっぱり自分から奴隷になるの、わたしは反対。

私たちは自由になりたかったんだもん。

でも、”盟友の誓”なら、いいんじゃないかな」


「盟友の誓?」


僕が聞き返すと、マリオンは少しだけ考える素振りを見せたあと、口を開いた。


「盟友の誓は、お互いを生涯の友として認め、誓いを立てるものだ。隷属の誓のような強制力はないが……」


「それならいいんじゃない?

ミリー、それは破棄することも出来るの?」


「うん。隷属の誓は主人しか破棄できないけど、盟友の誓は双方が破棄できるよ。簡単な誓を立てて、それに全員が合意すればいいの」


「どうやるの?」


「全員が武器を掲げ、誰かが誓を宣言する。それに同意すればいいだけだ。

君には余計な説明かもしれないが、これは魔法契約だから魔法陣展開が必要だ。

まあ、君になら問題なく出来るだろう」


「わかった」


僕は左耳のプラウトラを触り、武器を取り出した。

姉妹も僕に続いて武器を構え、全員で天高く掲げた。


「えっと、僕が言えばいいのかな」


二人は黙って頷いた。

しばらくそのまま全員が静止してから、僕はミスに気が付いた。

誓いの内容を全く考えないまま、見切り発車してしまった。

一体何を誓えばいいんだろう? 

僕は慌てて、マリオンに助けを求めた。


「あ、あのさマリオン。こういう時って何を誓えばいいのかな」


「そうだな……誰とも誓いを立てたことがないが、大抵は義兄弟の誓いだろう。だから今回は……義姉妹か?」


「義姉妹、かあ……」


彼女たちと義理の姉妹になるというのも、悪くないと思う。ていうか彼女たちから女の子扱いされていると、浮足立つようなくすぐったさと、嬉しさがある。

そっか、本当に僕は、あの天使のようにかわいくなれたんだ……


いや、本当にそうだろうか?

中身も伴ってこそ、最強のかわいさじゃないか?

僕はまだまだ男のクセが残っているし、どうすれば誰にも文句を言わせないかわいさを手に入れられるのか、わかっていない。


であれば、彼女たちに誓ってもらうことは、決まった。

僕は呼吸を整えて、二人と目を合わせる。


「じゃあ……いくよ。

ひとつ! 僕のかわいさを讃えること!」


「えっ」

「わかった。君のかわいさを讃えよう」


「ひとつ! 僕がかわいくなかったらすぐに言うこと!」


「あー……なんか、突っ込むのも野暮だよね。

わかったよ。言う言うー!」

「わかった。誓おう」


「ひとつ! むやみに人を殺さない!

血の雨を降らせる殺人集団にはならない、させない、やらせない!」


「うん」

「善処しよう」


「ここに、僕が最強かわいい同盟を結成します!!!」

「おー……」

「おう!」

「いりゃああああああああああ!!!」


主に僕の叫び声が周囲に響き渡っていく。

すぐに僕の武器が光りだして、それに合わせるように淡いピンク色の魔法陣が足元に展開された。

ぐるぐると数周したのち、小さな魔法陣がそれぞれの足元に浮かび、それらが線で結ばれて三角形を形作る。

やがて、魔法陣が少しずつ光の粒子になって中央にまとまり、ふわふわと掲げた武器の先端が集まる場所まで浮かんだ。

そして、弾けるような音がして、三人のプラウトラに向かって光が流れ込んだ。


「これで完了だ。よろしく頼む、主よ」

「はあー、本当にやっちゃったあ。

不束者ですが、姉ともどもこれからよろしくね。守羽ちゃん」


僕が頷くと、ミリーがすぐに苦笑いしながら口を開いた。


「あのさ、守羽ちゃん。

早速だけど、かわいくないよ。叫び声……」


「あっ……」


僕は恥ずかしくなって、髪の毛をくるくる指で巻きながらうつむくしかなかった。

マリオンは楽しそうに笑っていた。

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