武器を出すとこ見てて!
巨大な爆発の余韻が、辺りを包み込んでいた。
誰もが言葉を忘れていて、土煙がなくなるその時まで誰も声を上げなかった。
やがて、腰を抜かしていた男の一人が我にかえったのか、突然大声を上げて騒ぎ始めた。
「おいおい!!! これじゃもうちょっとズレてたらチリだよチリ!!!
あんな化け物いるって言ってなかったよなあ!?」
「そ、そうだそうだ!」
合わせるようにして、女の子の声が聞こえた。
よく見ると、男の後ろに隠れていたらしく、三角帽子を押さえながら抗議の声を上げていた。
どうやら近くにいた男に対して怒っているようだった。
「い、いや……逃げ出したのはあの獣人の二人だけだったんだ
あれはいったい、何だ?」
小太りの男が、僕を指差した。
「あんなの直撃してたら死んでたよな……
適当に撃っておいてよかった」
僕はほっと胸を撫で下ろした。未だ騒いでいるやつが言っていたように、もし本当に直撃していたら跡形もなく吹き飛んでいただろう。
そういえば、マリオンとミリーは……と後ろを振り返ると、二人ともぺたんと座っていて呆然としていた。
「大丈夫?」
僕は駆け寄って、二人の様子を見た。
彼女たちもまた、僕が偶然出せてしまったビームに驚いていたようだった。
「すまない。問題はないんだが力が抜けてしまって……」
「すごいね、あれ魔法?
わたし、武器もなしにあんなすごい魔法を撃てる人、初めて見た……」
ミリーに聞かれて、僕はどう答えたらいいのかわからなかった。
ここが本当に魔法がある世界だったら、僕でも出せるんじゃないかと力を込めてみただけ。
まさか、ここまで威力があるとは思わなかったけど。あまり考えなしに撃たないほうがいいのかもしれない。
ふと自分の両手を見ると、白く細い指先が震えていた。
マリオンはゆっくりと立ち上がり、爆心地に向かって歩いていく。
「どうするの?」
「街で騒ぎ立てられると面倒だ」
重そうな剣を肩に乗せながら、そんなことを言う。
それって、もしかしなくても殺すって意味だよな。
「い、いや、ちょっと待ってよ。殺すことはないんじゃない?」
「大丈夫だ。誰もが賊に襲われたと思うだろう。問題ない」
僕が言いたいのはそういうことじゃないんだけど、どうすれば彼女を止められるのかわからない。彼女が間違っているわけでもない。
ここがもし「人を殺しても大丈夫」な世界なら、確かに始末しておいたほうが今後追われる不安も消えるし、合理的だと思う。
まあ、なんか、この力があれば蹴散らせるかもしれないけど、僕が人を殺す可能性が跳ね上がる。
だから、ここは穏便に済ませたかった。
そもそも、他人を殺すなんて。そんなの、かわいくないじゃないか。
いや、残虐非道な天使も魅力的だと思うけど!
でも、僕が惚れたあの天使はきっと、そんな風に自分の力を使わないはずだ。だから、僕もそれに倣いたい!
「マリオン、要はこの辺だと賊に襲われることがままあるってことだよね?」
「そうだな」
「まあ大きい街道だと、そうそうないけどねえ。
ここは外れだから、治安があんまりね。ほら、黄昏の図書館が見えるもん」
ミリーが指差した方角を目で追うと、そこには崖上に立った教会のような建物を視界に収めることができた。
「だったらさ、賊に襲われた……じゃないな。
悪魔のような天使に襲われたってことにしてさ、おしまいでよくない?」
僕はマリオンを手で静止して、前を見た。
もうはっきりと相手の姿がわかる。一人は小太りの男。そしてさっき騒いでいた赤髪の男。この人は近づく僕らを警戒しているのか、剣を構えはしたが覇気がない。
そして彼の後ろには紫色の髪をした三角帽子を被った、いかにも魔法使いのような格好をした女の子。杖は近くに投げ出されたままだった。
「あの、僕ってかわいいですか?」
僕は彼らの間合いに入りすぎないように、距離を取って尋ねた。
「はあ? 俺たちを殺そうとしたやつが、かわいいわけないだろ!」
そうだそうだ、と後ろの女の子が続く。
ダメだ、話を聞いてくれそうな状態じゃない。
当たり前だよな。だって、さっき殺そうとしてたんだし。
「マリオン、武器の取り出しかたってどうすればいいの?」
「さっきも言ったが、その君の耳に付いているプラウトラを触ればいい」
「でも、耳には何も……」
僕が耳を触ると、マリオンが違うと首を横に振って、僕の頭を指差した。
「君の頭の左側についている、それのことを言っている」
言われて、頭を恐る恐る触ってみる。するとすぐに、何かにぶつかった。
「ふへっ、くすぐった」
今までの自分にはなかった部位を触って、奇妙な感覚に襲われてくすぐったくなった。もう一度ゆっくり触ってみると、確かに耳を触ったときと似たような感覚がする。
先端付近まで指をなぞると、硬いものにぶつかった。
「それがプラウトラだ。少し力を込めてみるといい」
ぐっと力を入れてつまんでみると、パシンと頭上から軽く衝撃が走って、キンと高い音が鳴った。
「そこから出てきた……何だそれは、輪っか、か? とにかくそれを引き抜くんだ」
僕の手元にちょうど触れている、冷たい感触のする何かを掴んで、思い切り引き抜いた。
鏡の割れるような音と共に、その姿をあらわす。
「これって、天使の輪?」
「珍しいね、円形だ」
近くで耳をピクピクとさせながら、興味深そうにミリーが見ていた。
それは円形で、金色の淡い光を発していた。
でも、なんだか僕は、本当になんとなくだけど、これが「本当の形」だと思えなかった。
両手で持って、ぐいっと引っ張ってみる。
瞬間、淡い光が強くなって、真ん中からパキンと折れてしまう。
「え? え? 折れちゃ――」
それは折れたわけではなかった。
“分離した”と言ったほうが正しいかもしれない。
半円を覆うように、まるで羽根のように白く煌めく刃がいくつも現れ、強烈な光を放っている。それはもはや天使の輪ではなく、剣だった。
「僕って、かわいいですか!」
僕は武器を構えて、自信満々に叫んでやった。