このかわいさは夢じゃない!!!
「……大丈夫ですか」
ぼんやりとする頭に、誰かの声が響いている。
「大丈夫ですか、生きてますか」
「ミリー、追手が来るから逃げないと」
「でもお姉ちゃん、見つかったらこの子、きっと奴隷にされちゃうよ」
「うぐっ……しかし、そうは言っても」
ペチペチと頬を叩かれていて、さすがに鬱陶しくなってきた。ゆっくりと目を開けると、いきなり光が大量に入ってきて眩しくて、また眼をつぶる。
「あっ、お姉ちゃん! 起きた!」
「わかった。私が担ぐから、ミリーは誰か来ていないか見張ってくれ」
「うん!」
「ほら、起きれるか。目を開けろ」
ぐいっと手を引かれ、身体を起こした。もう一度目を開けてみる。
そこは周りに木が立ち並ぶ森の中で、後ろには泉があった。
すごい、本当に異世界転生したのか……こんな場所、今までどこにも見たことがなかった。
「うわっとっと、強く引っ張りすぎ。痛い痛い痛い!」
あまりにも力強く引っ張られたから、思わず声が出てしまった。
……うん?
「なんか、かわいい声が頭に響く……」
さっき出した声。確かに自分が出した声。なのにいつものように上ずった中途半端に高い声ではなくて、めちゃくちゃかわいい声がしていた気がする。
甘ったるくて、でも耳に刺さらない丁度いい高さの声が、俺からしていた気がする。
「あー、あー、あー!?
やっぱこれ、俺の声じゃん! え? え?」
俺は引っ張ってくれた人の手を振り払うと、後ろの泉に顔を近づけた。
そこには、さっき転生がどうとか言っていた天使にそっくりな顔が写っていた。
「あれ夢じゃなかったんだ! マジかよ! あっ今も夢じゃないのかな?
ねえ、えっと、あの、すみません」
「どうした。ていうかめちゃくちゃ元気じゃないか。どうしてこんな所に倒れて――」
「ちょっと、痛いことしてみてくれませんか」
「はあ?」
「ちょっとだけでいいんです。あの、ピリッと軽い痛みぐら」
言いかけたところに、食い気味な頬打ちが俺にクリティカルヒットする。
「びっでェ!」
声にならない叫びを上げて、あ、やっぱり叫び声もかわいいとかちょっと思ったりもしたけれど、それよりも痛みが勝っていた。
「あああ、本気で叩きすぎでしょ!」
「すまない。加減するのが苦手で」
「首ごと飛んでっちゃうかと思った! けど、これで」
夢じゃない。これは、夢じゃない。
「お姉ちゃん! あっちに足音が――」
近くにいたらしい誰かの声が聞こえた。俺を叩いた女性がうなずいて、俺に背中を向けてきた。
「え? え?」
「話は後だ。私たちは追われてる。きっと君も見つかれば、奴隷として売られてしまう」
促されるままに背中に乗っかる。
「ミリーよりもだいぶ軽いな」
「そっか」
そんな一言にすら納得させられていく。どうやら俺は本当に、あの天使にお願いした通り、女の子になってしまったらしい。
瞬間、近くに稲妻のような光が走った。
「お姉ちゃん」
もう一人の女の子が、息を切らしながら近くに駆け寄ってきた。とても焦った顔をしていて、どうやらあんまり状況がよくないらしい。
「魔法師までいるのか」
「うん、どうしよう」
「あのさ、全く状況がわからないんだけど。誰かから逃げてる?」
「ああ、奴隷商からな」