で、転生したってワケ
「あなたは死んでしまいましたので、転生させていただきます」
事務的な声が頭に鳴り響いている。
一体誰が俺の眠りを妨げているんだ。
「あの、聞いてますか?」
頬を何回か突かれたが、ひんやりした指先の感覚にびっくりしてしまい、跳ね起きた。
「だ、誰ですか?」
「ですから、あなたは死んでしまいましたので、転生させていただきます。と申し上げているのです」
ちょっと待ってくれ? 俺が死んだだって? そうか……死んだのか。
急に死んだ実感がわいてきて、心が重くなった。
ふと顔を上げると、頭の右側に小さく羽の生えた女の子が、俺を見下ろしていた。
ピンク色のきめ細やかな髪の毛が、サラリと風に揺れている。目はぱっちりと開いていて、長いまつげが跳ねている。
まるでアニメのキャラクターが、目の前に立っているみたいだ。
俺はシャイだからこういう時に上手く声をかけられないが、とても可愛いと思った。
簡単に言ってしまえば、一目惚れした。
彼女はにこりと微笑んで、俺の手を取った。
「それでですね、転生に際しまして、何かひとつ願いを叶えてあげることができるんです」
さっきまで混乱していた頭のなかも、彼女の優しい声を聞いていると、死んだことすら何でもないことのように感じてくる。
「あのさ」
「はい」
「きみの容姿で、転生することってできる?」
「はい?」
彼女は一瞬言われたことの意味がわからないようだった。
しばらくして、急にボンと赤面してしまい、顔を手で覆ってしまった。
「わ、私ですか!?」
「うん。あの、俺死んでるんだよね?」
これは、今から恥ずかしいことを言っても平気かの確認だ。もう死んでしまっているのなら、恥ずかしくて死にたくなるようなことがない。
だって、もう死んでるんだから。
「はい、そうですね。数年ぶりに鏡を見て、自分のブサイクさに驚きすぎて、その勢いで頭を打って死んだ、と報告書には書いてあります」
ピンク髪の彼女は、俺の間抜けな死因を笑うことなく、つらつらと語ってくれた。
そして最後には、本当に気の毒でしたね、と慰めてくれた。
なんて天使なんだ……!
「俺、君に惚れました!!!」
「ちょ、ちょっと、急にどうしたんですか?」
「言われたりしない? こういうこと」
「まあその、言われることもあります、けど。でも、でも、私になりたいって言われたのは、初めてです」
最後は消え入りそうな声で、彼女は言う。
「君みたいに可愛かったら、俺の人生はもっと楽しかったはずなんだ! だから、君になりたい!」
思い返せば生まれたときからずっと、容姿のことでいじめられてきた。生まれた顔がちょっと特徴的だっただけで、みんな俺のことをいじめやがって。
「わ、わかりました。でもそんな例は過去に……」
慌てふためく彼女の足元に、一本の矢が刺さった。そこには雑な文字で「いいよ」と書いた手紙がくっついていた。
「あの、天使長からの許可が出たので、えっと、それで生きますか……?」
「お願いします」
「わかりました、では、目をつぶっていてください」
彼女の手がまぶたに触れると、身体の力がすっと抜けていった。
ああ、やっとこれで、今まで嫌いだった俺とはおさらばできるんだ。
「あの、ちなみにどこに転生するんですか?」
肝心なことを聞き忘れていた。俺は薄くなる意識のなか、聞いてみた。
「荒れてますけど、いいところですよ」
どんな場所なのか全くわからないけれど、まあ死ぬ前よりは悪くならないよな。
俺、可愛くなるんだし。