第8回 大人の女性をからかう奴には…
ようやくここまできた…。
ヴァティさんに渡された【ステータス・ブック】なるものに書かれている事を説明したいと思う…が!大げさに言うほど多くは書かれていない…若干へこみました。何でもこの世界の人達は俺よりも多くステータスが表記されるらしい。
ここでこの世界の一般的なステータスがどれだけの項目があるのかを確認しよう。
初めに【名前】、【性別】、【職種】があり、それからHPと同じと思われる【体力】、MPが【魔力】、続いて物理攻撃に必要な【力】、移動速度や攻撃回数に必要な【素早さ】、魔法の威力や魔力を増やすのに必要な【精神力】、物理攻撃や魔法攻撃から身を守る為に必要な【耐久力】、あとはあらゆる行動に関係してくる【運】などがある。これらをまとめて通常ステータスと言うらしい。
それに加えて【スキル】、【レアスキル】、【マスタースキル】というのもあるらしい。これらはスキルステータスというそうだ。
そう今説明した物でもこれだけあるのに…俺のステータスはというと?
――――――――――――――――――――
斎宮 券太
男性
リサイクル業者
【マスタースキル】
リサイクル LV.1
――――――――――――――――――――
これだけなんだよ…体力は?魔力は?通常ステータスが一個もないってどういう事!?俺って一度でもダメージを受けたら死ぬの?即死ですか?誰か教えて下さい!
「ちょっと?いつまで黙っている気?さっさと教えなさいよ!ホラ!早く!」
「お、落ち着いて下さいよヴァティさん。ちゃんと教えますから!」
「それならサクッと教えなさい!もったいぶるつもりなの?」
「違います、違いますからその手をおろして下さい!」
事もあろうにヴァティさんがいつの間にか持っていた木製の杖で俺を殴ろうとしていた。木製でも痛いものは痛いからね?俺は杖で殴られる前にヴァティさんに自分のステータスを伝えた。
「はぁ!通常ステータスが無いですって?それも重要だけど…あなた【マスタースキル】があるって言うのは本当なの?嘘ついてない?」
「一応今後の自分に関係してくる事なので、流石に嘘はついてないですよ…。」
「それは…そうよね。これからはこの世界で生きていかなきゃいけないものね…嘘なんてつかないか。」
ん?俺の聞き間違いだろうか?気の所為でなければこれからはこの世界で生きていかないといけないと聞こえたような…。
「あの…ヴァティさん…俺の聞き間違いでなければこれからはこの世界で生きていかないといけないと言いませんでしたか?」
「ん?えぇ言ったわよ?それが何?」
「いやいや!俺って元の世界に帰れないんですか?冗談ですよね?」
「あぁ…そうか、ちゃんと言ってなかったわね。実は私ね?かなり昔にあなたと同じ異世界人にあってるのよ。」
「異世界人?あれ?確か殿下達には外界人と呼ばれましたけど?」
「あぁあれね…実際は異世界人よ?その外界人という呼び方はこの王国の連中が勝手にそう言ってるだけで正式には異世界人が正解よ?間違えないようにね?」
「そうなんですねぇ~わかりました。って!違います、そうじゃなくて!俺が帰れないって話ですよ!」
「何よ…あなたから振ったんじゃない、私が話を逸したみたいに言って…失礼な人ね。」
「すいません、俺が悪かったので続きを教えて下さい。俺は…帰れないんですか?」
「私が知ってる限りでは…無理だと思う。さっきも言ったけど昔に会った異世界人も何とか元の世界に帰ろうと躍起になっていたけど…結局は諦めてこの世界に残る事を選んでいたわ…正直あの時のあの子は見ていられなかったわね…。」
「そうですか…帰れません…か。」
「……あの子にも言った事だけど、私が知らないだけで何処かにその方法があるかもしれないから探してみるのも一つの手段よ?そうやって諦めてないで頑張ってみたらどう?」
「一応聞きますけど…どれくらい頑張れば見つかりそうですか?」
「そんなのわからないわよ、私が知らないような場所にはあるかもしれないからそこを探してみれば良いんじゃない?」
「ヴァティさんが知らない所…ヴァティさんってこの世界の事どれくらいの割合で知ってるんですか?」
「そ、それって答えないと駄目?」
「駄目ではないですけど…今後の指標の為に出来れば…。」
「そ、そう。えっとね?その…割よ。」
「わざと小さな声で言いましたね?ちゃんと聞こえるように言って下さい。」
「あーもう!分かったわよ!9割よ、9割!この世界の事はほぼほとんどと言っていい程に知っているわよ!これで満足?全くもう…せっかく人が気を使ったっていうのに…。」
「9…割…ですか?は…はは…それってほぼ全部の事を知ってる様な物じゃないですか…。そうか…そうなんだ…。」
この事実にはかなりくるものがあった。だって9割の中に元の世界への帰還方法が無いなんて…これじゃあほぼ確定してるような物じゃないか…いやでも、わからないよな?もしかしたら異世界への転移と言ってもいい代物だから重要に隠されていて簡単に知る事が出来ないだけかもしれないじゃないか!そうだ!可能性はゼロじゃないんだ!諦めるのはまだ早い!
「ねぇ、大丈夫?そんな落ち込まないでよ。私が悪くないはずなのにいたたまれなくなるじゃないのよ。」
「いえ、大丈夫です!そうですよ、あと1割残ってるんですから、その可能性に掛けて頑張ってみます!それが良いですよね?ヴァティさん!」
「そ、そうね…それが良いと思うから、頑張ってみると良いんじゃないかしら?(ハハ…言えない、後の1割はどうでも良いような事だから特に調べる気がなかったからなんて…うん、その時が来るまで黙っていよう。)」
「はい!なので自分のステータスについてもっと詳しく教えて貰えませんか!」
「そ、そうね!そういえばあなた【マスタースキル】があるって言ってたわね?何ていうスキルなの?教えてもらえる?」
よし!暗い雰囲気は無くなったかな?可能性はあるんだ、俺が頑張れば何とかなるかもしれない。当面は出来る事としなきゃいけない事を目標に掲げて頑張ってみよう。
そして、俺は自分の【ステータス・ブック】に書かれている内容を全てヴァティさんに伝えてみた。すると内容を聞いたヴァティさんは段々険しい顔つきになっていった。
「う~ん通常ステータスがないだけでも異常なのに…いきなり【マスタースキル】があるですって?しかもリサイクルって何よ?聞いた事ないわね…私が知らない…知り得ないスキル…か。さてと、どうしようかしらね?」
「あの~ヴァティさん?」
「ちょっと黙ってて!今、考え中だから!」
「え~~…はぁ。仕方ない待つか…。」
今なお考え中のヴァティさんを放っておき、よく見る事ができなかった【ステータス・ブック】を今一度細かく見てみる事にした。
【ステータス・ブック】の大きさはよくあるスマホくらいで、意外とコンパクトだ。材質は陶器みたいな感じの手触りでツルツルしている。落としたりしたら割れるのだろうか?試さないけど…。
重さに関しては不思議な事にほぼ無いと言ってもいいくらいだ。確かヴァティさんが変な呪文を唱える前まではそれなりの重さがあったはずなのに、今はほぼ無い。何だか不思議素材だ。触れた状態でいると画面の様な箇所には俺のステータスが表記され、ほのかに青白く光っている。
ヴァティさんを見てみると「リサイクル?りさいくる?って何よ?どういうスキルなの?異世界人特有なの?」とかブツブツ言っているので、今はまだ放置しておこう。今話しかけたらまた怒られそうだし。
続きを調べてみよう、何となくゲーム的な感覚で【マスタースキル】のリサイクルLV.1の文字に触れてみると…おや?何か違う文字が記されたぞ?ちょっとよく見てみよう。
リサイクルLV.1
不用品、廃棄品、などの品物を取り込みリサイクルする事ができるオンリースキル。
【リサイクルボックス】、【回収】、【修理】などのスキルを内包しており、これらのスキルを活用したリサイクル活動を行う事ができる。資源は大切に!
うんんんんん?なんじゃこれ?まんまじゃないか!物凄いスキルなのかと思ってたのに、これじゃあただのリサイクル業者…って、あぁそうか!だから職業欄にリサイクル業者って書いてあるのか!なるほど!
「って!納得できるかぁ!何で異世界でリサイクル業者やらにゃならんのだ!せめて異世界らしい物を備えろよ!」
「きゃあ!って何よ、急に!大声を出さないで頂戴!びっくりするじゃない…。で?何で急に大声をあげたの?もし、イタズラとかならこの杖でぶん殴るわよ?」
ヴァティさんはヴァイオレンスな人なのかな?俺この人の側にいて大丈夫かな?殺されないか心配だよ。
「あのですね?ヴァティさんが考え事してて暇だったので【ステータス・ブック】をいじっていたら、【マスタースキル】のリサイクルに関して詳細な事が表記されたんですけど…ちょっとその内容が内容だったので、つい…。」
「えっ?あなた【マスタースキル】の詳細が分かったの?どうやって?」
「こう文字の部分に触れてみたら、スキルの下に説明文が…ほら、こうやって、ね?出たでしょ?」
「……ホントだ。知らなかった。」
「あれ?知らなかったんですか?てっきり知ってるものだとばかり思ってましたけど…。」
「知ってたらアレコレ考えてないわよ!さっさとあなたから奪って確認するわ!」
「俺に怒鳴らないで下さいよ…。」
そんなに怒鳴ってばかりいると眉間にシワが……うん!この考えは消し去っておこう!そばにいる人が杖を持って睨んでいる。というか何で俺の考えてる事がわかったの?勘?
「…不穏な気配を感じただけよ…。以後気をつける事ね…死ニタクナイナラネ?」
「よ、よくわからないですけど、気をつける事にします。」
怖えぇぇよ~、あの杖で殴られたら通常ステータスが表記されてない俺は一撃で死ぬ可能性がある。余計な考えはしないように気をつけよう…ヴァティさんの前では特に!
「…今のはセーフね?でも、不必要に怖がられるのは心外ね。私だって女の子なのよ?失礼だとはお思わない?」
「女の…子?それはいくら何でも…。」
「何か?あら、気の所為かしら?虫が飛んでいて鬱陶しい気がするわ。この杖で叩こうかしら?」
「ちょっとやめて下さいよ!そんなので叩かれたら死にますよ!」
「大丈夫よ?ちゃんと回復して上げるから?フフ…。」
「わかりました!女の子!ヴァティさんは女の子ですから!」
「初めから頷いておけば良いのよ、全く女性に対する心がけがなってないわね。!ははぁ~ん、さてはあなた童貞ね?ならしょうがないわね~童貞の坊やに女性に対する心がけを望むのは酷というものよね?ごめんなさいね?」
プッチィ~ン!幾ら助けて貰ったからと言ってそこまで言われる筋合いはないぞ?俺は確かに童貞だし、今までなぁなぁに生きてきたから彼女すら居なかったさ!だが、だからといってそこに関して馬鹿にされるいわれまではないぞ!言われっぱなしはムカつくのでどうにかしたいが…そうだ!
「えぇそうですね、確かに俺は童貞ですよ?今まで真面目一辺倒に生きてきましたからね?でも、俺にそういうって事はヴァティさんは処女じゃないって事ですよね?」
「あ、当たり前じゃない!私なんてモテてモテてしょうがなかったわね!とても大変だったわ!」
嘘っぽい…とても嘘っぽい。というか嘘だな!昔の友達に俺は童貞ではない!と言い張っていた奴と言い訳の仕方が非常によく似ている。まず間違いなく処女だな!それを知った上で敢えて追い込んでみよう。
「へぇぇ~それなら結構な人数と付き合ったりしたんですか?すごいですね~。」
「えぇ、そ、それはもう!か、彼氏なんて二桁ぐらい居たわね!あ~モテる女性は辛いわぁ~。」
二桁ってそれじゃあただのビッチだよ…自分で言ってて何とも思わないのだろうか?あぁ…違うな、その事に気づくほどの余裕が無いのか。そうだなぁ耳年増な処女って所だろうな。そうだ!良い事を思いついたぞ!
「凄いですねぇ、それなら俺にモテる女性の凄さを教えて下さいよ!俺童貞なんで女性の事を知らなすぎるんですよね。ヴァティさんが教えてくれませんか?」
「へ?な、急に何を!」
「だってヴァティさん経験豊富なんでしょ?俺童貞だから一度も経験ないですし、ヴァティさんみたいな美人でスタイルの良い女性に女の人の事教えて欲しいなぁって。ね?良いでしょ!ヴァティさん?」
「な、何で私がそんな事…じ、自分で調べればいいじゃない!私は無理よ!」
「あれぇ?もしかして自信が無いとか?それとも本当は処女だけど、誤魔化そうとしてたんじゃないですかぁ?」
「ち、違!私は立派な大人の女性よ!それぐらいなら余裕よ!」
女の子何処いった?大人の女性にシフトしちゃったよ。まぁこれ以上は可哀想だな。助けて貰った恩もある事だし、ここらで俺が引いておくとしよう。
「まぁ流石に冗談…「私は大人の女性よ!あ、あなたみたいな童貞の坊やに大人の女を教えるぐらい余裕だわ、教えてあげるからコッチに来なさいよ!」…ってえぇ!」
ヤバい!煽りすぎたか?急いで止めないと大変な事になりそうだぞ!
「落ち着いて下さい、ヴァティさん!大丈夫です!ヴァティさんが大人の女性なのはわかりましから!落ち着いて!」
「何を言っているの?私は落ち着いてるわ?あなたに大人の女性の素晴らしさを教えてあげられるほど、私は大人にょ!」
語尾が、にょ!ってなってる時点で駄目だ!かなり冷静じゃないぞ!早く落ち着けないと!
「お願いですから落ち着いて!元の冷静なヴァティさんに戻って下さい!賢者なんでしょ!それなら冷静にならないと!」
「大丈夫よ!私は賢者の女性よ!何でも知ってるのよ!」
大人の女性と賢者が混じってる!よく見るとヴァティさんの目がグルグルしてるように見える。きっとあれはイカンやつだ!どうにかして止めないと!
「ヴァティさん!本当に落ち着いて!大人の女性は後にしましょう!ね?それが良いですよ、そうしましょう!」
しかし、俺はヴァティさんを落ち着かせるというミッションをこなす事はできなかった。なぜならヴァティさんは手に持っていた杖を振りかぶりそのまま俺の頭目掛けて振り下ろしていたのが見えたからだ。 頭に鈍い痛みを感じつつ意識を失う寸前に見たのは相変わらず目をグルグルしたヴァティさんの姿だった。
なんとかステータスまでこれました。更に面白くなるように邁進して参りますので、ブックマークと評価をよろしくお願いします!