第7回 名前の呼び方にご注意を!
今回の話からちょっとずつ主人公の事がわかり始めてくると思います。
目の前に褐色の美女…何故こんな地下に?とか色々あったが、追い詰められてようやく見つけた頼れそうな場所だ。下手を打たないようにしないと。
「あの…森の中を歩いていて迷っていたら、大きな穴に落ちてここまで来たのですが…今から地上への道を探すのも難しいので、一晩泊めて頂けませんでしょうか?」
「…ふぅん、大きな穴に落ちた…ねぇ。良いわよ、中に入って。」
「本当ですか!ありがとうございます!とても助かります。」
「お礼は良いからさっさと入って?そろそろ魔物がうろつき始める時間なのよ。潜り込まれたら面倒なの、だから入るなら早く入って?」
「あっハイ!それじゃあお邪魔します。」
「あら?邪魔するなら出ていって頂戴?」
「えっ?いや、その、それは言葉の綾といいますか…本当に邪魔をするわけでは…。」
「…ただの冗談よ?早く中に入って。」
や、やり辛い…掴みどころの難しい人だな…、まぁ避難させて貰えた分感謝ではあるが。俺変な事言って追い出されない様に注意しないと…こういう人って急に機嫌を悪くしたりしそうだし…。
「いつまでそこに立っているつもり?さっさとここに来て座ったらどう?」
「あっはい…座らせていただきます。」
「………まぁいいわ、どうぞ座って?」
今一瞬だけ間があったけど…もしかして俺がまたお邪魔します、って言うのを待っていた訳じゃないよな?…幾ら何でもそれは無いか。
「今度はお邪魔しますって言わなかったわね?言うのを待ってたのに…。」
やっぱり待ってた!こういう時はどうすればいいんだ?俺のコミュ力じゃ正解を導けない!
「堅物ね?冗談を冗談で返せるくらいじゃなきゃ面白く無いわよ?…これくらいにしておこうかしら?そろそろ怒り出してしまいそうだもの。」
「いえ!そんな怒るだなんて!助けて頂いた立場でそんな事しませんよ。冗談にしても俺の気が利かないだけですし。」
「…本当に堅物ね?そんなに真面目に答えられたらこちらが困ってしまうわ。」
「す、すいません。」
「はぁ…やれやれ、別に謝ってほしい訳じゃないわ。さて、そろそろ聞いてもいいかしら?何故こんな所に来たのかを…。」
質問する彼女の視線は先程までとは違い鋭いものになった。まるで蛇に睨まれたカエルってやつだ。ただ睨まれているだけなのに動く事が出来ない…いや、出来ないというよりは動かない方がいいと言うのがあってるかもしれない。うぅ…怖すぎる。
「ふぅ…どうやらアイツ等が送ってきたって訳じゃなさそうね?もしそうならこの程度で動けなくなる訳ないし…それなら本当に落ちてきたの?あの大きな穴から?…はぁぁ、どれだけ鈍くさいのよ?」
「うぐ…す、すいません。」
「だから謝らないでもいいわよ、もう本当に…緊張して損したわ。それで、確かここに泊まりたいのよね?いいわよ、いくらでも居てくれても。そうね…取り敢えずお腹は空いてる?」
「はい…恥ずかしながら。」
「何でお腹が空いて恥ずかしいのよ?意味がわからないわ。それなら座ってて、あまり良いものは出せないけどお腹を満たすぐらいなら十分なはずだから。それでも良い?」
「はい、是非お願いします。」
褐色の女性は俺に待ってるように言って台所に向かっていたようだ。それにしても助かった。ただ居場所を貸してくれるだけでなく、まさか食事までさせてくれるなんてな…本当にこの女性には感謝だ。
しばらくすると台所からいい匂いが漂い始めてきた。あぁ…俺が望んでいた食事がようやく食べれるのか…嬉しいな。そうして待っていると温かそうな湯気をあげたスープと少し固そうなパンそれと美味しそうな肉炒めを出してきてくれた。
「細かい事は気にせず取り敢えず食べて?聞きたい事はあなたが食べ終えてから聞く事にするから、さぁどうぞ。」
「ありがとうございます!それじゃあ遠慮なくいただきます!」
「はい、召し上がれ。」
目の前にある美味しそうなご飯を食べていく…おぉ…美味いな!特に食レポが得意な訳ではないので、取り敢えず美味いとしか言えない。目の前に座る女性がじっと食べ続けている俺を見続けている。一度手を止めて美味しいです。と一言いうべきなのかもしれないが、自分が思っている以上に腹がへっていたようで、止め時がわからない…もういいや、食べ終えてから感想を伝えよう。今は食べる事に集中だ。
ふぅ~食った食った~。食べて思ったが意外と異世界感を感じなかったな。普通に日本で食ってるかのような感じで中々にレベルが高いと思えた。お金を出してもいいぐらいだ…今は持っていないけど…。
「どうかしら?満足した?足りないようならまだまだ作ってあげるけど?」
「いえ!とっても美味しかったし、量も満足です。ごちそうさまでした!」
「……今の…いえ、何でも無いわ。ところで…あなたのお腹がいっぱいになった所で、自己紹介をしてもらえる?流石に正体不明の人を泊めるのは抵抗があるのよね?」
「そ、そう言えばそうでした!あの…俺の名前は斎宮券太といいます。訳あって街から追い出されて逃げている途中であの大きな穴に落ちてここまで来ました。」
「街から追い出された?それはどういう経緯なの?そこをちゃんと話して。」
「…はい…わかりました。」
俺は自分が元々この世界の人間では無い事、人里を求めて森に入った所で殿下と呼ばれる人に保護されて城に案内された事、その後城から出て森に食べ物を求めた後に街に戻ろうとしたら、身分証を求められたが、持っていない為に殿下に話せばわかるからと言ったら街から追い出された事などを細かく話していった。
すると、初めの内はただ興味深く聞いていただけの彼女だったが、俺が城から出るきっかけになった事を話し始めたあたりから険しい顔をし始めた。
「そう…あなたも追い出された口なのね…今だにそこら辺は変わってない、かぁ…。これは…もう駄目かしらね?」
「…えっと、何か問題がありましたか?やっぱり街から追い出されるような人間は無理でしょうか?もし無理なら…俺出ていきますよ?」
「いえ…あなたには何も問題は無いわ、どちらかというと問題があるのは王族や街の人間に問題があるわ。」
「その…所詮俺は余所者ですから…しょうがないといえばしょうがないですよ。」
「はぁ…あのね?いくら殿下の名を語ったとは言ってもろくに確認もせずに石を投げてくるような連中に対してどうしてそんな事が言えるの?」
「ん~そうですね…割とどうでもいいからですかね。気にしすぎてもしょうがないですし、それよりもこれからどうやって生きていくのか?の方が重要ですよ。」
「器が大きいのか…はたまたただのんきな性格なのか…よくわからない人ね?あなたは…。」
そんな事言われてもなぁ…あまり話を大きくして変な事に巻き込まれても困るし、それなら自由に行動しつつ元の世界に帰る方法を探した方がマシというものだ。
「そうだわ、あなたに惑わされて重要な事を忘れていたわ。今からあなたにしてもらいたい事があるの。そのまま待ってて頂戴?」
「はい、わかりました。待ってますね。」
椅子から立ち上がり奥の部屋に歩いていった女性…そういえば名前聞いてないな、俺自己紹介しかしてないよ。戻ってきたら聞いてみよう。それにしても…女性の後ろ姿を見て思ったが…モデルの様なスタイルだったな。ドレス?の様な服越しに見てもわかる胸の大きさ、腰のくびれ、むしゃぶりつきたくなるような大きなお尻…さっきまでは面と向かっていたので凝視できなかったが、後ろから視姦するかの如くガン見した。面と向かっては…無理だろうな、さっきのような鋭い視線で見られたら今度こそ漏らしてしまうかもしれん。いい大人になってそれだけは勘弁だからな。面と向かっている時だけは自重しておこう。
戻ってきた女性の手には何やら手のひらサイズの真っ白な板の様な物を持っていた。あれで今から何かをするのかな?痛い事とかじゃなきゃ良いけど…。
「さぁ、持ってきたわよ、まずはこれを持ってみてもらえる?」
「持つだけで良いんですか?」
「あなたはね?続きをするかどうかは反応を見てからね。」
意味ありげに言うなぁ、ちょっと怖くなってきたな。えぇいままよ!男は度胸だ!
「で、では持ちます!」
「何でそんなに気合を入れてるのよ…普通に持つだけでいいわよ。」
どうやら空回りしたようだ…恥ずかしい。
「ホラ!さっさと普通に持ちなさい!ただ持つだけなんだから時間掛けないのよ。」
「ハイ!すいません。えっと、こうですか?」
「そのまま持ってて頂戴…目を閉じて、その板を額に当ててしばらく待ってね。」
「…これで良いですか?」
「そう…その状態で待ってて、【……………、……………】目を開けても良いわよ。それとその板を貸して頂戴。」
一体何をしたんだろう?ただ目を閉じてる間に何か妙な呪文を唱えていたけど、何を言ってるのかはわからなかったな。それに…あの白い板に何かあるのか?俺から受け取ったあとジッと見ているけど…教えてくれないかな?
「これは…一体…どういう事なの?」
「あの…それって一体なんですか?出来たら教えて貰えると…。」
「あぁ…そうね…これは手に持って特定の呪文を唱えるとその人のステータスを示してくれる物よ。世間では【ステータス・ブック】と呼ばれてるわ。一応希少な物なのよ?これであなたのステータスを見てみようと思ったのだけど…その、ね。」
「何かマズイ事でも書かれていたんですか?教えて下さい!お願いします!」
あまりにも真剣な顔つきをしていたので、どうにも気になる…悪い事だとしたらこれから先非常に困るので対処できるのならしておきたい。なので、ぜひとも教えてもらってどうにかしたい所だ。
「コレに書かれている事なのだけど…実はね…。」
「実は?」
「…読めないのよ。」
「は?」
「だから…読めないのよ。」
「何でですか?」
「私に聞かれても知らないわよ!そんなに言うならあなたが読めばいいじゃない!ホラ!読んでみなさいよ。」
「そんな怒らないでくださいよ、それに…えっと今更何ですが、あなたの名前を教えてもらってもいいですか?名前を知らないと流石に話辛くて。」
「そういえばそうね?私とした事がすっかり忘れてたわ。私の名前はイルヴァティ・メナ・グローブよ。長ったらしいからヴァティで良いわよ。」
「わかりました、ではイル…とかじゃないんですね?」
「………私、ヴァティで良いって言ったわよ?」
怖!一瞬殺気を感じたぞ!余計な事は言わずにここは大人しく従っておこう。
「そ、その流石に初対面の人を呼び捨てするのは…馴れたらそう呼ばせてもらいますから。」
「しょうがないわね…で何?さっき何か言いかけたでしょ?」
「あぁ…と言っても大した事ではないですけど、ヴァティさんが読めないのを俺が読めますかね?」
「試して見ればいいじゃない、ただ見るだけなんだから出来るでしょ?読めるかどうかは知らないけどね…。」
ちょっと根にもってるかな?これ以上何か言うと怒らせそうだし、ここは素直に従っておこう。
「それなら見てみますね?では…どれどれ…うん?えっと…ヴァティさん、良いですか?」
「何?やっぱり読めない?まぁ当たり前よね、だってこの私が読めないんだから。」
「あぁいえ、それなら普通に読めますけど。」
「何でよ!?賢者とまで呼ばれた私が読めないのに、何でアンタみたいなパッとしない奴が読めるのよ!」
「そんな事言われても知りませんよ…。」
あとなにげに俺の事をパッとしないって言ったな。地味にショックだよ…。パッとしないだけにな!それは良いとして、聞くべき事をちゃんと聞いておかないとな。これからの俺には重要な事かもしれないし、もしかしたらちゃんと仕事に就けるかもしれないからな。
「何?何が書かれてるの?早く教えなさい!教えないとここから追い出すわよ!いや、やっぱり駄目よ!教えるまで逃さないから!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい、ヴァティさん!近い!顔が近いですってば!」
「!?そ、そうね。少し落ち着く事にするわ、お茶を入れてくるから少し待っててね。いい?絶対に逃げたりしないでよ?逃げたら何処までも追いかけて行くから!」
「大丈夫です、逃げたりしないですから。」
しかし、ステータスも気になるけど…ヴァティさんいい匂いしたな、ちょっとドキドキしたよ。だけど、変な勘違いをしないように気をつけないと…下手な事して追い出されたりしたら、今度こそ死んでしまうかもしれないからなぁ…勘違いもしないように気をつけよう。
この後急いで続きを書かねば!皆さん良ければ評価とブックマークをよろしくお願いします!それと既にブックマークをして評価をして戴いた方はありがとうございます!