第3回 異世界は新しい就職先?
まだまだ説明回が続きますが…お付き合い下さいませ。
殿下の後に続き石造りの廊下を歩いていく。ここである事に気がついた、廊下の床が意外と綺麗な平面になっている。見た目は中世のお城っぽいのにでこぼこしておらず、歩く際にも引っかかりがない程だ。もしかして結構技術力が高い国だったりするのかな?
ほんの少し目を離したスキに殿下は目的の場所に既に着いていたみたいで、豪華な扉がある部屋の前で殿下が待っている。おかしい…殿下に遅れないようにしっかりと後を追いかけていたのに、ドンドン引き離されて行ったんだよ…。ゆっくり歩いてる様に見えたのに、終始何故か追いつく事ができなかった。どういう事?
「すいません殿下、しっかり追いかけてたつもりなのですが…。」
「アハハ、あぁその事かい?それはね、僕がスキルを使用していたからだね!まるでゆっくり歩いている様に見えただろう?」
「えぇ…そう見えました、何をしたんですか?」
「それは教えられないかな。どうしても知りたいなら、まずはサイク君の事をもう少し詳しく教えてくれてからかな?まだ言ってない事…あるよね?」
あらら…気づかれていたか。そう、俺は自分の事をまだ完全に教えていない。殿下達が悪人である可能性が捨てきれなかったからだ。俺を連れてきたのも何かしら利用できるからと考えられなくもないからだ。特に今の俺は殿下達から見てみれば不思議な格好をしているはずだから、なんと言っても俺は会社帰りなので作業服のままだ。その姿に何かを感じ取って俺をここまで連れてきている…と思う。
これが親切心からなら俺が疑り深かったで済むが、もし悪意を隠していた場合下手したら俺はここで終わってしまう可能性も有り得る。だから注意するだけしておくに越した事はないのだ!
「いやいや、ごめんね。そんなに警戒しなくても大丈夫だよ?別に取って食おうって訳じゃないんだ。ただ…少し僕らに利点があっても良いかな?とは思ってるけどね。」
「は、はぁ…そうですか。」
あからさまに企んでる事を話してきたよ!何というか…掴みどころのない人だ。かと言ってここで何処かに逃げる訳にはいかないし、逃げ切る自信もないし…だってさっきみたいな動きされたりだとか、それ以外にも何か特殊な能力を持っているかもしれない。
それならもう虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつだ、覚悟を決めてついていく以外にないだろう。
「安心していいよ、君に…サイク君にとって決して悪いようにはしないから。ちゃんと良心的な対応をさせてもらうから。」
「あ、はい大丈夫です。よろしくお願いします。」
「じゃあ中に入ろうか?中に人を待たせてるからね。」
殿下が扉を開き中へと入っていく、部屋の中は綺羅びやかな様子をイメージしていたが、それとは違い目にした印象からはちょっと高級なホテルの一室の様な感じだ。良くテレビで見るスイートルームの様な作りになっていた。
そしてそこには少し白髪混じりな金髪の中年男性が見た目豪華な刺繍や宝石があしらわれた服を着て、これまた豪華なソファーに腰掛けていた。その男性の隣にはかなり若い…殿下と同年くらいに見える女性が座っており、側に座る男性に劣らない豪華なドレスを身にまとっている。ドレスも綺麗で素晴らしいがそれ以上にその女性の胸が凄い事になっている。ドレスの胸元から飛び出さんばかりなので目を逸らそうにもどうしても目に入ってしまう。
しかしいつまでも目を奪われてるばかりもいられない。なぜなら…側にいる男性が凄い目つきで俺を睨んでいるからだ。なんっつー眼力だよ、視線で人を殺せるのでは?と思いたくなるほどだ。そして更にその女性の隣にはその人の妹と言ってもいい程の女性が座っていて、その女性を見た瞬間だった―。
一瞬思考が停止したかのような気分になった。殿下に似た濃い色の金髪を腰高まで伸ばした指通りの良さそうなストレートの髪、目の色は鮮やかな青色、顔つきはどちらかというと可愛い感じだ。スタイルは胸が隣にいる女性と大差ない大きさをしており同様に目を奪われてしまいそうな程だ。腰も細くまるでモデルを見てるようだ。
そこまでほんの一瞬の間に思考していると隣りにいた殿下からの咳払いで気を持ち直した。あ~今の間はマズかったなぁ。本来ならすぐにでも挨拶からの自己紹介をするべきだったのに…完全に気を取られていた。だが、今からでも遅くはないはずだ、殿下に確認した後に挨拶からさせてもらおう。
「あの…殿下まずは挨拶からしてもよろしいですか?」
「おや?ようやく正気に戻ったのかい?なら、そうだね。挨拶と自己紹介を頼むよ。」
「えっと…初めまして、斎宮券太といいます。森で獣に襲われそうな所を殿下に助けていただきました。この度は本当にありがとうございます。おかげで命拾いしました。」
お礼の言葉と共に頭を下げる、さっきのガン見の件もあるので悪印象を与えないようにしないと。
「ほぅ…サイク君と言ったかな?うちの息子が力になれたなら良かったよ。君も無事に済んで何よりだよ。」
「そうですね、命があって良かったですね。それでサイクさんはどこからいらしたのかしら?」
「えっと…それはですね?その……。」
話してもいいのかと躊躇っていると殿下が俺に代わり話をしてくれた。
「父上、母上、彼…サイク君はですね…。」
俺が森の中で殿下に話した内容をそのまま伝えている。多少俺により内容を変えて伝えていたので、殿下にも説明をしながら補足していく。
初めの内は面白そうな表情をして聞いていたが、俺が違う世界から来たかもしれないと答えると一気に険しい顔つきになった。何かマズイ事でも口にしただろうか?
「サイク君…君はもしや外界人なのか?かなり希少な人種だと聞いた事があるが…どうだろう?」
「外界人ですか?すいません、それに関してはよくわからないです。」
「そうか…では私の方から説明しよう。外界人とはだな…。」
殿下のお父さんいわく外界人とは、ある日唐突にこの世界に現れるそうだ。本人に聞いても理由を何も知らないらしくろくに何かを知らされる訳でもなくいきなりこの地に立っていたそうだ。殿下のお父さんが知るだけでも過去に3人同じ様な境遇の人が居るのを確認しているらしい。
何故らしい、なのかといえば直接に会った訳ではなく噂程度にしか知る事ができなかったそうだ。その後の足取りも不確かでどれだけ探してみても見つける事は今までできなかったとの事。
なので、外界人としては俺に出会ったのが初になるそうだ。
「それでなのだが…君はえ~とサイク君と言ったか?出来れば我が国にこのまま居てはくれないか?なんでも外界人は我々には想像もつかないような力を持つと聞いている。君にも何かしらの力があると見ているのだが…どうかな?何か心当たりはないか?」
「……すいません、特に思い当たる様な事は無いですね。なにせ自分は普通の一般人でしたから、それよりも僕も聞きたい事があるのですが…よろしいですか?」
「あぁ構わんよ、何でも聞いてくれ。」
「では…まずここは地球ではないのですか?」
「うん?チキュウ?それは国の名前なのか?それとも村や街の名前なのだろうか?どちらにせよ我が国では聞いた事はないな。」
「…ですか。では次にですが、ここは何という国なのでしょうか?」
「うむ…ここはだな?………。」
まとめるとこの国はアルマイト王国と呼ばれており、この国を治める一族をアルマイト一族と呼ぶそうだ。今までずっとアルマイト一族が国を治め続けてきたそうだ。そして、この国が治める一帯の名称はミネラーレと呼ばれており様々な鉱石が豊富に取れるらしい。だがその一方で植物の育ちが他の国に比べて悪いらしく食材のほとんどを他国に頼って賄っているそうだ。
そして東に位置するミネラーレとは別に西側には様々な植物類を多く生産しているハーベスタ帝国があるピアンタ、南側には陸地は少ないが海産物を取り扱う事で有名なペスカ王国のあるペスケリア、北側に常に寒くあらゆる生産に不向きなポシビリタがある。各場所には国が存在しているのだが、唯一北側のポシビリタだけは部族からなる小さな集落が各地に点在するだけなのだとか。
ここまで説明されて確実な事はここが俺が居た地球の日本ではなく明らかに異世界だという事だ。正直冗談であって欲しいとは思うが、俺個人を狙ってドッキリをする暇な人間はいないだろうし、ほぼ間違いないだろう。俺はあの謎のチケットでここに来た可能性が高い。アレは一体何だったのか?そして、あのチケットは何故俺の手元から無くなったのか?色々な疑問が湧いてくるが、俺の疑問に答えてくれる人はいるのだろうか?あぁ…新たな就職先は探していたが、その勤務地が異世界とか…有り得ないだろ。俺はこれからどうすれば良いんだ、誰か教えてくれ。
飽きずに読んでいただけると嬉しいです。