第1回 短気な女騎士に絡まれる
今日で2回目の投稿です。お楽しみいただければ幸いです。
鋭い視線を向けられたままで、どう答えればこの状況を打破できるのかを考えてみるが…うん、わかんね!変に誤魔化そうとしたら後ろに控えている女騎士に殺されそうなので、ありのまま起きた事を答えるぜ!(冷や汗)
「あの…ですね、今から話す事はとても信じられないと思いますが、最後まで聞いて貰えますか?」
「へぇ…信じられない様な事を話してくれるのかい?それはとても興味深いね。是非とも聞かせて貰えるかい?」
「殿下!この様な男の話など聞くに値しません!即刻処分すべきです!」
「はぁ…メルティス、君は少し落ち着く事を覚えてくれないかい?こうもそばで荒ぶられても困るんだよ?分かってるかい?」
「ですが!殿下…」
「黙ってくれないかいメルティス、これ以上は言わないよ?」
「…!申し訳ありません殿下、下がっております。」
「えっと?俺…僕は話をしても大丈夫なんでしょうか?」
「あぁ、彼女が暴言を吐いてすまないね。処分なんてしないから話を聞かせて貰えるかい?」
「そちらの女性も話をしても問題ないですか?」
「……殿下が良いと仰ったのだ、私に許可を得る必要はない。…フン!」
「…はぁ…すまない、彼女の事は気にしないでくれないかい?後で僕からしっかりと言っておくから。」
「いえ…特に問題ないので、大丈夫です。」
「ありがとう助かるよ、では今度こそ君の話を聞かせて貰えるかい?」
「はい、それでは…。」
話をする前に色々とあったが、何とか俺がどうしてこの場所に至ったのか?の話をした。仕事帰りに通った場所で光に包まれた事、それによって気がついたら平原に立っていてそこから安全な場所を探して歩いてきたら、ようやく見つけた森の中に安全な場所を求めて一か八か進んできた事。そして森の中を歩いて直ぐに先程の大きな猛獣に見つかり殿下達に発見された事までを細かく説明した。
「…なるほど、では何かい?君はここではない場所から唐突に移動してきて、何処か人里を探すようにこの森の中に入ってきた、と。うぅん…これはどうしたものかなぁ。」
「あの…何か問題があるのでしょうか?」
「問題か…あると言えばあるかな?君の素性を証明できる物があれば良いんだけど…何か持ってるかい?」
「俺…僕の素性を証明する物ですか?えぇ~と、免許証ならあるんだけど…。」
「メンキョショウ?それは君の証明書になるのかい?」
「あぁ、あのですね?俺の…僕の住んでいた場所ではこれが証明書の代わりになったんです。これでも問題ないですか?」
「見せてもらっても構わないかい?…どれどれ?……これは…凄いな…なんて精巧な絵なんだ。これを書いた絵師はかなりの凄腕だね。是非とも紹介してほしいぐらいだ。僕の彼女の姿絵を描いてほしいね!」
殿下と呼ばれる男性が見てたのは免許証に貼られた俺の写真だった。あぁ…絵と勘違いしちゃったか。どう説明しようかな?写真の説明をうまくできるかわからないし…適当に誤魔化すか。
「あぁそれは絵ではなく写真と呼ばれる物です。あいにくとそれを取る為の装置は持ち運べる物ではないので、無理だと思います。」
「そうなのかい?そうか…それは残念だね…とても残念だ…。」
そんなに落ち込まなくても…なんだか可哀想だが無いものは無いのだからしょうがない。ここは諦めてもらう他ないだろう。それよりも話を進めたい。
「それで、あの…これで俺の…僕の証明になりますか?」
「あぁ悪いけどこれじゃあ無理だね。物は凄いと思うけどこれじゃあ何処の国に行っても無理だよ。逆に不審者として捕まるんじゃないかな?良かったね?初めて訪れた国がここで。帝国なんかに行ってたら……うん、まず間違いなく大変な事になってただろうね。」
「そんなに…ですか?」
「うん、間違いなくね。こんな珍しい物を見た帝国がみすみす見逃す訳がないよ。」
ブルブル…危なかったなぁ、俺の勘も馬鹿にならないようだ。勘に従ってここに来て良かったようだ。でも、そうか…これじゃあ身分証にはならないようだ。そうなったら俺はどうすれば良いんだ?
「フフ…困ってるようだね?もしよければ僕達と一緒に来るかい?君の様な人なら大歓迎だよ?」
「本当ですか?是非お願いします!」
すると先程までは静観していた女騎士が遮るように反対を告げてきた。
「殿下!なりません!この様な不審人物を城に連れて帰るなどと!何かあってからでは遅いのですよ!」
「またか…メルティス、君はどうしてそう落ち着きが無いんだ?それにね?彼にいつまでもここに居られると僕ら王族は困るんだよ。それでも良いというのかい?」
「でしたら、ここで此奴を斬ってしまえば良いのです!殿下のお手は煩わせません!私が殺りましょう。」
そういうなり剣を抜いて俺に向けてくる女騎士、コイツやべぇよ!人の話を全く聞く気すらねぇな!なんでこんなに斬りたがるんだよ。イカれてんのか?
「コッチへ来い!私自ら貴様に引導を渡してやろう!」
「ヒッ!そ、そんなの嫌に決まってるだろ!なんで何もしていないのに殺されなきゃいけないんだよ!さっきから殺す殺すって、アンタ頭おかしいのか?」
「なんだと?先程から殿下の背に隠れおってからに!もう我慢ならん!覚悟しろ!」
「うわぁ!なんなんだよ本当に!コッチ来んな!暴力女!」
「私が暴力女だと?私は殿下の護衛の為に力を振るっているのだ。これは暴力などではない!」
いやいや、どう考えてもいわれなき暴力だよ!って言ってる場合じゃねぇ!このままじゃ斬り殺される!せっかくさっきの犬?から助けて貰ったのに人に斬り殺されてたまるか!
「いい加減にしろ!メルティス!!何度私の言葉を無視する気だ!」
いきなりの大声に身を縮こませる…びっくりしたぁ、まさかこんな大きな声を出す人だとは思わなかったから余計にだ。女騎士を見ると彼女もびっくりしたのか、殿下を見て固まっている。やーい、バーカバーカ!何でもかんでも殺そうとするからそうなるんだ。
「君もだよ?メルティスを挑発するような言葉は控えてくれないか?この短時間でわかったはずだが、彼女は極端に短気でね…それを治させる為に一緒に行動していたのだが…どうやらそれが裏目にでたようだね。はぁ…。」
俺まで怒られてしまった…まぁ自業自得といえばそうなのだが、何処か納得がいかない。まぁこれ以上事を荒立ててしまうと俺に対する印象がドンドン悪くなるからここらへんで素直に聞き入れておこう。この人達に会って忘れていたが、今の俺は迷子状態なのだ。家に帰る算段がつくまでは大人しくしておこう。
「すいませんでした、以後気をつけます。その…あなたも…。暴力女は言い過ぎました、すいませんでした。」
そこまで言ってしっかりと頭を下げておく社会人としての常識はここでも通用するかもしれないし。
「彼は謝罪したが…メルティス、君は何もしないつもりなのかい?」
「うぐぐ…その、いきなり斬り殺そうとしてすまなかった。次からは気をつける。」
「謝罪と言うには随分上から目線だが…許してやってくれないか?」
「はい問題ありません、彼女の謝罪を受け入れます。これ以上はお互いに良くないと思いますので。」
「へぇ…君は年下なのに随分と礼儀正しいね?もしかしてどこぞの貴族なのかい?」
「いえ、違いますよ。俺…僕の住んでいた国では基本的に学ぶ事ですから、そこをしっかりしないと仕事が出来なくなりますからね。えぇ…それが例え嫌な相手でも…ハハハ。」
「そ、そうなのかい?それはまた随分と厳しい国なんだね?貴族でも無いのにそこまで求められるなんて…あれ?もしかして貴族でないなら商人なのかな?商人なら丁寧な言葉づかいにも納得だけど…どうなんだい?」
「えっと…商人ですか?そうですね…うぅ~んまぁ似た様なものですかね?」
「お?やっぱりかい?でも、君はそれらしい物を何も持っていないけど…もしかしてボックス系のスキルが使えるのかい?もしそうなら商人としてはかなり有能だね。」
なんか聞き慣れない言葉が出てきたぞ?なんだボックスって?あとスキルとか?疑問もさる事ながら…今更商人じゃないとも言い辛いし…どうしよう?
「おっと?そうか!確か商人達は身の安全が保証されない限りスキルの詳細は明かせないんだったね?すまない、これは僕の落ち度だ。今のは聞かなかった事にしてくれ。」
「え、えぇ、特段問題はありません。気にしないで下さい。」
「そう言ってくれると助かるよ、そうだ!そろそろ戻らないと本格的に暗くなってしまうね。ここは暗くなるとさっきの魔物より凶悪な奴が動きだすからね。いい加減戻るとしよう、メルティス戻るよ?殿は頼んだよ。」
「…はい、お任せ下さい殿下。必ずや安全を確保します。」
「(まだ引き摺ってるか…これは考える事が増えたな。)そうか…頼んだよ。じゃあ出発だ!君もはぐれないようにしっかりと僕に着いてきてくれよ?それじゃあ行こう!」
「は、はい、わかりました。よろしくお願いします。その、あなたもお願いします。」
「私の事は気にするな…お前は前を歩く殿下に付いていく事だけを考えていればいい。」
「そ、そうですか…わかりました。」
スネた女騎士の視線を背後に感じながら殿下に付いていく。どうか何事もなく無事に人里にたどり着けます様に!そう祈りながら殿下の後を付いていくのだった。……それにしても俺って現地の人と勘違いされ続けてるんだが…大丈夫だよな?
明日も投稿しますよ~。