プロローグ
どうも皆さん!けだるまと申します。本作が2作目になります!初めての方も1作目と平行して見てくれる方もよろしくお願いします!
面白い!と思ってくれたら…いいなぁ。
見渡す限りの緑の草原、空を見上げれば眩しく照らす太陽、そしてその一帯に吹く緩やかな微風。空気も爽やかで深呼吸をすればスッキリとした気分になれる。こんな気分のいい場所に立っていると都会の汚れた空気にさらされていた体がキレイになっていくような気分になれる…のは良いんだけど…。
誰でもいいから聞きたい事があるんだ…ここは…どこ?
◇
俺の名前は斎宮券太今年26歳になる。今までの人生をただただ流されるように生きてきた。特に考える事なく学生時代を過ごし、社会人になってからも親の知人にこの会社どうだ?と言われれば特に確認する事もなくその会社に就職した。その務める事になった会社は時代の流れにのってリサイクル業を中心に行っている会社で個人や倒産しそうな会社などから不用品を買取して、修理が可能なものは修理して再度需要がある場所に売り込みをして、そこで更に要らない物などがあれば買い取っていきとこれを繰り返していく事で経営を続けていた。中々の売上があり給料自体もかなりの額を受け取っていた。だが、それも陰りを見せ始めた。
昨今の輸入品などによる激安事情とリサイクル業者が増えすぎた事によりリサイクル業そのものの経営が徐々にではあるが立ち行かなくなっていった。そうなってくるともちろん自分達の会社もそのあおりを受けてしまう事になった。買取そのものは以前と変わりなくできるのだが、販売に影響が出てきたのだ。どれだけ修理しても物が売れなければ意味がない。会社はあっという間に追い込まれてしまい残ったのは売れない修理済みの商品と買い取ったのは良いものの修理する為の資金が無い為に倉庫に山積みになった物だけだった。
結果会社は倒産する事となった。もちろんそうなると給料自体も払われない、そこで社長は苦し紛れに社員達にある提案をしてきた。
「皆すまない…なんとか現金を都合して給料を渡したかったのだが…残念ながら目処をつける事ができなかった。本当にすまない!それで、な。とても心苦しいのだが…ここにある物を渡すという事で給料の代わりにしてはもらえないだろうか?営業に使っていた車なんかも古いがまだ使えるのでこれも欲しい人は貰っても構わないし、保管してる商品から欲しい物があればどれを貰っても構わない。だから…それで手を打ってくれないだろうか。頼む!」
それだけ言った後に流れる様な動きで土下座をする社長。正直社長には今までかなりお世話になった。給料だって会社に儲けがでていればそれなりの額をくれたし、儲けがそこまでじゃなくても普通に生活が出来る程度にはしっかりとくれたので、これまで生活する分には何不自由なく生活を送ってくる事ができたのはひとえに社長が俺達社員をしっかりした扱いをしてくれたからだろう。そんなの当たり前だろ?と思う人も居るだろうが、自分の周囲ではその当たり前が無い人が結構…いやかなりの人数いたので、自分は恵まているのだなと思えたのだ。だから少なくとも俺はそれでいいと思えたので、社長の提案を受け入れる事にした、が。そう考えていたのは俺だけでは無い様で皆が皆そう考えていたみたいで、提案を受け入れるの同時に欲しい物に向かってまっしぐらに向かっていった。
しまった!出遅れた!!色々と回想してる間に他の社員含む従業員達は我先にと欲しい物目指して向かっていったようだ。俺も出来れば移動するのに車が欲しいので、手に入れようかと思い営業車が止めてある駐車場に向かって走っていくと……なんてこった、既にめぼしい車は取られた後で一台も残っていなかった。がっかりしてる暇はない!それならせめて、と思い何か現金に変えられそうな物を手に入れるべく倉庫に向かった所……やはりというべきだろうか?良いものは全て無くなっていた。
あぁ…なんという事だろうか…もはや残っているのは買取品のみとなっており、修理済みの物は既に全てが取られていた後だった。……仕方ない、せめて買取品から価値のある物を探し出してそれを売る事にしよう。あれば良いんだけどなぁ…無いだろうなぁ。
買取品が収められている倉庫につくとここも既にあらかためぼしい物は持ち出された後だった。皆行動が素早すぎやしないか?仕事の出来る人達なのは知っていたが、こんなに行動が早いとは思いもしなかったぞ?
それにしても…だ。皆かなり長い事リサイクル業に従事していたからか目利きが良い、さっきから掘り出し物を探そうと倉庫内を歩き回っているのだが、ガラクタばかりが目立っている。流石にガラクタはいらないな。
それから更に倉庫内を歩き回りせめて何かを持ち帰ろうと意気込んで探してみたが……残念ながら良い物が見当たらない…かんっぜんに…出遅れすぎた!このまま帰ったら今月の収入は何も無いぞ?どうすれば良いんだよ…何か…何か無いのか!せめて、せめてでいいんだ!何か価値のある物を探さないと!………。
あれから色々と探し回ってみたものの結局の所価値のありそうな物を何も見つける事は出来なかった。あぁ…最悪だ。どうしよう…このままじゃ今月の生活は少しばかり苦しい事になりそうだ。
もう仕方ない、これ以上探しても時間の無駄だろう。時間は既に22時を回っている、俺は探索を諦めて自身の手荷物を取る為に事務所に戻る事にした。
事務所の中には既に他の従業員はおらず、皆欲しい物を手に入れた時点で社長に挨拶をして帰っていったそうだ。そして、唯一なんの成果を得る事も出来なかった俺だけが今の時間になって戻ってきた、と言う訳だ。とほほ…俺ってそんなに鈍くさかったかな?
俺が事務所に入ると社長が何も持っていない俺を見て首をかしげて話しかけてきた。
「斎宮君どうしたんだい?他の人達は色々持っていったようだけど、君は何も持っていないね?欲しい物が見当たらなかったのかい?」
「アハハ…初めは車が欲しくて駐車場に言ったんですがね?既に取られた後で、それならと思って何か持って帰ろうと思って商品保管庫に言ったら既に空っぽで、なら価値のありそうな物でもと思って買取品保管庫に言ったらそこも既に…と言った感じでして、せめて何か無いかと探し回っていたらこんな時間になってしまいましたよ。」
「なるほど…それで君だけが手ぶら何だね?ん~あまり大した物ではないが…ちょっと待っててくれないか?すぐに取ってくるから!」
「ちょ、ちょっと!社長!どこに…。」
何かを取る為にと席を外した社長は駆け足で事務所を出ていった。正直諦めていたのであまり期待させないで欲しいんだが…無理だろうな。社長は優しい人だから…何も持っていない俺を見てかわいそうに思ったのだろう。でも、あまり期待しない方向で行こう。それよりも次の職を探す事を考えないとな。そう思いながら社長が戻るまでの間にとスマホを取り出して求人サイトを見ようとしたら、社長が戻ってきた。随分早かったなぁと思いながらスマホをポケットにしまう。
「斎宮君!これ少ないけど現金を用意したよ!それと…これだ。珍しい知人に貰った物なんだがよければこれも貰ってくれないか?押し付けるようで悪いんだが、私もこれから会社の後片付けで忙しくてね…こういう占いなのかな?こういうのに行ってる暇が無いんだよ。だから君に上げるよ!」
社長がそう言いつつ渡して来たのは現金5万円と虹色に光るチケットだった。現金は嬉しいのだが、この見るからに怪しいチケットはどうなんだろうか?しかし、俺の為にとせっかく社長が準備してくれたものに正面からケチをつけるのもためらわれたのでお礼を言ってポケットにしまう事にした。
「それじゃあ…斎宮君、もう会う事も無いかもしれないが元気でね!きっと君ならどこでもやっていけるよ。頑張ってね!」
「はい…今までお世話になりました。社長もどうかお元気で…お疲れさまでした。」
お互いに若干涙ぐみながら別れの挨拶をして、今まで務めてきた会社から離れた。歩き進めて少ししてから何気なく会社の方を振り返る。すると、会社の入り口のあたりに社長らしき人影が今だにこちらを見て手を振ってくれていた。それを見てまた泣きそうになった。
今までなんとなく流される様に生きてきた、その流れでこの会社も務めたはずだった…なのに、俺はどうやらこの会社にかなり思い入れがあったようだ。こうして歩きながら泣いてしまうぐらいには。
歩く事しばらくして…家に向かって歩いていたはずなのだが、いつの間にか見知らぬ場所に来ていた。どうやら感傷に浸りすぎていたようで気づけば普段こない場所に来てしまったようだ。しょうがない…用がない場所にいてもどうにもならないので、来た道を引き返そうとした時だった。たまたま目についた空き地に何故か妙に惹かれる建物が目に入った…なんだろうか?とても気になる。このまま帰ってしまったら後になって気になる!となるのも嫌なので、どうせなら見に行ってみよう。…どうせ明日からは朝の出勤時間を気にする必要はないしな…。
その気になった建物に近寄ると……あれ?もしかしてここってお店なのか?建物そのものはどこにでもあるようなプレハブタイプの貸店舗みたいな感じで、大きさとしてはこじんまりとしておりかなり小さい。う~んだいたい5坪くらいかな?そしてプレハブの壁には何やら見た事があるような看板?がある。看板には『あなたをあなただけの理想の世界へ誘います!』と書いてある。
うわぁ~なんて胡散臭いんだろう。占いか何かの店だろうか?そして、何故俺はこんな胡散臭い店?が気になったのだろうか?しかし…さっきからずっと見てるんだが…何で何処かで見た事がある様な気がするのだろうか?ただの思い過ごしか?それとも本当に見た事がある?う~んわからん!
その時俺は何故だがポケットの中身が気になったので、ポケットに手を突っ込んでみると先程社長に貰った妙なチケットが入っていたのを思い出した。取り出したそのチケットを見ると……あぁ!この店の看板が見た事あると思ったら、このチケットと同じ事が書かれていたからだ!ようやく謎がとけた!それにしてもこの店?もしかしてこのチケットがないと入れない様な会員制なのか?正直そこまでの店には見えない。まぁ何はともあれせっかくの機会だし中に入ってみよう。ちょっとした気晴らしくらいにはなるだろ!
店の入口らしき場所の前に立ち、中に入ろうと扉を開けようとしてみるも何故か開ける事ができない。あれ?もしかして今日の営業は終わったのか?それなら仕方ないな。どうしても入りたい訳では無かったし別にいいかな?そう思い店を後にしようとした瞬間だった。手に持っていたチケットが光っている。初めはチケットに街灯の光が当たって反射してるだけなのかと思い気にしてなかったが、光がドンドン強くなってきた。終いには目を開けるのもキツイ程に光が強くなってきた。まるで太陽を直視した時ぐらいに目を開けている事ができない!あまりにも光が強くなってきたので、光源元であるチケットを放り投げようとしたら…チケットが手から離れない!なんだコレ!手をブンブンと思いっきり振り回すも全く手から離れずにまるで吸い付いてるかのようだ!
あ!そうだよ!何故俺は手をわざわざ振り回してるんだ?もう片方の手で取れば良いじゃないか!そう思い付き右手に持っていたチケットを左手でつかみ今度は思いっきり投げ捨てようとしたら…チクショウ!今度は左手にくっついてしまった!はたから見ると頭が可怪しいと思われかねない行動をしているが、奇妙な状況に囚われたこちらは完全に動揺しており、周りを気にする暇もない。そして、色々手を尽くしながら振り回しているとほんの少しだけだが、目が光に慣れたのか少しだけ周囲の状況を確認出来る様になっていた。いつの間にか俺は立ち去ろうとしていた店の目の前にかなり近づいていたようで、振り回した手が扉にぶつかった!と手に痛みを感じるのと同時に先程は開く事もなかった扉が開いていくのが見えた。開いたのが確認できるの同時に今までよりも更に眩しい光が俺を覆うとそれをきっかけに俺は意識を失ってしまった……。
◇
で、光がおさまるとここに突っ立っていたんだ。な?どこかわからないだろ?そして、理解が出来ない。幾ら会社帰りの道をいつもより通り過ぎたとは言えこんな平原に辿り着く事はまず有り得ない。本当に何がどうなるとこんな場所に来るっていうんだ?まさか……さっきのプレハブの扉を潜ったらここに来たのか?あの光で眩しい中唯一覚えてるのはあの扉を潜ったと言う事だけだ。それ以外はほぼ見えなかったので覚えるも何も無いし。振り返って見てみる…が、扉は何処にもない。周囲を見渡して見ても…それらしい物は何もない。
しばらく…周囲を探して回ってみたが、やはり何もないし誰も見当たらない。もしかしたら聞こえるかもしれないと大声で『誰かいませんかーー!』と叫ぶも何の反応も返ってこなかった。それと周囲を探っている時に気づいたのだが、例のチケットがいつの間にか無くなっていた。ポケットにでも入れたか?と思い確認するも無し。落としたのかな?と思い探して見るもやはり何処にも無い。
おいおい…あのチケットってここに来たきっかけだったんじゃないのか?もし、今考えてる事が合っているのなら…俺って元の場所には帰れない?まさか…嘘だよな?こんな見渡す限り建物すら見えない場所で何をすればいいんだよ!
「チクショウ!俺を元の場所に戻せよ!!俺は家に帰りたいんだ!次の就職先も探さないといけないんだぞ!」
あれからそれなりの時間が経過した。幾ら叫ぼうが何も変わらないようで、結局時間が経過しただけで、相変わらず同じ場所に留まっている。そろそろ観念しよう。ここには誰もいない、その上何も無い。いい加減ここから移動しないと暗くなってしまう。こんな明かりも無い場所で寝て朝を迎えるなんて冗談じゃない。夜になったら何が出てくるかわかったもんじゃないだろ?ライオンとかヒョウとかいるかも?なんて思い初めたら落ち着かなくなってきた。日が高い内に何処か建物なんかを探してみないと。
そうと決まれば何処へ向かって進むべきだろうか?目印になりそうな建物はもちろんの事ない、それなら適当に進むか、方角を決めて進むか?まぁ適当に進むよりは方角を決めて進むほうがいいかな?それなら進む方角を決めようか…何処がいいか。まず南はどうだろうか?なんとなく暖かそうだしな!でも…なんとな~くではあるのだが、今はまだ行かない方が良いような気がするんだよな。と言う訳でその反対の北はどうか?でも…北は寒そうだよなぁ。うん、ナシで!では、西はと考えた時だった。強烈に行きたくない!と思った。何故か?と言われれば…う~ん勘?としか…。では東なら!と思ったら?OK!と思えた。何故そう思ったのかは知らないが当てにする物など無いし、自分の勘に従っておくとしよう。
東に進む事に決めて歩きはじめようと思ったけど…あれ?東ってどこ?え~と太陽が沈んでいく方向が西だから…と見てみると、まずいなぁ先程よりもかなり日が沈んでいる。このままじゃあと2~3時間も経てば日が沈んですぐに暗くなってしまうだろう。グズグズしてると本当にマズイな…方角はある程度わかった、決めた方角である東に向かって進もう。
あれからかなりの距離を進んできた、先程までは草原が続くばかりだったがチラホラと木が見え始めてきた。ここからちょうど進路上を見渡すと森が見える。ここで問題だ。日はかなり傾いており正直あと1時間もしないで暗くなるだろう。このまま進めば暗くなるのと同時期ぐらいに森の入口あたりに差し掛かるはずだ。だが、暗くなってから森に入る?……いやいや、それは流石に怖すぎる。
暗くなったら夜行性の動物も動き始めるはずだし、何より今だにここが何処かわからないでいるんだ。手掛かりも無いし、ましてや人にすら会っていないんだ。自ら危険な場所に入るのはどうなんだ?かといって安全な場所も無い。危険を覚悟して森の中に入るか?それとも迂回する?しかし、迂回するにもこの森かなり大きいようで端の部分が全く見えない、迂回するにしてもどれだけの距離を歩けばいいというのかわからない。一か八か森の中に入ってみよう。
恐る恐る森の中に入っていく…変な鳴き声だったり雄叫びも聞こえない。妙な気配も今の所感じないし大丈夫かも?そう思い一歩進むと…『ペキ!』おわ!って何だよ…自分で枝を踏んだだけか…過敏になりすぎだな。もうちょい落ち着こう、スーハースーハー…よし!もう一度進んでみよう。と、その時だった。
ゴォアアアアアアアー!!
うわわわ~何だ!今の何だ!!ヤバい!めっちゃ怖い!に、逃げよう!こんな所に来るんじゃなかった!早く逃げないと今の叫び声の持ち主に殺されるかもしれない!
本当にここは何処なんだよ!それにあの雄叫びみたいなのは何なんだ?どんな猛獣がいるんだよ!なるべく声を出さずに森から出る為に後ろを振り返る……良かった。何もいないな。
走り出したい衝動をなんとか抑え込み先程の様に枝を踏んで物音を立てないように、しっかりと足元を確認しながら森から出て行く事にした…のだが、俺は自分が思ってる以上に動揺していたようで文字通り足元しか見ていなかったのがまずかった。
バキッ!という音がするのと同時に頭に痛みが走った。どうやら足元ばかりを見すぎていたせいで、頭の高さにある枝を全く見ていなかったのが原因だった。
ヤッベェーーー!やっちまったぁ!何でこんな時に限って音を立てちまうんだ!や、ヤバい…今の音を聞いてさっきの声の主がここに来てしまったら…きっと俺なんてあっという間に頭から齧られてしまうに違いない!ど、何処か逃げる場所…そんな場所ある訳ねぇ!ってかあったとしてもわかる訳がない!
マジでどうするか?……呼吸が荒くなるばかりで考えが全然まとまらない。当たり前だ、今までこんな状況に陥った事なんて一度もない。それなのにいきなりこんな訳のわからない場所に来て何が出来るっていうんだ?くそっ!なんとか落ち着くんだ!し、深呼吸をしよう。そうすれば少しぐらいは落ち着けるだろう。よ~し…ふぅ~ん、すぅ~ん……できねぇ!落ち着けるわけねぇだろ!っつ~か今の深呼吸ですら無かったわ!
それよりも周囲を見渡す………何もいない…か?俺はてっきりあの音を聞いてさっきの声の主が襲ってくるものかと思っていたんだが……それともさっき聞いたあの声は俺の恐怖心からくる幻聴だったのだろうか?と思った瞬間だった!
ガァァァァァ!グァァァァァァッ!―
うえぇぇぇ!やっぱり気の所為じゃなかったーーー!もう嫌だぁ!お家に帰りたいーー。本当にどうしたらいいんだよぉー。
俺がパニックになりヤケになりかけた時だった。バキバキとした音が物凄い速さで近寄ってくる!なにか来る!と思うのと同時だった。目の前に灰色の毛並みをした大きな何かが立ちふさがった。獣臭さが凄い…雨に濡れた野良犬の様な臭いがする。あぁ…めっちゃくさいなぁ…鼻が曲がりそうだよ。
それにしても……人って…驚きすぎると何も出来なくなるんだなぁ。今の俺の状況はこのもの凄い獣臭いやつのヨダレが頭に大量に掛かっている…あぁ…なんて事だろうか、ヨダレまで臭いなんて…。
それにこのままなら俺は間違いなくこの大型の動物?に食われてしまうだろう。しかし、今の俺にはもうどうにも出来ない。はぁ…せめてなぁ…死ぬ前に彼女ぐらいは欲しかった…独身のまま死んでしまうのか…残念だ。
せめてこれ以上の恐怖を避けようと目を閉じてその時を待つ事にした。何をどう考えても今の俺に対抗手段なんて持ち合わせてはいない。今の俺に出来る事は如何に怖い思いをせずに死を迎える事が出来るか?だった。それなのに…ついつい気になって目を開けてしまった。目を開けた俺の視界に入ったのは……とても大きな牙だった……やっぱり嫌だぁぁーー!死にたくないーーー。
震える足で何とかその場から逃げ出そうとしたのだが、足がもつれてしまい倒れ込んでしまった。これでもう終わりだ。足は震えて力が入らない、ただただブルブルと震えていてもうどうにもならない。今度こそ諦めよう…そう思った俺の耳に何かしらの物音が聞こえた様な気がした。いや!確かに何か聞こえたぞ。頼む!俺を助けてくれる何かであってくれ!
迫りくる何かに期待をしていると俺の耳に奇妙な音が聞こえた―ザンッ!―何だ?まるで雑草を束ねて切った様な妙な音だった。音がした方向は俺の頭の上―つまり灰色のデカイ何かから聞こえた様な気がしたので、恐る恐る見上げて見ると……そこには先程までヨダレを垂らしていた灰色の何かの首から上が無い状態で立っていた……え?どうなっているんだ?一体何が起きたんだ?そう思い周りを見渡そうとした時、ズズゥン―…随分重さがあったようでかなりの大きな音を立てて灰色の何かが倒れ込んだ。助かった?少なくともコイツに喰われる事は避けられたようだ。
安心したのも束の間だったようで、ガチャガチャと金属をぶつけあう音が聞こえてきた。今度は何だ!?逃げる事をするのも忘れて立ち尽くしていると音の発生源であるだろう―あれは人か?中世ヨーロッパを舞台にした映画などで見かける様な物を豪華にしたような鎧を来た人物がこちらに向かって近づいて来ていた。そして俺はその人物と目が合った、合ってしまった。逃げ出したい気持ちに駆られるが、ここで逃げる?何処に逃げるんだ?と自問自答してる間にその鎧を着込んだ人物は俺の目の前まで来ていた。
「ーーーーーーーー?ーーーーーー、ーーーーーーー。」
ん?何かを言っているのだが、正直何を喋っているのかわからない。おそらくだが英語ではないだろう、あまり学がない俺でも少しぐらいなら英語がわかる。ではイタリア語か?それともフランス語?生憎とそこらへんの言葉なのだとしたら俺はわからない。せいぜいがニュースなどで聞いた事があるぐらいだ。理解してるまでには至らない。というか、だ。基本日本語以外は無理だ!なので、この人物が何語を喋っているのかはさっぱりわからない。
どうしよう?今だに何かを話しかけているが全然わからない上に、この人物なのだが…兜をかぶっているせいだろう影が差し込んでいて顔の表情が全く見えない。声を聞く限りで判断するにおそらく男なのだろうと言う事だ。
「ーーーーーーーーーーーーーー、ーーーーーーー。」
再度目の前の男が話しかけてくるが……うん、わからんね。それにさっきからカチャカチャ言ってるあの西洋剣がすごく気になる……怖いよ。わざと鳴らしてるんじゃないよね?威嚇してるのかな?『さっさと返事しろよ!聞いてんのか?』とか言ってるんだろうか?怖っ!
何とかしないといけないけど…う~ん身振り手振りで伝わるかな?やるだけやってみるか。色々伝える為にまずはやってみる事にした。
「え~と?お・れ・の・こ・と・ば・が・わ・か・り・ま・す・か?」
「ーーー、ーーーー?ーーーーー、ーーーーーーーーーーーーー。」
何かを話しかけて来た後に、後ろを振り返って手招きをしている?もしかして彼以外に誰かいるのか?程なくしてまたガチャガチャとした音が今度は複数聞こえてきた。……大丈夫だろうか?すごく心配なのだが…。
「ーーー、ーーーーー。」
「ーー、ーーー。ーーーーー!ーーーーー!!」
気の所為か?後から来た女性?だろうか。怒っている様な雰囲気だ。少し…いやかなり語気が荒い気がするんだが……まさかとは思うが『何だそいつは?殺してしまえ!』的な事を言ってるんじゃなかろうな?もし、そうなら今からでも初めの平原まで急いで逃げるぞ?…まぁその後の当てはないけどね…。
男の方が女性?らしき人から何かを受け取って俺に向かってきて、手を伸ばしてきた。彼の手のひらには指輪らしき物を持っていた。それを俺に差し出してきたのだが、俺が中々取らない為か指輪を手に持ち指にはめる様な動きを見せてきた。
きっとこの指輪をはめろ。という事なのだろうが…まぁ、あまり疑い過ぎてもしょうがない。今の俺は完全に迷子と一緒だ。帰り道すら知らないからな。
よし!騙されたと思ってこの指輪を受け取ってはめてみよう。覚悟を決めた俺は彼から指輪を受け取り、適当に指輪をはめようとしたのだが…あれ?これ結構大きいサイズだなぁ…と思って右の人差し指から外そうとしたら、指輪が急に小さくなり俺の指のサイズにぴったりになった。
うわ!なんだコレ?どういう仕組みなんだ?さっぱりわからない…。と、俺が混乱の極みにいた所に彼が話しかけてきたが、その時に俺はびっくりしてしまった。
「ふむ…どうかな?今なら僕の言葉がわかるかい?」
「え?い、今話しかけてきたのはあなたですか?」
「あぁ、そうだよ。その様子なら僕の言葉を理解出来てるようだね?僕だけが君の言葉を理解出来ていても仕方ないからね。」
「えぇ!俺の言葉を理解していたのか?俺は全くわからなかったのに…。」
「貴様!誰に対してその様な言葉を掛けてるんだ!お前の様な庶民と同じでは無いのだぞ!頭を下げろ!この下賤の者が!」
唐突に掛けられた罵声に驚いてその方向を向くと目の前の彼と同様に全身甲冑の女性?のようだった。何故なのか?と言われたら顔が見えないので彼同様声だけで判断したからだ。
あと、口調に気を付けておこう…。
「えっと…今の怒声はそこの彼女?ですか?」
「おのれ…貴様!無礼だぞ!私はどう見ても女だろうが!そんな事もわからないのか、これだから下賤の者は!」
「……いやぁその姿で女性と判断するのは厳しい物があるんだけど?」
「この姿を見て私が女性だとわからないのはお前が下賤だからだ!愚か者め!」
「ねぇ…メルティス?僕も初めて会ったとしたら、わからないと思うよ?」
「何故ですか!殿下!私は女性らしいでしょう?その男に合わせる必要などありません!」
「いや、あのね?メルティス。自分の姿をよく見てご覧?自分が言ってる事がおかしいのが良くわかると思うよ?」
殿下と呼ばれた男に促されて自分の姿を見る全身甲冑の女性。ガチャガチャと音を立てながら確認した後に、一度俺を見た後に咳払いをしてから兜を外すと?
なんと、兜の下から現れたのは長くきれいな金髪をした見るからに美人と言っていい女性だった。
「う、ぅん!どうだ?これで私が女だとわかっただろう?」
先程よりはいくらか落ち着きを取り戻したのか、話し方が若干マイルドになった。しかし、目つきは鋭く俺を睨みつけている。美人の鋭い目つきって怖いってよく言うけど、実際に見ると本当に怖いな。視線を外したくてしょうがないんだけど…。
「あぁ、そう言えば僕もまだ兜をかぶったままだったね?僕も外す事にしようか…と、どうだい?僕は男だってわかるかい?」
兜を脱いだ男を見ると側に控える女性よりも濃い色をした金髪を短くした男性アイドルにいそうな髪型をしていた。チッ!イケメンかよ…イケメンはいつでもいい女を侍らせてやがる!こちとら彼女すら出来た事も無いというのに…世の中とは不公平なものだ。
俺がブツブツと小声で愚痴ってるのが聞こえたのだろうか?男が俺に反論してきた。
「残念ながら彼女は僕の恋人ではないよ。それに勝手に僕の恋人にしては彼女に失礼だよ?ねぇ?メルティス?」
「と、とんでもございません殿下!で、殿下が望まれるのでしたら不肖このメルティス、殿下に尽くしたく思います!」
「メルティスにそんな事言わせたら、僕は彼女に怒られてしまうよ。だから、メルティスはちゃんと自分の好きな人を見つけるといいよ。っと話が脱線してしまったね。」
急に真面目な顔つきになって俺に向き直ると彼は俺に質問をしてきた。
「君は…どうしてこんな場所に居るのかな?ここは立入禁止の場所でこの国の王族が許可を出さねば立ち入る事は出来ない場所なんだ。どうやって?何を目的にここへ来たのか…話してくれるかな?」
質問された瞬間背筋にゾゾッと寒気が走った。先程までの穏やかな気配と表情は消えて鋭い視線をぶつけてきた。さて?俺はどう答えたらこの場を切り抜けられるのだろうか?
前書きでも書きましたが、どうも作者のけだるまです。こちらの作品はとりあえず5話まで一日ごとに上げて様子を見てみようと思います。今回から敢えて言わせていただきたく思います!……評価をポチッとしてくれると嬉しいです。自分の作品が多く評価されてくれるととても嬉しいですし励みになります。
仕方ねぇから評価してやんよ、という気持ちでも構いません。もちろん面白いから評価しておきますね!だとなお嬉しいです。皆様よろしくお願いします!