婚約破棄された悪役令嬢の侍女はガチャ重課金者となって、もふもふでいっぱいのダンジョンに堕ちる
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異世界転移者の『共感力』おっさんに会う前の話です。おっさん出てきませんので、ご了承願いますm(_ _)m
アイリスは真剣な顔で時計をにらんでいた。
もうすぐ、正午だ。
(3、2、1……いけっ!)すかさずガチャ機に金貨をつっこみ『三百連』のボタンを押す。
どどどどど、と転がり出る大量のボール。それをアイリスは、期待に満ちて次々と開けていく。
―――金を捨てるようなもの、とよく言われるが、この『もふもふガチャ』は違う。
注意深く観察すれば、当たり時間帯が存在する。それが、今このわずか1分間なのだ。
ここに集中して投資すれば、リターンは必ずあるのである。
「やったぁ!」口から思わず歓声が漏れる。
一体いくつ目だったか。
開けたボールの中で、白銀の長い毛にユサユサのしっぽ、猫耳と羽を持つもふもふ生物が丸い青の目をこちらに向けていた。
レジェンドレアの天使猫だ。
(これだから、やめられないぃ)
一瞬の間に給料1ヶ月分を注ぎ込む行為のもたらす、カタルシス。
激レアの出現を待つドキドキ感と、それをゲットした時の高揚感と充足感。
いわゆるザコでさえもが可愛いのも、もふもふガチャの良い点だ。
それに加え、アイリスには更なる理由があった。
『きゃあ!すごいです!』お嬢様の嬉しそうな声が脳裏に蘇る。
(あの頃は……幸せだったわ)
アイリスのお嬢様が婚約破棄され、もふもふたちを残らず連れて家出して以来、ガチャは想い出のよすがともなっているのだ。
『皆さん、いくらでもわたくしの魔力を貪って下さいな』
もふもふ生物に囲まれてとろけそうになっているお嬢様の顔を思い出し、愛しさに悶えていると……
「よう大漁かい?」
借金取りがきた。
「ええ。ウルトラレア以下は持っていっても良いわ。大切に扱ってね」
「OK!……ん?それは?」
しまった。隠した手元に、気付かれた。
「レジェンドレア!おい、これもだ!」
「シンディちゃんはダメ!」
「なら今すぐ耳揃えて全額返せや!」
「な、なら……!私のカラダでっ」
「そんなの何の価値も無いわ!」
―――色んな意味で打ちのめされたアイリスの手から強引に天使猫を奪い取り、借金取りは去っていった。
(ああ、シンディちゃん!いつかお嬢様にお見せしたかったのにぃ!)
アイリスは号泣しながら歩き続け、やがて。
ふと気付くと、そこには大きな立て看板が。
『もふもふダンジョンはこちら→』
これは入らずばなるまい。
アイリスは財布の残りを料金箱に捧げ、その洞窟に一歩踏み入れた。
もふもふで溢れたダンジョンの真の危険を彼女が知るのは、割とすぐのことである―――