32 降りそうで降らない
雨が降りそうな曇り空。湿った空気がまとわりついて、嫌気がさした。
「ほれ、行くぞ。」
遠くなる馬車をいつまでも見送っていた俺を、待ちきれないとでも言うように、ロジが小突いた。
「わかってる。」
俺が決めたことだ。後悔はない。だが、不安はある。
この中の誰かが、死ぬかもしれない。大怪我を負うかもしれない。
忘れていた、女神の不幸の知らせがちらつく。
俺は、頭を振って、不安を否定した。不安に思っていても仕方がない。その不安が足を引っ張って、悪い方に転ぶことだってあるのだ。
「で、どこに行くんだ?あいつらの拠点に行くっていうのはわかっているが、拠点がどこにあるかはわからないだろ?どうやって探す?」
「そんなの決まっておるじゃろ。」
甘く見ていた。なんか、ロジが探索魔法とか使って、拠点発見みたいな展開かと思っていた。俺は、鈴木に毒されすぎていて、チートを期待してしまうようだ。
「来ないの。」
寝そべって、あくびをかみ殺すロジ。
「毎日仕事をするほど、勤勉ではないようですね。ま、盗みに勤勉になられても困りますが。」
真面目くさった顔で、馬車の通る道を見張るサウス。
果たして、この方法はあっているのか?
俺たちがしているのは、張り込みだ。森の中から、馬車の通る道を見張り、盗賊たちが馬車を襲うところを見つけるのが目的。盗賊を見つけたら、盗賊たちが帰るところをつけて、その拠点を抑える。・・・そういう作戦だったのだが、まる1日たって時間の無駄ではないかと感じ始めた。だからといって、いい方法は思いつかないが、俺たちには時間がないのだ。
俺たちが盗賊を狙う目的は、攫われた女たちの救出。なるべく早く助けないと、女たちの精神が弱ってしまうし、体にも悪いだろう。最悪死んでいる可能性だってある。
「焦る気持ちはわかるがの、あせっても盗賊共は出てこんぞ。」
「わかってるよ。」
貧乏ゆすりをしている俺を見て、ロジはそう言ったが、その言葉はさらに俺をイラつかせた。歯ぎしりまでし始めた俺に、ロジはため息をついた。
俺は焦っていた。あれから、3日が経った。なのに、盗賊が現れない。そのため、拠点がどこにあるのか、いまだにわからなかった。
今日も俺たちは、森の中から目を光らせて、馬車の通る道を見ていた。
初日と同じで、今日は雨の降りそうな曇り空だ。結局初日は雨が降らなかったし、おとといも昨日も降らなかったので、今日こそ降る可能性が高いだろう。
雨の日の野宿は嫌だな。
「小僧、見つけたぞ。」
「は?何だよロジ。寝言か?」
ロジの言葉に周りを見渡す俺だが、馬車すら通っていなかった。
ずっと横になって目をつぶっていたロジのことだ。寝ていて、寝ぼけたのだろう。
「馬鹿者。ワシが寝ているとでも思っていたのか。ワシは、魔力鳥を使って周囲を探索していたのじゃ。」
「魔力鳥?」
ロジの鳥か。うぐいすとかか?
「第三の目とも呼ばれる魔法ですね。魔力で形作った鳥を動かし、周囲を視認する魔法です。人の行けない場所や広範囲の探索に役立ちますが、代わりに術者は動けませんね。」
サウスが、俺のために説明したが、ロジは最後のが気に入らなかったらしく、説明を改めてしてきた。
「大体はそんな感じじゃが、動けないわけではないぞ?ただ、頭が重くなるだけじゃ。」
「動かなかったよな?」
「そうじゃな。確かに、ワシは動かなかった。しかし、それは動かなかっただけじゃ。動けないわけではない。」
何か変なプライドがあるようだ。これでは話が先に進まないと、サウスがロジの言葉を肯定して、本題に戻った。
「それで、拠点が見つかったのですか?」
「いや、それはまだじゃ。」
「なんだよ・・・やっぱりもうろくしてんじゃねーか?」
「そう慌てるでない。盗賊の一味らしき3人を見つけたのじゃ。どうやら近くの町から拠点に戻る様子じゃ。」
「そいつらが盗賊だって、よくわかったな?」
「顔を見ればわかる。下品な顔をしておるからの。」
「・・・信じていいのか?」
顔で判断って、ロジも女とかわらないな。
「おそらく、ロジの言う通りだと思います。ロジは、人を見る目がありますから・・・それで昔はよく助けられました。」
昔ね。もちろん俺と出会う、ずっと前の話だろう。2人は、お互いに気を許している様子だし、同じ城に仕えている。色々な思い出がありそうだな。
「サウスが言うのなら・・・信じていい・・・か?」
「小僧、失礼じゃぞ!サウスは信じて、ワシは信じられんとでも言うのか!」
「あぁ。おいぼれはいつ、もうろくするかわからんからな。」
「お主な!」
「落ち着け、ロジ。勇者様も、御戯れはそこまでに。時間がありません・・・めどが立ったのなら、すぐ行動に移るべきだと思います。」
「そうだな。」
俺たちは、盗賊らしき3人追うことにした。




