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19 最悪の日



 鳥の鳴き声が聞こえる。朝が来た。

 昨日は散々だったな。女を助けただけなのに、その女がとんでもなく面倒で、女王様のような女だった。そんな女の相手を数時間もさせられて、本当に最悪な日だった。


 今日は、良いことがあるといいな。


「おはよう。」

 目を開けると、そこにはロリがいた。なぜ?


「おはようと言っているのよ?挨拶もまともにできないの?」

「・・・なんでお前がいる。」

「お・は・よ・う。」

「・・・おはよう。」

「よろしい。」

 ロリは満足そうに腕を組んで、笑った。


うざい。この女をどうにかしてくれ。


「もう、いいから・・・出て行ってくれ。」

「あんたね、感謝しなさいよ。今日は私が一日中ついていてあげるんだから!こんな幸せ、平凡顔のあんたじゃ、一生に一度あるかないかの日よ。」


 うわ、なんて最悪な日なんだ。




 今日は、鍛錬も勉強もしなくていい、休みの日だ。しかし、宿題はある。鍛錬の方は、素振りをしておくように言われたので、俺は素振りをするために宿の裏庭の方に出た。


 裏庭は、見せるための庭ではなく、洗濯物を干したりする場所があるような、生活感漂う場所だ。


「何するの?」

「素振り。って、本当に一日俺といるのかよ。」

「そう言ったでしょ?」

「帰ってくれないか?」

「無理。」

「なんでだよ。」

「別にいいじゃない。困ることもないでしょ?あっ!もしかして、歓楽街でも行くつもり?いっやらし~」

 一回でいいから、こいつを殴りたい。いや、殴れなくていいから、時間を戻してくれ。次は絶対こいつを助けないから!


「私のことは気にしなくていいから。さっさとやっちゃいなよ、素振り。」

「・・・気にしなくていいなら、もう話しかけるなよ。」

「やだ。」

「おい。」


 もう無視だ、無視。

 俺は、剣を構えた。新品の剣だが、もう手に馴染んだような気がする。


 先生に教えられたとおりに、ひたすら剣を振るった。


 しかし、まさか剣を手にすることになるとは、思わなかった。前の世界・・・もう、前世でいいだろう。前世で剣なんて、見たことすらなかったし、見ることもないだろうと思っていたが、目にするだけでなく、それを使うことになるとは。


 鈴木が知ったら、大興奮だな。あいつは、こういうのに憧れていたし、異世界転生とか夢だった。


 俺は、剣の刃を見た。新品の刃は傷ひとつなく、鏡のように俺の顔を写した。どこにでもいそうな平凡な男の顔。

 この顔も、もし鈴木がこの顔になったのなら、あいつは喜ぶかもしれない。太っていることを気にしていたからな。俺にとっては、平凡な顔だが、豚とか言われて蔑まれた鈴木なら、この顔は最高にいいのかもしれない。


 俺は、イケメンだったから、良いことひとつもないけどな。異世界転生とかも、別にしたいと思っていなかったし。


「ねぇ。」

 ロリが声をかけてきたことで、俺は素振りの最中だったことを思い出した。


「何を考えていたの?」

「・・・何でもいいだろ。」


 俺はため息をつく。こんな事、無意味だ。

 前世のことを思い出して、鈴木を思い出して、何になる?いい加減、前世のことは忘れよう。今の俺にはまったく関係ないのだから。宮前ロウは、ストーカー女に刺されて死んだ。


 今の俺は、何の力も持たない。勇者。ただの、魔王の生贄だ。


「あんたは、なんで素振りをしているの?」

「・・・しとけって、言われたからだよ。いちいちうるさい奴だな。」

「なら、ケーキ買ってきてよ。」

「は?」

 俺は、剣から目を離して、ロリの方へと顔を向ける。そこには、どこか勝気な顔のロリが嫌な笑みを浮かべていた。


「だって、あんたしろって言われればするんでしょ?ほら、買って来なさいよ。」

「買いに行くわけないだろ。」

「なんで?素振りはするのに、おつかいはしてくれないの?」

「これは、生きるために必要なことなんだよ!」

 そう言った俺は、自分の言葉に驚いた。


 生きるために必要なこと。


 俺は、生きるつもりなんだ。


 力がなくて、魔王と対峙することも拒めず、魔王と戦い勝つこともできないくせに、生きるつもりだった。笑うしかないな。


 どうせ、死ぬ身。これは、俺たちの口癖なのに、俺は死ぬ気なんてないんだ。口では死ぬ運命だと言いながら、生きるために必死こいて、こんな鉄の棒を振っている。


 いや、俺だけじゃないのか?生きる気でいるやつは。


 だって、俺にこんなことをさせているのは、サウスとロジだ。死ぬ奴に剣や知識を与えるか?魔王に会うまでに死んでもらっては困ると言っているが、実際魔王に会わなかったから困るということはないだろう。


「生きるために必要なことね・・・必要なことって他にも色々あるよね?お金とかさ。あんたはそういう中で、一番何を求めるの?」

「何って・・・そりゃ、力だろ。金は、ロジからもらっているし、知識も教えてもらっているから、どうにかなる。だが、力だけはだめだ。」


 俺には、何の特殊能力・・・チート能力ってやつが何にもない。魔法が無限に使えたりとか、威力が強いとかもない。そもそも、魔法の才能がない。


 剣も一応振ることは出来るが、実践は無理だと思う。剣が羽のように軽いなんてこともないし、俺の一撃で地面が割れることもない・・・いや、それはためしてないからわからないが、おそらくできないだろう。でも、一応後で試してみよう。


「力ね。ただ単に力が欲しいってわけじゃなくって、ちゃんと色々考えてるんだ。以外~」

「うるさいな。」

「見直したよ。」

「は・・・え?」


 ロリは、俺の剣を持っていない方の手を取った。


「ま、いいわ。あんたに、私の加護をあげる。そうね・・・昨日助けてくれたお礼ってことにしておくわ。」

「一体どういうことだ?加護?それにお礼って・・・」

「あんた、私のこと昨日助けてくれたじゃない?まさか、忘れたの?鳥頭?」

「覚えてるよ!いや、お前、感謝なんてぜってーしてねーだろ!」

「うん。でもま、いいじゃない。」

 ロリはにっこり笑うと、目をつぶって発光し始めた。


「まぶしっ!?」


 俺は目をつぶる。すると、バチンと何かがはじかれた音がしたので、薄目を開けた。もうロリは発光していない。


「うそ、なんで?」

「・・・何が起こった?加護ってやつを、俺に付けたのか?」

 ロリは、首を振った。


「加護が付けれなかったの。」




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