王立学園 -波乱の遠足 17-
クラウンが光る場所へ向かうとそこには人型の光る何かと、血を流し横たわっている小動物が居た。クラウンが食い入るように見つめると運悪く足元の枝を踏んでしまう。枝が折れた音に人型の何かが反応し、こちらを向いたような感覚を受ける。表情など全くわからないが、クラウンには目と目が合いこちらに微笑んでると感じた。そのまま人型の何かは消え去り、その場には横たわっている小動物とクラウンのみとなった。おそるおそるクラウンはその小動物へと近寄る。もちろん抜剣したままで周囲の警戒は解いていない。だが、襲撃される事なく小動物の元へと辿り着くことができた。
(これは…狐かな?すごく血が出てる。カラダは…冷たい)
小動物--子狐に触れて死期が近い事を悟るクラウン。このまま死なせるのも嫌な気分になるため、治癒魔法をかける事にする。しかし、クラウンの魔法では血を止めても体温が戻ることはなかった。何度か治癒させるが、一向に動き出す気配は無い。そこで、クラウンはアックスの話を思い出す。
(そういえば…。ぼくが白いモヤを出してそれで怪我が治ったっていってたな…)
子狐に手をかざしアックスの話を思い出す。だが、その白いモヤは出てくる気配は無い。回復出来る白いモヤとイメージしながら手に力を入れる。するとぼんやりとだが手から白い煙のようなものが出てきた。
(ほ、本当に出てきてる!えーっと…人型だったよな)
人型をイメージしながらまた手に力を入れるが、煙から人型に変化することはなかった。
(ダメだ…。せめて、この煙で包み込むような量が出てくれれば…)
クラウンが包み込む様なイメージを描くと、願いが叶ったのか手から濃い目のモヤが出てき始める。そのまま子狐をモヤで包むイメージで回復出来る様にと願う。すると、子狐を完全にモヤが包み込む。
モヤが晴れるまでクラウンは考え事をしていた。
(この魔法はなんだろう?魔法も詠唱してないし…そもそも見たこともないし)
目の前の光景に悩んでいると白いモヤが段々と薄くなっていく。そして、子狐の姿が露わになり体温を確かめる。
(暖かい…。ということは回復したってことだね。よかった…)
クラウンの手に子狐の体温と心臓の鼓動が伝わる。安心したクラウンはその場に子狐を置いたままバリー達の元へと戻ろうとする。その時だった。ふと何かに肩を叩かれた様な感覚を覚え、振り返ると子狐が立ち上がりクラウンを見ている。その綺麗な蒼い瞳がクラウンに語りかけてくるような錯覚を受ける。説明することは難しい、何とも言えない奇妙な感覚と共にクラウンの口から言葉が出てくる。
「…一緒にバリーたちのところに来るかい?」
クラウンの口から出た言葉は不思議なものだった。別に苦楽を共にした訳でもなく、ただ命を救っただけの存在であり育てる義理も無いと思っていた。理由は説明出来ないが、この子狐を連れて戻らなければという不思議な感情がクラウンに先程の言葉を吐き出させた。
クラウンの言葉を理解しているのか、子狐が鳴くとたどたどしい足取りでクラウンの足元へと近寄って来る。前足をクラウンの足に付け、登りたいと主張するように動かす。クラウンはその場にしゃがみ、子狐を抱っこする。肩に乗せようかと思ったが、抱っこが気に入ったのだろう。その手の中で気持ち良さそうに目を細めクラウンの親指を短い舌でひと舐めする。クラウンは赤ん坊を抱っこする様に優しく腕の中に子狐を抱き、そのままバリー達の元へと戻っていくのであった。




