目覚め -英雄の片鱗-
クラウンが小さな勇気を出してから、半年後。兄たちは頻繁に手紙を寄越してくる。内容は毎回どれも一緒だ。
ーーあれから何か変化はあったかーーーと。
忘れもしない自分が愛されていると知った日。そこには紛れも無い魔水晶の原石から反応があった。確かに魔力反応があったのだ。しかし、その反応は才能溢れる兄たちであっても見た事の無い出来事であった。
「うーん、何か変化あったかって聞かれてもなぁ。とりあえず魔力はあったよってしか返せないよ……」
あの日の出来事は余りにも現実味が無さ過ぎて、秘密にしようとクージルが言った。公爵と陛下には伝えはするが、他言はするなよと釘を刺したのだ。
「でもなぁ……言うなって言われても、何て言えばいいかわかんないよ」
とりあえず、魔力はあると知った翌日。クラウンは1人で魔力量増加の訓練を行なっている。どう使えるかはわからないが、魔力量が無ければ魔法が使えないのと一緒だからだ。ジルに教えてもらった事を反復しながら一日中魔力量増加の訓練を行っていた。
「あ、そういえばマリーに伝えてなかったな…。約束したし神殿に行こうかな」
ふと、昔の事を思い出しクラウンは神殿へと足を運ぶ。少し考え事もしたかったので、歩いて行くことにした。
「こんにちはー。クラウンです。マリーはいますか?」
神殿前の門番に声を掛けると、「確認してきます」と言い残し、門番は神殿へと入っていった。
5分ほど経っただろうか。門番が小走りで戻ってきた。
「お待たせしました。マリー様は礼拝堂にいらっしゃいました。クラウン様が会いたいとお伝えすると、礼拝堂で待っています、とのことでした」
「ありがとうございます。では中に入りますね。あ、お仕事お疲れ様です」
その場で一礼し、門の中へと入っていく。門番も一礼し、その後ろ姿を見送る。その後ろ姿を見ながら門番は呟く。
「あれっ?フレイゼン伯爵様のご子息は確か全員……」
クラウンは礼拝堂の前に着くと呼吸を整え、ゆっくりと扉を開ける。重厚な扉が開くと中へと外の光が入っていく。懐かしい思い出と共に、石板の前に居る人物を光が照らす。
「こんにちは。マリー。伝えたいことがあって来たよ」
「こんにちは。クラウン様。……あらあら、久し振りにお顔を見ましたけれど、髪の毛が凄く伸びてるじゃない。女の子かと思いましたわ」
クスクスと笑いながら、マリーはクラウンへと近寄っていく。女の子に間違われた事が嫌だったのであろう。クラウンは少し不貞腐れながら、マリーを見つめる。
違うよ、ぼく男の子だよ。とでも言いたげに。
門番が間違えるのも仕方がない。昔門番が見たときは愛くるしい髪の短い男の子であった。魔法が使えたら神殿に行こうと思っていたが、来る日も来る日も目覚める事はなく、いつしか家から出なくなっていたのだ。髪の毛も今では肩甲骨ぐらいの長さまで伸び、2年ぶりに見た子どもの後ろ姿ーー髪の長い後ろ姿ーーを見れば性別を間違えるのも仕方がない。
「髪を切ってあげましょうか?クラウン様」
未だ小さな笑いを堪えられないマリーに対し、クラウンは小さく答える。
「次来るときは切ってくるからいいよ…」