王立学園 -波乱の遠足 9-
クラウンが再び意識を失い地面へと倒れる。バリー達は助けに行きたい気持ちとクラウンに対しての恐怖の2つの感情で揺れていた。しかし、誰よりも先にミリィがクラウンの元へと駆け寄り、抱き起こす。その姿を見たバリー達も遅れながらクラウンの元へと駆け寄る。
「クラウンッ!?返事して!?クラウンッ!!」
ミリィの悲痛な声にも反応する事なくクラウンは静かにミリィへと寄りかかっている。強く抱き締めながらミリィは再度クラウンへと声をかけるのであった。
「…ねぇ、バリー。さっきのことなんだけど…」
「…ああ、おめーの言いたいことは俺も一緒だ。だが、…先にクラウンが起きてからだな」
アックス達はミリィとクラウンを心配そうに見つめていた時、後ろからヘレーナの声が聞こえてくる。どうやら倒れている女性を介抱するのを手伝って欲しいとのことだ。魔物の危機は去ったが、また囲まれる可能性は少なくない。バリー達は急ぎヘレーナの元へと向かうのであった。
「クラウン…。目を覚まして…。あたしは…。私はアナタのことが…」
ミリィの独り言の様な小さな声は風に乗りどこかへと運ばれていく。誰の耳にも聞こえる事はなく。…ミリィがクラウンを抱きしめて少しの時間が経つ。野営地にヘレーナと救助された女性が待機し、バリー達はミリィ達から少し離れた場所で2人を見守っている。
クラウンの頬に一雫の水が垂れるとクラウンの身体がピクリと動く。小さな反応であったが、抱き締めていたミリィはそれに気付く。そして、クラウンを顔を見ながら再度声をかける。
「クラウン?…目を覚ましたの!?クラウン!!」
ミリィの声がクラウンへ届いたようにゆっくりとクラウンが目を開いていく。意識を取り戻したのを見たミリィは口元に小さく笑みを浮かべる。
「………ミリィ?また泣いてるのかい?…キミは笑っている方が素敵なんだよ…」
クラウンは朦朧としながらも小さくミリィへ話しかける。その表情はミリィが知っている大好きな表情だ。
「……ばかっ。そんなこと昔から知ってるわよ」
クラウンの言葉にミリィは涙を浮かべながら微笑む。その表情を見てかクラウンも安心したように微笑むと再度意識を手放す。安らかな寝息を立てながら。
ミリィが目をこすり涙を拭うと、心配そうにこちらを伺っている2人に声をかける。クラウンは大丈夫だと告げると、安心したように2人は息を吐く。そして、クラウンを担ぎ野営地へと戻る。クラウンを優しく地面に寝かせ、バリー達は焚き火の近くに座る。バリー達の表情は険しい。沈黙に耐えれなくなったのか、ヘレーナが口を開く。
「……みんな無事で何よりだわ。怪我をしている人はいない?居たらすぐ回復させるからね」
ヘレーナ自身も言いながらバリー達と同じ考えを持っていた。怪我をしていた筈、だと。
「…怪我か。俺の記憶では回復魔法かけられて無いんだけどなぁ」
「…うん。大鬼との戦闘で大怪我はしてないけどちょこちょこ傷は負ってたはずなんだけど…」
「私も自分で言っててなんだけど、怪我してたはずなのよ…」
「…正確にはあの白いモヤを浴びる前まではあたしたち引っ掻き傷あったもんね…」
先程のモヤはなんだったのであろうかとバリー達は頭を悩ます。あれが魔法だったとして見た事も聞いた事すらもない。ひたすら悩み考えても答えを出す事は出来なかった。そして、バリー達が先程のモヤについてひたすらに悩んでいると呻き声が聞こえてくる。クラウンの声かと思い、全員が顔を向けるが呻き声を上げたのは開放していた女性の方であった。
「……うぅ…ん。……たすけ…て」
うなされながら助けを呼ぶ声にヘレーナが女性の手を握り声をかける。
「大丈夫。もう大丈夫だから安心して?」
優しく慈愛に満ちた声で女性に語りかけると、声に反応するようにゆっくりと目を開けていく。女性が目を完全に覚ますとそのまま周囲を見渡すのであった。




