遅れる朗報 -神々の悪戯 4-
「…クラウンがそう言うのであれば僕は何も言わないよ」
「……そうだなー。俺らがとやかく言う権利は無いもんな」
「…クラウン。お前がそう言うのであればそうすれば良い」
「…ありがとう。それじゃあさっそく、使ってみることにします」
クラウンは、一度深く呼吸をし魔水晶の原石に手を伸ばす。
「クラウン、使い方はわかるかい?」
「本で一応は読んだことはあるけど、握って魔力をイメージをするんですよね?でも、魔力を使った事がないからイメージって言われても…」
「おう、それならジルに目の前でやって貰えばいい。あ、俺には説明がしっかり出来ないからってことだぞ!魔法が使えないってことじゃないからな?」
「本当にノーム兄ったら…。まぁ、いいや。じゃあ、僕が今から火の魔法を出すね。火っていう魔法だけど、魔力ってのは体の中から熱いものを絞り出すイメージをしたらいいと思う。そうイメージすると力が加わってわかりやすいからね」
そういいながら、ジルは右手を前に出し、手のひらを上に向けた。
「火」
すると、ジルの手に小さな火が揺らめいている。
「慣れれば魔力の使い方自体、意識しないで使えるようになるよ。まぁ、魔法に変換するとなると説明しづらいけどね。この魔法だけどクラウンも火の家系だから、多分使えると思うけど……」
ジルが少しだけ、自信なさそうにクラウンに伝えた。
この世界は、単一魔法しか使える事が出来ないのである。火の魔法と水の魔法が使えるという魔法師は存在しない。親が火と水で結婚しても、どちらかの魔法血統しか継げない。なので、この世界での結婚は大体が同じ属性同士での結婚が多い。同じ属性同士で結婚すると、子に継がれる魔法血統が濃くなるのだ。
当然近親婚は認めていない。より濃くしようとすると、歪な血統となり初級魔法しか使えなくなる。それは親にも子にも人道的でないとこの世界では認知されている。
話は戻るが、ジルが少し自信なさそうに言ったのには理由がある。クージルと結婚したのは水属性の女性であった。2人の兄は父親の魔法血統を継ぎ、生まれ持った才能で力を付けた。けれども、クラウンが父の魔法血統を必ず継いでいるという根拠はない。母の魔法血統を継いでるかもしれないからだ。
なので、もし魔水晶の原石に火の反応が無くても水の反応があるかもしれない。しかし、上の兄2人が火の属性なのに、水の属性だったとしたらクラウンがどう思うか。そういった不安もあり、ジルは自信なく言ったのであった。
「大丈夫ですよジル兄様。……確かに今までのぼくだったら兄様たちと同じ属性魔法が使えなかったら不安だったと思う。……でも、使えなかったとしてもぼくの事を大事にしてくれる人たちには変わりはないから」
クラウンの一言一言には重みがあった。どんな気持ちで普段を過ごしていたのだろうか。早くに魔法を使えた2人には分からない気持ちであったことは確かだ。
けれども、これだけは言える。例え、魔法属性が違ったとしても家族には変わりない。それだけの愛情は持っている。周りが何と言おうと、自分達が理解し合っていれば何も問題ないと…。
「そうだぜクラウン。お前は俺たち家族の一員だ。周りの事はどうでもいい。……ま、お前は使えるっていう根拠のない自信はあるぜ」
「僕もそう思うよ。なんせ僕たちの弟だからね。立派な父様や母様もいたし」
「言いたい事は全て言われてしまったな。親として嬉しい反面、私にも言わせて欲しかったぞ」
照れたように、ノームたちは笑う。ここまで愛されているのを理解すると、今まで悩んでいた事は本当に小さな物だったようにクラウンは感じるだろう。
クラウンは安らかな感情で魔水晶の原石を握る。その顔には不安など一切感じられない。出来なくてもまだ可能性はある。例え魔法反応が無かったとしても、剣術や知識を蓄えればよい。もしかしたら、他の属性が使えるかもしれない。まだ希望はある。あるならそれに向かえばいい。
深く息を吸い、呼吸を整え先程のジルに教えてもらった事をイメージする。すると、身体中に何か熱いものを感じる。これが魔力か…と体感し、詠唱に入る。あとは声にちっぽけな勇気を乗せて出すだけだ。
「………火」