王立学園 -波乱の遠足 3-
アックスの当たり前の疑問にクラウンは焦りを浮かべる。
(あっ……。秘密にしろって言われてるんだった…。どうしよう…、素直に言うべきかな?)
クラウンが答えに迷っていると、アックスは溜息をつき言葉を繋ぐ。
「…はぁ。どうやら何か秘密があるみたいだね。…それは実力検査で兄さんと長く話してたことが関係しているのかな?」
アックスの頭脳は同世代では群を抜いている。それは公爵家として一流の家庭教師が付いていたこともあるが、兄の影響が大きいものであった。普段から兄と会話をするとき言葉の裏や含みを察知するのが多かった為、洞察力や思考力が発達していたのである。その為、クラウンが黙り込んだのには何か理由があり、可能性として兄が関係しているのではと考えたのであった。
「…う、うん。……でも秘密だからアックスにも話すことはできないんだ。………いづれ話す時があるかもしれないけど…」
クラウンも秘密にしようとは思っていたが、アックスの非凡なる頭脳に隠し事は通用しない事を理解していた。だが、この秘密は自分だけの判断で話しても良い内容では無い為、これ以上は語れないと含みを持たす事にした。
「…わかった。深くは追求しないけど、話す時が来たら真っ先に教えてね」
アックスも含みの部分を理解し、追求しても答えが返ってくる事は無いと悟った。秘密を言ってもらえない事に少しだけショックを受けるが表情には出さない。
「…それじゃ、魔法式を教えるよ。使えたら大助かりだしね」
「…ありがとうアックス」
クラウンの感謝に頷きで返すと、アックスは地面に魔法式を記述していく。
「魔法自体の式はこれで、繋げる時の術式はこうだよ。…僕たちを中心として四ヶ所囲うように設置していく。媒体は木の枝でも石でもなんでも大丈夫。ただ、広ければ広いほど比例して魔力を消費するからね気をつけて」
アックスが魔法式を記述していくのをクラウンは必死になって暗記する。複雑な術式では無かった為、そこまで難しくは無かった。覚え終わったクラウンがアックスに頷く。
「大丈夫かい?…それなら確認してみよう。バリー達を囲うように設置しようか」
クラウンとアックスは地面にある少し大きめの石を拾い、川を挟み四ヶ所に置く。川を挟むのは、水系の魔物が出てくる可能性を考えての事だ。何をしているのかと不思議そうな顔をしているバリー達を尻目に、クラウンとアックスは石を置き終える。
「…よし、それじゃ『警報』を発動してみて。成功したなら、この石が淡く光るはずだから」
アックスの指示に従い、クラウンは先程の魔法式をイメージしながら石に触れる。
「---『警報・火』」
詠唱すると手が触れていた石が淡く光る。そして、他の石もそれに反応するように次々に光る。
「…出来たみたいだね。まさか本当に出来るとは…。驚いたよ」
アックスはクラウンが成功させた事に驚きを隠せなかった。『警報』は『結界』とは違い、敵が近くに来た時に知らせる魔法であり、辺が長ければ長いほど魔力を消耗する。長さなどの決まりは無いが、媒体となる物の個数が増えれば増えるほど術者の負担も大きい。クラウンが発動した魔法の範囲は、そこそこ広めの魔法であり普通の1年生の魔力では到底足りない。普通なら出来る範囲では無いのだが、『警報』が出来たという事に驚いてるアックスは気づく事は無かった。
「…出来たみたいだね。これである程度ゆっくりできそうだね」
クラウンの言葉にアックスが頷く。バリー達の所へ戻ると疑問を浮かべたミリィが尋ねる。
「ねぇ、クラウンたちは何をしてたの?」
「なんか悪巧みしてたんじゃねーか?」
バリーの疑うような視線にアックスは苦笑しながら答える。
「違うよ。さすがの僕でもそんなことはしないよ」




