王立学園 -波乱の遠足 2-
「気にしないでアックス。仕方ないものは仕方ないよ」
明るく答えるクラウン。アックス達の表情も少し晴れたものに変わる。
「とりあえず、少し休憩してから森から出よう。ここで待つのは危険だと思うし」
クラウンの言葉に皆頷く。バリーはクラウンが実践を経験してない事を危惧していたが、魔物との戦いを繰り返す内にしっかり対応出来ている事に安堵していた。クラウンも、最初は緊張していて足を引っ張っていたが戦いを重ねる内に全体を把握し、指示も出せるようになっていた。昔、読んでいた『兵法の書』が知識として染み付いていた事もあるだろうが、クラウンの成長具合はバリー達も舌を巻く程であった。
「クラウンの言う通りだな。…水分補給とかしたいが、誰か水筒とか持ってきてるか?」
バリーの言葉に全員首を振って答える。バリーも期待はしていなかったので、これからの予定を決定する。
「ま、水筒なんて持ってないのが当たり前だわな。…それじゃ水場…川を探す事にしよう。このままじゃ脱水症状で倒れるのが早いだろうしな」
「…ミリィの魔法で水を出せることは出来ないかな?」
「…極力魔力は温存しておきたいね。水場が見つからなかった時の最後の手段としておこう。それに、川があれば水分補給と帰る手段も見つかるだろうし…」
「そうね。川が見つかれば一石二鳥だわ」
クラウン達はまず現状を脱するため川を探す事に決めた。幸い、水属性のミリィがパーティにいる為川を探す事は比較的楽に出来た。ミリィの魔力を頼りに30分ほど森の中を彷徨い、ようやく川を発見することができた。
「やっと見つけたー!もうヘトヘトだよぉ」
「お疲れ様ミリィ。ここで、しっかりと休息しましょ」
「だな。とりあえず俺とクラウンで周りを警戒しとくから、お前らから休憩してくれ」
「それじゃお言葉に甘えて先に休憩しとくよ」
アックス達が休憩を取り始め、クラウンとバリーは剣を抜き警戒に当たるが幸いにも狙ってくる魔物は居なかった。アックスと見張りを交代しバリーが休憩に入る。そして、クラウンがアックスに話しかける。
「…アックス。この状況をどう思う?」
「そうだね…。川が見つかったから後は下流に向かえば大丈夫だと思う。…ただ、どのくらいの距離があるかわからないけどね」
「うん。ってことは野営をする可能性もあるわけだね」
「そればっかりは無いことを祈るしか無いね。…現状、見張りとして立てるのはバリーとクラウンしか居ないわけだし。誰かが『警報』を習得してれば大丈夫だったんだけどね」
『警報』とは周囲に展開させる事により、敵を察知することの出来る魔法である。だが探索系の魔法であり、普段では使う事のない魔法である為誰も習得はしていなかった。
「そうだね…。『警報』が有ると安心だけど、覚える必要が無いもんね…。冒険者とかだったら必須だろうけど」
「うん…。まずこんな事態に巻き込まれることが想像できないからね…。魔法式なら覚えてるけど、さすがに魔力が足りないからね…」
『警報』は今のクラウン達には負担の大きい魔力量を消費する。冒険者として旅立つ時には『魔力回復薬』などを準備していくので、今のクラウン達には回復手段がない為使用する事が出来ないのだ。
(ん?ちょっと待てよ?確か…エースさんがぼくの魔力量は膨大だって言っていたよね…。ならば、ぼくなら出来る可能性がある…?)
暫く自分の世界に浸っていたクラウンは、閃いたように顔を上げる。そして、アックスに先程の事を聞き返す。
「…ねぇアックス。ぼくならその魔法を使うことができるかもしれない…。良かったら魔法式教えてくれないかな?」
クラウンの一言にアックスは眉を潜める。そして、疑問を口にする。
「それは別に構わないけど…。急にどうしてだい?」




