遅れる朗報 -神々の悪戯 3-
「…クラウン。この魔法道具は何かわかるか?」
テーブルの上に魔法道具を置き、クージルがクラウンに尋ねる。見た事もあり知識としても知っているが、今のクラウンには使える魔法道具では無かった。
「………魔水晶の石…です」
魔水晶の石とは、割れるまでは使える魔法道具である。例えば、火属性を使い始めた魔法師が手に取り魔力を流すと、薄い赤色に発光する。今度は熟練の魔法師が手に取り魔力を流すと、濃いめの赤色となる。最終的には火の魔法がその個人最大まで成長すると、紅蓮に発光し割れる。自分が今どの段階まで成長しているかを確認出来る魔法道具である。
しかし、成長度合いには個人差があり、早くで割れる者もいれば熟練の魔法師でもまだ割れていない者もいる。ある意味で限界を知れる魔法道具である。ただし、属性魔法の成長度合いを調べる魔法道具であり、属性を持つ者が使用する魔法道具である。
「……いや、これは魔水晶の原石だよ」
ジルがポツリと呟く。その語尾には静かに燃える怒りさえあった。その言葉を聞き、クラウンは狼狽する。
魔水晶の原石とは、自分自身に魔法属性があるかどうかの最終確認用の魔法道具であった。
「……親父殿、ちょっくらグスタフの所に行ってくるわ。大丈夫、大丈夫。ちょっと、お礼を伝えてくるだけだから」
「…そうだねノーム兄。僕たちの大事な弟へのプレゼントなんだ。しっかりとお礼を伝えたいから僕も一緒に行くよ」
「…待て待て、私もお礼を言いたいからな。三人で一緒に行こうか」
確実にお礼を伝える雰囲気では無い事がクラウンにも理解出来た。それもそのはず、先程から3人は小刻みに震えているのを抑え、無理矢理表情を作り笑顔にしようとしているからだ。
「…ちょっと3人とも落ち着いてください。そんなことしたら、まずいって事はぼくにもわかりますよ」
「あー……。悪い悪い。ちょっとだけキレちまったよ」
「………少しばかり我を忘れていましたね。ごめんなクラウン。ちょっと…うん、ほんのちょっぴり怒ってたよ」
「いやいや、全然。これっぽっちも私は怒ってなんかいないぞ。…本当に…うん、本当に……」
クラウンに見つめられ、少し冷静さを取り戻した3人であった。その顔には一番年下に気を使われているとわかり、少しだけ恥ずかしそうにしていた。
「…ぼくのために怒ってくれているってのはわかります。だけど…」
「なんだよクラウン!やっぱりお前もお礼を伝えたいってか。よし、じゃあ一緒に行くか!」
「だから違うってばノーム兄様!」
クラウンの言葉に勘違いしてしまったノームであるが
即座に否定の言葉を言われ、少しだけ怒ったように口を開く。
「じゃー何なんだよ。これは完全に喧嘩を売ってるんだぜ?」
「それは何となくですけどわかりました。……正直言ってショックは受けましたけれど、逆に勇気をもらったというか…」
「…勇気を貰ったってどういう事だい?」
「………いつまでも属性反応が出ないことに、ウジウジしてるなって言われているような気がして…」
その言葉にノーム達は息を呑む。クラウンが属性反応がまだ出ていないのは知っていたが、そこまで辛く不安に思っていたなど、早くから属性反応が出ていた2人にはこれっぽっちも想像出来ていなかった。だから、クラウンが発した言葉と寂しそうな表情を見て、軽率な考えで楽観的に構えていた事に、酷く後悔を感じた。
「…でも、ちょっとスッキリしました。……嫌がらせのプレゼントだろうけど、ぼくは喜んでもらいたいと思います」