王立学園 -魔法部 3-
「…それじゃあ、次はぼくたちの番だけど…。なんだか嫌だなぁ」
「そ、そうだね…。周りもこっち見てるし…」
アックスの所為で、クラウン達は色々な意味で注目されていた。上級生の中にはアックスの使用した魔法の階級に驚いている者もいた。それもそのはず、アックスが使用した魔法は『中級』の中でも難しい魔法であり、新入生がポンポン使える代物でもないのだ。
「それで?どっちから魔法の訓練するんだい?」
周囲の視線を気にする事なく、アックスが問いかける。
「…ぼ、ぼくからやってもいいかい?」
「え?全然構わないよ?それじゃ、ぼくが案山子の準備だね?」
クラウンが魔法道具に魔力を注入し、案山子を復元させる。
「準備出来たよ!いつでもどーぞ!」
「そ、それじゃいくよ!--『土剣・土』」
ペイトンが詠唱した魔法はアックス程の衝撃は無い。しかし、普通の『土剣』は大きな土の大剣を投げつける魔法なのだが、ペイトンが詠唱した魔法では小さな剣がズラリと並んでいた。その光景を見た者は、ぞわぞわと鳥肌が立ち身体が痒くなる。勿論、近くで見ているクラウン達も同様である。
「……よし、次」
ペイトンは両手を案山子へと突き出す。すると、一定の短い間隔で案山子へと魔法を飛ばす。トトトト--と小刻みに音を立てながら案山子へと『土剣』が突き刺さっていく。その様はハリネズミのように見える。全ての『土剣』が案山子に刺さったのを確認したペイトンが次の詠唱へと移る。
「クラウン!復元はしないで!」
ペイトンの力強い言葉に動揺しながらもクラウンは素直に従う。そして、ペイトンはそのまま案山子へと魔法を飛ばす。
「--『腐敗・土』」
ポトリ、ポトリと案山子から『土剣』が落ちていく。半分程落ちきった頃、周囲に鼻が曲がるような臭いが広がっていく。臭いの原因は確実に案山子からであり、ドロドロと溶け始めている。クラウン達が涙目になりながらも臭いを我慢するのが目に入ったのか、ペイトンが慌てて魔法を周囲にもかける。
「あわわわ、……『消臭・土』」
ペイトンの魔法により先程の臭いは消えて無くなる。勿論、魔法に合わせてクラウンも案山子を復元し臭いの原因も除去した。周囲の生徒達も詠唱が聞こえたようで鼻から手を離し新鮮な空気を吸い込んでいる。
「と、ところでペイトン…。今の魔法は何…?」
「い、今の魔法って?ど、どどっちかな?」
「……どっちもかな?『土剣』は知ってるけど、ぼくの知ってる魔法じゃなかったんだけど…」
バリー達も興味深そうに話を聞きながらクラウンの言葉に頷く。それは周囲の生徒達も一緒だ。
「…あ、ち、ちょっとこっち来て」
ペイトンはその場から逃げるように外へと出ていく。クラウン達もペイトンを追いかけ、建物の横にある雑木林の中へと入っていく。開けた場所で、クラウン達はペイトンの話を聞く。
「い、今から話すことなんだけど…。ぜ、絶対に友だちをや、辞めるって言わないって約束してく、くれる?」
不思議な事を聞かれるが、ペイトンは真剣な表情を浮かべている。
「大丈夫!そんな事は絶対しないから!ぼくたちは友だちでしょ?」
何を言われるのか不安もあるが僅かな好奇心がクラウンに綺麗事を吐かせ、ペイトンを安心させてしまう。バリー達も同様に頷き、ペイトンの言葉を待つ。
「ぜ、絶対だからね!」
ペイトンが大きく深呼吸をし心を落ち着かせる。そして、手をクラウンに向け魔法を詠唱する。
「--『気絶』」
「----ッ!てめぇ!なにしやがんだ!」
魔法をかけられたクラウンはその場に静かに倒れ、バリーはペイトンへと殴りかかる。しかし、ペイトンから発せられる気配に危機感を感じ素早く元の位置へと戻る。それから、ペイトンが静かに話し始める。




