王立学園 -図書室 2-
「…それじゃ、今バリーが言った『魔物』について調べておこう。弱点とかは知っていた方がいいだろうしね」
アックスの言葉に頷き、クラウン達は他の資料を探しに席を立つ。皆同じ考えなのか、『魔物』関連の本は少なくなっている。クラウンが資料を諦め、席へ戻ろうとすると奥の方に薄暗い場所が見えた。不思議とその場所へと誘われるようにクラウンは進む。だが、辿り着く前に後ろから手を掴まれる。
「クラウン!そこは立入禁止よ!」
クラウンは咄嗟の事に驚くが声には出さなかった。だが、おそるおそる振り返るとそこにはミリィが居た。その顔には少しだけ焦りが見える。
「…ああビックリした。どうしたの?そんな慌てて?」
「…クラウンがふらふらーって立入禁止の所に行くのが見えたから引き止めたのよ!あそこは上級生しか入れない場所で、下級生が入ると警告音が鳴るのよ!」
「へぇー。そうなんだ。知らなかったよ…。止めてくれてありがとうミリィ」
「ッ!べ別に、感謝される事じゃないわよ…。学園の常識なんだから!」
クラウンは笑顔と共に感謝をミリィに伝える。それを見たミリィは顔を赤くし焦ったように返答する。そのまま、クラウンの手を引っ張り席へと戻る。バリー達はその光景を目にし、驚いた表情を浮かべる。
「ど、どうしたんだい?なんかあったの?あっ…」
「さっきミリィの声が聞こえたんだが…。クラウンなんかしたのか?」
先程の声は図書室に響いたらしく、生徒達もこちらを窺っている。アリエルに至っては鬼の形相でこちらを睨んでおり、それに気付いたミリィがその場で深くお辞儀をし着席する。恥ずかしそうに縮こまるミリィにヘレーナが尋ねる。
「…それで?一体なにがあったの?」
顔を俯かせるミリィに代わり、クラウンが先程の顚末を話す。理由がわかるとバリー達は呆れた表情を見せる。
「…なるほど。それはクラウンが悪いわ」
「…だな。クラウンが悪い」
「…うん。知らなかったとはいえ、悪いのはクラウンだね」
バリー達からもクラウンが悪いと言われ、少しだけ落ち込むが原因は重々承知している為、素直に受け入れる。
「…うん。だからさっきも謝ったよ。これからは気をつけるようにするよ」
クラウンがそう言うと、バリー達は納得したのかそれ以上は言わなかった。だが、アックスは意地の悪い顔へと変化させいまだ下を俯いているミリィへと話しかける。
「……ところでミリィ。一体いつまでクラウンの手を握っているのかい?」
アックスの一言にクラウンは慌てて自分の手を見ると、ミリィがしっかりと握っていた。同様にミリィもアックスの言葉に気付き、顔が赤面になり勢いよく手を振りほどく。その光景に、バリー達は何かに気付いたように顔を変化させる。3人とも意地の悪い表情へと。その視線に気付いたのか、耐えきれなくなったのかは分からないが、ミリィが赤面したまま喋り出す。
「べ、別に何でも無いわよ!…なによ?何か言いたいことあるの!?」
段々とミリィの声が大きくなっていき、アリエルの表情を思い出したクラウンが慌ててミリィの口を抑え、横目でアリエルを窺う。口を抑えられたミリィも先程の出来事を思い出し、おそるおそるアリエルを見る。そこには表情を変化させている修羅がおり、2人して謝罪をしに行くのであった。
どうにかアリエルに赦しを貰えたクラウン達は席へと戻る。その足取りは重い。肩を落として席に座る2人をヘレーナが迎える。
「お疲れ様。酷く怒られたみたいね。アリエル先生の顔凄かったわよ」
「人ってあんな小さな声で怒れるんだって初めて知ったよ…」
「あたしも…」
妙な事に感心しながらクラウン達は話題を変える。
「ぼくは見つけられなかったけど、バリー達は見つかった?」
「うん。とりあえず2冊見つけてきたよ」
アックスは机の真ん中に本を置く。大きめの本と分厚い本の2冊だ。
「へぇー。俺も見つけられなかったけどさすがアックスだぜ」
「私もよ。みんな考えることは同じみたいで全然無かったわ」
アックスは少し照れたように笑うと、分厚い本を開く。そこには『魔物』に関する事柄が絵付きで記述されていた。




