王立学園 -授業 5-
クラウンの言葉を受け、一同は疑問を覚える。クラウンが兄を慕っているのは嘘ではなさそうだ。だが、あの豹変した理由はなんだろうか、と。特に最初から見ていた伯爵家の生徒達は、何があったかを懸命に思い返そうとしていた。すると、とある生徒が何か思い当たったのかその考えを口にする。
「あ、そういえば」
「ん?なんか思い出したのか?ジゼル?」
「えーっと…。団長がなんか言った後、クラウンの表情が変わったんだよなぁ…。…あー、なんて言ってたっけ」
ジゼルと呼ばれた生徒が会話を思い出そうとする。すると、手を叩き顔を上げる。
「そうだ!思い出した!確か…『師匠に教わったこと』がなんちゃらかんちゃらって言ってた!その時からだったよ!クラウンがおかしくなったの!」
「…だそうだが、クラウン。なんか思い当たる節があるか?」
「…うーん。師匠?………ああ、そういえば兄様に紹介されてもらった人のことか!………あー、思い出した…」
その言葉が引き金になったのか、最後の方は小声になっていく。心配そうに顔を覗き込むヘレーナが、問いかける。
「…状況がわからないのですが、何を思い出したのでしょう?」
「…んー、兄様に紹介された家庭教師の人がさ、すごいスパルタな人だったんだ…。毎日実技訓練として、その人と戦っていたんだけど…。限界まで追い込まれて、毎日地獄を見ていたんだ…。それでなんでぼくに教えようと思ったか聞いたら、兄様が才能があるから弟を鍛えてくれって…」
続けて話そうと思った時、バリーが横から入ってくる。
「…なるほど。理解できたぜ。その人がクラウンに地獄を見せるのはお前の兄貴のせいってことだろ?」
「…うん、まぁ、そう思ってね」
「ああ、そういうことか。それを思い出してキレちゃったってことだね?」
「多分…」
「意外ですわね。クラウンもそうやって怒ることがあるんですね」
「ヘレナ…ぼくだって怒る時ぐらいあるよ…」
「ごめんなさい、いつも笑顔だから想像出来なくて…」
「僕もだよ。…いやぁ、クラウンを怒らせたらヤバイね。みんな気をつけなきゃ!」
アックスが笑いながら周囲の生徒達に同調を求める。乾いた笑い声を上げながら、生徒達は同じ気持ちを抱いていた。--クラウンを怒らせてはいけない、と。
その頃土下座をしているノームに近づく人影があった。その人影はノームに拳骨を落とすと説教をし始める。
「この馬鹿たれがっ!年が離れている弟に、ましてや入学したての新入生に本気になりおって!挙げ句の果てには負けるだと!?どこから怒ればいいかわからんわい!」
「ちょっ!おやっさん!待ってくれよ!確かに軽く本気出したのは悪かったけど、あの『殺気』を受けたらおやっさんだって反応してたって!」
「お前のようなヒヨッコと一緒にするな!」
「あいたっ!!殴るのやめてくれよおやっさん!」
「ええい!お前は1週間の謹慎!総統には俺から伝えておく!それと、1ヶ月間騎士団の施設の掃除だ!…あとは総統から処罰が伝えられると思う。覚悟しておけ!」
「そんなぁ…」
「しっかり反省しろ馬鹿たれがっ!」
踏んだり蹴ったりだ、と訴えるノームに対しエイムは当然だと一喝する。その状況を楽しんでる人物が近づく。
「いやー、ノーム。まずは君のこれからについて頑張れと言わせてくれ」
「…んだよ、エース。同情するなら掃除変わってくれ」
「御免被るよ。そもそも、事の発端は君にあるみたいだしねぇ。さっき『弟』たちがそう話していたよ」
「…『弟』?お前の『弟』もいるのか?」
「ああ、君の弟の剣を持っている子だよ。名前はアックス。僕に似て最高の『弟』さ」
「…ふーん、お前に『似て』か…。性格に難ありだな」
ノームに話しかけた男。それは王宮第9魔術団団長、ウィンド=エース。アックスの兄、ウィンド公爵家の次期当主である。




