王立学園 -授業 4-
--決まった。そう確信していたノームは次の出来事に目を見開く。それは剣を払うよりも早く自分の喉へと向かっている剣先。一瞬で剣を手放す事を判断し、大きく後ろへと下がる。その判断は正しかった。自分の首があった位置にクラウンの剣が空を切っている。
--やられた。ノームは理解した。あのまま振り切っていたら、先に死んでいたのは自分だと。ノームの背中に冷たい汗が流れる。心を落ち着かせ、どうやって敵を排除すべきかをノームは考える。しかし、ふと冷静になると正直な疑問が浮かぶ。
---え?なんで俺殺されそうになってるの?
そう、これは戦場でも決闘でもない。一方的な敵意を持った『兄弟喧嘩』である。
--時は少し戻り、クラウンが鍔迫り合いをしていた頃に戻る。
各騎士団・魔術団団長たちが、2人を止めようとしていた。その雰囲気の中、とある生徒は顔をひどく歪ませ2人を見つめていた。その顔には、憎悪と嫉妬が浮かんでいた。
---クラウンから離れていたノームだったが、ゆっくりと立ち上がるクラウンに対し、焦ったように口を開く。
「待て待て待て待て!クラウン!落ち着けって!なんで俺に『殺気』を向けるんだ!」
その言葉を聞いたクラウンがピクリと反応した。その様子を見たノームは続けて問いかける。
「俺、お前に怨まれる様なことしたっけ?身に覚えがないんだが!」
その言葉を聞いたクラウンが静かに笑い、口を開く。
「ふふふ、ノーム兄様。本当にわからないのですか?」
淡々とした口調にノームはより一層焦る。
「本当にわからん!でも、お前がここまで怒るって事は何かしたんだろう!本当にすまん!いや!ごめんなさい!」
ノームは頭を地面につけ土下座をする。みっともない姿であるがそれに対してクラウンは何も思わない。
「…そうですか、わからないのですか。…残念です」
クラウンが剣を片手に動き出そうとした時、背後から羽交い締めされる。
「ちょっ!クラウン落ち着けって!一体何があったんだよ!」
「クラウン、落ち着いて!」
怒れる猛牛を止めに入ったのは、バリーとアックス。
アックスはクラウンの手から剣を取り上げている。バリー達は非常事態だと判断し、友を救うべく行動していた。
「おい、ヘレナ!『状態緩和』をクラウンにかけろ!」
いつのまにか、野次馬が出来ていた。その中から慌ててヘレーナが出てくる。
「一体どうしたのですか!?」
「いいから早く魔法をかけて!」
「--わかりました。『状態緩和・風』」
「おい、クラウン!大丈夫か!?」
魔法がかかったのを確認した後、バリーが声をかける。先程まで無表情だったクラウンが、いつもの表情へと戻っていく。
「…ん?どうしたのバリー?なんかあったの?」
--何かあったの?じゃねーよ!と、生徒達は心の中で答える。ただし口にはしないが雰囲気ではそう答えている。
「なんかあったのじゃねーよ!お前、第6騎士団の団長を殺そうとしてたぜ!」
「ははっ、そんな訳ないよ!第6騎士団の団長はぼくの兄様だよ?大好きな兄様を殺すだなんて思った事ないよ!」
心外な質問だったのだろう。クラウンは口を膨らませバリーに抗議する。もちろん、その一言に誰しもが同じ事を思っていた。
「いやいやいや…。クラウン、さっきまで何をしていたか覚えてる?」
アックスが真面目な顔で問いかけると、クラウンはその表情に押され、先程の事を思い出す。
「んー………。確かノーム兄様に指名されて訓練場に上がった事は覚えているよ。………でもそこからは覚えてないなぁ。………というより、ぼくなんで羽交い締めされてるの?」
「…え?記憶が無いのか?あんなことしておいて?」
「あんなことって…?全然身に覚えが無いよ…」




