王立学園 -授業 3-
「さてさて、最初は誰から行こうか?…んー、そうだな。指名してもいいけど、準備が出来たやつから前に出てきてくれ。前に出たら、名前と使用武器を言ってくれ。それからこの鐘を鳴らすので鳴ったら攻めて来い。質問あるかー?」
「強化魔法は最初からかけてもいいんでしょうか?」
「いいぞー!もちろんそれはお前らの判断に任せる。最初からでも、模擬試合中にでも詠唱してもいいぞ!」
「ありがとうございます!」
「それじゃ、待ってるから準備出来たものから前に来てくれー!」
そういうと、ノームは石造りの稽古場へと上がる。所定の位置に着くと、振り返り腕組みをし待機している。さながら、挑戦者を待つ格闘場の王者の風格である。しばらくして、生徒達は各々準備を済ませる。あとは前に出るだけなのだが、なかなかその勇気が出ない。誰か最初に行ってくれ!という視線でキョロキョロと周りを見渡す。だが、誰も動かない。待つのに疲れたのか、ノームが声をかける。
「んー、これじゃ日が暮れちまうなぁ。…しゃーない。最初はこっちの指名からするわ!2番目からなら多少は気が楽だろ?…それじゃー、記念すべき1人目は…。もちろん、クラウン。お前だよ」
やはり、自分であったかとクラウンは思った。他の生徒達が緊張しているのは理解していた。しかし、緊張をしているのはクラウンも一緒だった。ただ、せっかちな兄が強引に事を起こすとは想像していなかった。色々と罵倒する言葉を頭の中で叫びながら、クラウンは覚悟を決める。
(どうせ、ぼくが行かなかったら誰も行かないだろうし…。まぁ、仕方ないと言えば仕方ないか)
自分を慰めつつ、納得させる。稽古場に上がり、ノームと対峙する。
「…フレイゼン=クラウン。武器は長剣です」
「んんー?なんだよクラウン、他人行儀な言い方しやがって…。まぁ、立場上はそうなるわな!…よっしゃ!クラウン準備はいいか?師匠に教えてもらった成果見せてくれ!」
ノームの余計な一言に、クラウンはある感情を思い出す。ノームの紹介で来た家庭教師に、地獄を見せられた日々。その中で芽生えた心優しいクラウンには正反対の感情。---そう、『殺意』である。
「ノーム兄様…。本気でいきます。鐘を鳴らしてください」
感情を抑えた声でクラウンはノームに告げる。先程までヘラヘラしていたノームは、弟の気配が変化した事に気付く。しかもその気配は、今まで戦場でよく体験していた気配である。
(これは…『殺気』だな…。え?なんでクラウンから『殺気』が出てるんだ?俺なんかしたっけ?)
何故弟から『殺気』を感じるのか全くわからない。けれども、ノームは騎士団の団長である。思考とは別に体が戦闘態勢へと入る。同じくノームも『殺気』を纏って。
2人の気配に覆われるように、周囲の音が止んでいく。監督官も、生徒達も動きを止める。その視線の先には剣を持ち、不穏な空気を作り出している2人へと集まる。エイムが異常事態に気付き、止めようとした、その時。神々の悪戯か、強風が吹きどこかで鐘の音がなる。
--刹那、弾かれた様に両者共、中央へと飛び出す。クラウンは先程の対峙している時に強化魔法をかけている。同じくノームも弟から出る『殺気』に反応し、無意識の内に詠唱していた。そして中央でお互いの剣と剣が大きな金属音を立てぶつかる。そのまま、互いに連撃を繰り返す。何度も何度も金属音が鳴り響く。いまだ決着はおろか、一撃すら入っていない。だが、経験値の差と言うべきか徐々にノームの攻めがクラウンを上回っていく。やがて、決着をつけるべくノームが大振りの突きを仕掛ける。その大振りにクラウンは好機だと感じ身体を捻り、ノームとの距離を詰める。---かかった。ノームはわざと大振りの突きを仕掛けクラウンが飛び込んで来るのを誘っていた。クラウンが身体を捻り回避した方向へと剣の軌道を変化させる。口元に微かに笑みを浮かべノームは自分の勝利を確信する。そこで生まれた慢心。その為かクラウンの口元にも笑みが浮かんでいる事に気がつかなかった。




