-神々の加護-
神殿入り口にて、神官服を着た女性がクージルたちを見つけ、深々とお辞儀をする。
「ようこそおいでくださいました、クージル様。本日はおめでとうございます」
「うむ。本当に今日は良い日だ。この領地の祝日にしたいくらいにな」
「ふふふ、クージル様は上のご子息たちの時も同じ事を仰ってましたよ」
「仕方がない、あやつらも昔は可愛かったのだ。今でも可愛いことは可愛いが、天使ではないな」
クージルと話をしているのは、この神殿の長マリーである。聖母を思わせるような優しい笑みを浮かべ、クージルと話を続ける。
「では、クージル様。クラウン様をあちらまでお連れください」
そういうと、マリーは神殿横の礼拝堂を指す。王都の礼拝堂と比べてしまうと少し見劣りしてしまうが、神々しさは変わらない。白を基調とした、神聖な場所である。
「うむ。それではクラウンよ、今から礼拝堂の前まで向かうが、そこから先はお前とマリーだけで進んでもらう。『神々の加護』は対象者と神殿の長しか立ち入ることの出来ない儀式なのだ」
「…はい。わかりました、ちちうえ」
「ふふ、そこまで怖がることは無い。お前の兄たちも通った道だ。安心するのだ」
クージルの手を繋ぎ、下を向きながら歩いていたクラウンに、優しく声をかける。その優しさが伝わったのであろう。礼拝堂前に着くと、クラウンはしっかりと前を向き少しだけ微笑んでいたのであった。
礼拝堂に入ると、そこは子どもにも理解が出来るほどの神々しい空間になっていた。礼拝堂の奥には、大きな石板が立てて置いてある。文字が刻まれているようだが、クラウンにはまだ理解できていなかった。
「さて、クラウン様。只今より『神々の加護』の儀式を行います。…ああ、なにも怖くはありませんよ。心を落ち着けて、両手を石板に触れてください。石板が青白く光った時に、『我が心は神々と共に』と声にしてください。…一度練習しておきますか。さん、はい」
「…わがこころは、かみがみとともに」
「はい、よく出来ました。失敗しても焦らず、ゆっくり声にしていいですからね。心が伝われば大丈夫ですから」
そう言うと、マリーは慈愛溢れる笑顔を見せクラウンの両手を優しく握った。緊張をかなりしていたのだろう。クラウンの足は震え、手には鳥肌が立っていた。しかし、マリーの手に優しく握られると先程まで震えていた足が止まっていた。
「大丈夫。何度でもやり直せますから。…では儀式を始めます」
そう言うと、マリーは石板の前までクラウンと手を繋ぎ、クラウンに石板に両手をつけるよう指示した。
深呼吸をし、やっぱり少しだけ震える手を石板につけクラウンは心を落ち着けるように努力した。
……どれほどの刻がたったのであろう。いや、もしくはそこまでは経ってないのであろうか。クラウンにとっては酷く長い時間に感じている。このまま何も起きないのではないだろうか。ふと、そんな事を思った時に石板が青白く光り始めたのだ。チラリと横を見るとマリーが微笑み頷いた。
クラウンは深呼吸をし、言葉を繋いだ。
「…わがこころは…かみがみとともに」