王立学園 -寮へ 7-
バリーの部屋の掃除が終わり、友達になった3人は食堂へと向かっていた。お互いに色々と話をしたため、最初の頃よりは仲が深まっていた。
「あー、腹減ったぁー。早く飯が食いたい…」
「同感だね…。ご飯なんだろうなぁ?」
「な、鉈婆が…ご飯作るのかな?」
「鉈婆がか?……まともな飯は作れそうにないだろ!」
「バリー、失礼だよ…。長年勤めてそうだし大丈夫でしょ」
「……んん?なんだ?この匂いは…?………うおおお!カレーの匂いだ!」
食堂の入り口から、カレーのいい匂いが漂ってくる。この世界でも、カレーは誰もが好む料理だ。
「ほ、ほんとだ…。凄くいいに、匂いがするね」
カレーの匂いにつられたのか、続々と他の生徒達が食堂へと集まってくる。バリーが食堂のドアを開けると、中にはエリスと女性のお手伝いさんが食事の準備をしていた。
「ああー、すげーいい匂いだー。鉈婆、何か手伝う事あるかい?」
バリーが手伝いを申し出ると、満足気にエリスが答える。
「お!なんだい、手伝ってくれるってかィ?偉いねぇ、そういう子は大盛りにしてあげるよッ!…それじゃあ、机の上にサラダとスプーンとかを置いていっておくれ!」
エリスの指示に従い、バリーは率先して準備をしている。その他の生徒達もバリーに指示されながら準備していく。食事の準備などした事のない生徒もいるが、今までと違う環境にいる事を実感し、ぎこちなく準備を手伝う。クラウンとペイトンは、調理場へと赴きカレーを皿によそうのを手伝った。
「ねぇ、鉈婆。カレールーを入れる器はどこにあるの?」
「ああん?そんな洒落た器なんてないよッ!ご飯の上にかければいーんだよッ!」
呆れたようにエリスは、ご飯の乗った皿にカレールーをかけていく。実家で食べるカレーとは違うんだと、クラウンは考え、エリスの動きを真似してカレールーをかけていく。ペイトンはお手伝いさんと一緒にご飯をついでいく。
「おぅい、そこの赤髪のアンタッ!カレーの準備が出来たから持っていってくんなッ!」
「鉈婆!俺はバリーって言うんだ。ちゃんと挨拶したろー?」
「そんなすぐに名前なんか覚えてられないよッ!はいはい、冷めないうちにさっさと持っていってくんなッ!」
バリーとエリスのやり取りに軽く笑いながら、クラウンは手伝いを続ける。他の生徒たちも手伝いに慣れてきたのか、カレーを机へと運んでいる。
食事の準備ができ、各々自由に椅子に座る。目の前には野菜がゴロゴロ入ったカレーが置いてある。各々で食べ始めようとした時、エリスから声がかかる。
「待ちなッ!食事の前は手を合わせて『いただきます』って言うんだよッ!それが食べ物に対しての『礼儀』だッ!今までは知らんが、これからはしっかりとしていくんだよッ!」
食べ物に対しての『礼儀』。クラウンたち貴族に対しては、初めての体験である。食事の『作法』ならわかるのだが、食べ物に対しての『礼儀』とは考えた事も無かった。そんな考えが顔に出ていたのであろう。エリスが説明してくれた。
「あんねぇ、アンタたちが食べる食べ物には全部『命』があるんだよッ!その『命』を頂いて、アンタらは生きているんだッ!だから、『いただきます』って言うのさッ!感謝して残さず食べなきゃ、神々が怒るってもんさッ!」
エリスの説明に、生徒達は深く納得した。今までそんな事を考えた事も思った事もなかったが、エリスの説明に新しい『価値観』を覚えた。このような事を教えてくれるエリスに生徒達は出会った時とは違う目を向ける。
「いいかい、アンタらは今まで不自由なく暮らしてきただろうけど、この寮ではお互い協力し合って生活していくんだ。将来は領主やもっと上の爵位を貰うかもしれない。けれどね、『礼儀』がなってない奴は上に立つ資格は無いんだよッ!…これからビシバシ教えていくからね。覚悟するんだよッ!」
最後の方は恥ずかしそうに話すエリスだったが、生徒達の事を思って言ってくれているのだ。その気持ちが伝わったのだろう。生徒達は強く頷き、エリスを見つめる。
「…ガラにもない事を言っちまったね…。バリー!食事の音頭を取りなッ!」
「はい!…よしそれじゃ、みんな手を合わせて…『いただきます』」
「「「「『いただきます。』」」」」




