王立学園 -寮へ 4-
深々とお辞儀をしながら挨拶をするクラウン。老女は一瞬目を見開き、高らかに笑い声をあげる。
「ヒャッハッハッハッ。なんだいなんだい、ちゃんと挨拶出来るんじゃないかい!うんうん、アンタは良い教育を受けているねェ。………そんじゃあ、正座はしなくて良いよ。普通に座って待っときなッ!」
先程までの怒っている雰囲気は無く、老女は満足げに頷いている。その空気を感じ取ったのか、バリーも慌てて挨拶をする。
「遅れて申し訳ありません!バリーと言います!これから6年間よろしくお願いしますっ!!」
「なんだいなんだい!そんな大きな声を出さなくても、聞こえてるよッ!わたしゃ、まだ耳は元気なんだよッ!」
煩そうに耳を抑え、それ以上の声で老女は言い返す。
「まぁ、最初っからしなかったのは許さないけど、アンタも挨拶したから普通に座っておきなッ!」
クラウン達は挨拶をしっかりとしたからーー遅かったがーー老女の機嫌を取ることが出来た。それに気付いた先の生徒達も挨拶をし、普通に座る事を許された。後続の生徒達も同じ道を通り、新入寮生が揃う頃には、お尻が痛くなっていた。
「アンタで最後のクラスかいッ?…そうかい、それならば、これで全員だねッ」
老女の前には20人の新入寮生が座っていた。最後に来た生徒は正座している。老女は手元にある紙の束をめくり--もちろん指に唾を付けながら--名前と部屋の番号を確認していく。
「あい、それじゃ部屋番号は覚えたねッ?6年間お世話になるんだから、綺麗に使うんだよッ!………ああ、わたしの名前を言ってなかったねィ。わたしゃ『ニュンヘル=エリス』って名前さね。まぁ、周りからは『鉈婆』って呼ばれているよ。だから『鉈婆』で構わんよ」
意外と可愛らしい名前だなーーと生徒達は思った。だが口に出す事はしない。口に出すのは自殺願望がある者だけである。
「あとねッ、一々移動するときに『青龍第3寮』なんて念じなくていいからねッ。『鉈婆』で登録してるからそれでいいよッ!」
(『鉈婆』って案外気に入っているのかも知れないなー)
クラウンがそんな事を考えていると、エリスの説明は続く。
「それと、この寮では『礼儀』をしっかりして貰うからねッ!『挨拶』が出来ない奴はこの鉈で叩くからねッ!」
エリスは右手に持っている鉈を振り回しながら、嬉々とした顔で話す。振り回し方は、叩くというよりも切るの方が近い。
「ああッ!あとね、門限とか風呂の時間とかは一切無いよッ。その代わり、朝は何があっても6時起床!畑を手伝って貰うよッ!育ててる物がアンタたちのご飯になるんだからねッ。しっかり世話するんだよッ!!」
説明は終わったようで、エリスは「何か質問はあるかぃ?」と言って見渡す。おどおどと手を挙げる生徒を鉈で指し、答えている。その間に、クラウンは聞いた事を頭の中で纏めておく。
(んーっ…聞いてたほど悪くはないと思うなぁ。門限とか無いみたいだし、朝が早いのと、礼儀さえしっかりしてれば大丈夫そうだ)
「それじゃさっさと寮に入りなッ。自分の部屋は覚えているかぃ?…ああ、そうそう、今年はねこの寮だけ人数少ないから特別に1人部屋だよ。とりあえず、荷物置いて……夕食の時間まで自由にしなッ。夕食は7時からだよッ」
エリスに促され、寮へと入っていく生徒達。寮の中は清潔に保たれ、塵一つ落ちていなかった。想像してたものと違ったのであろう。生徒達は小さくどよめき、自分の割り当てられた部屋へと向かっていくのであった。




