王立学園 -教室 4-
「酷いじゃないか。なんであんな空気にするんだよ」
自己紹介の時間が終わり、空き時間。口調を荒くしたクラウンが、2人を責める。
「ふふふっ、ごめんねクラウン。少し面白い事を考えちゃったからさ」
「いやー、笑わせてもらったぜ。でもわかったろ、コイツが性格悪いって事」
「ううーっ……。凄く恥ずかしかったんだからね。もうこんな事しないでね。絶対にっ。」
反省の色のない2人にクラウンは釘をさす。そして、アックスは性格が悪いと、今度は心に刻む。だんだんと気持ちが落ち着いてきたクラウンは、思い出した様に話しかける。
「それより2人とも、公爵家って先に言って欲しかったよ…です。」
「おいおい、クラウン。敬語とか要らねーって。俺はお前と友達なんだから、堅苦しいのは無しで」
「そうだよクラウン。僕の事もアックスと呼んでよ。友達になったんだからね」
「……うーん。2人が良いっていうなら普通に喋るよ」
[友達]という言葉に弱いクラウンは、しぶしぶと了承する。公の場合はそうは行かないが、2人のお願いでもあるので学園内では、普通に接しようとクラウンは決めた。
「てかさー、クラウンは火の貴族だったんだな。フレイゼン伯爵って事は親父と仲良いのに、1度もお前と会った事ないぞ」
公爵家の子供たちの誕生日には、その属性を持つ貴族はもちろん、他の属性貴族たちもお祝いの為や交流を深める為に赴くのだが、火の公爵家と仲が良いフレイゼン伯爵の子息の上2人にはバリーは会った事がある。それに疑問を思ったバリーはクラウンに尋ねた。
「ああ…、その時はちょうど病気にかかっていて、あんまり外に出れていないんだ」
「あー、そうだったのか…。んじゃあ、もうその病気は治ったのか」
「うん、もう治ったよ。この通り元気いっぱいだよ」
力瘤を作り、元気というアピールをするクラウンだが実際のところは、病気とは完全なる嘘である。ネガティブな時期を過ごしていたクラウンは、当時外に出ていない。もっとも外に出るようになったのもつい最近の話であるが……。
「んじゃ、今度俺ん家に来てくれよ。親父もきっと会ってみたい筈だし。俺もお前を友達だって紹介したいからな」
楽しそうに話すバリーに対し、アックスも言葉を繋ぐ。
「僕にも学校での初めての友達が出来たからね。もちろん僕の家にも来てくれるよねー」
「喜んで行かせてもらうよ。…だからその笑顔辞めて」
会ったばかりだというのに、そこには長い付き合いの様な雰囲気で話す3人の姿があった。それだけウマが合うのだろう。暫く他愛もない話に花を咲かせていたとき、嵐が乱入してくる。
「ねぇ、バリー。コイツの名前、何て言うの」
ふと声をかけられた方を向くと、そこには水の公爵家、ミリィの姿があった。
「おいおいミリィ、さっきの自己紹介聞いてなかったのかよ。コイツは俺の友達のクラウンだ」
「ふーん。貧相な名前ね。ま、覚えられたら覚えとくわ。私はミリィ。ちゃんと様付けで呼んでね。じゃぁね」
横暴な挨拶を済ますと、ミリィは自分の席へと戻る。あまりの嵐っぷりに呆気に取られたが、わかった事が一つだけある。
(うん、あの子苦手だ)
クラウンが無表情で考えていると、小声でアックスが話しかける。
「…ごめんね、ビックリしたでしょ。あんな高飛車な喋り方するけど根はいいヤツなんだよ。まぁ…嫌わないでやってくれ」
申し訳無さそうに言うと、クラウンは「うん、まぁ大丈夫だよ」と是非がわからない言葉を返す。その感情を理解できたアックスも苦笑いで頷く。不穏な空気を断ち切るかの様に始業の鐘が鳴る。
「はいー、席につけー。今から寮について話すからなー。しっかり聞いてろよー。知りませんでしたは、受け付けません」




