王立学園 -教室 3-
興奮が抑えられない中、淡々と自己紹介は続く。中にはお調子者や、真面目な者、暗そうな者など多種多様な紹介が続き、二つ目の爆弾が投下される。
「フレア=バリーだ。みんな気軽にバリーって呼んでくれ」
まさか、同じクラスに2人も五大公爵家が居るとは思ってもいなかったのであろう。生徒達のざわめきは先程よりも大きい。特に女子生徒の声が多い。爽やかな笑顔を向けたバリーを追いかける熱烈な視線は、一目惚れというやつであろうか。紹介を終えたバリーはさっさと自分の席に戻り、次の子が入れ替わりに壇上に立つ。クラウンが席に戻ったバリーに話かけようとした時、三つ目の爆弾が投下される。
「ウィンド=ヘレーナですわ。ヘレナって呼んでください」
連続の大物の登場に、生徒達は少し声のトーンが落ちる。再び壇上に立つのは3人目の五大公爵家である。同じ年齢のはずなのに、歳上のように落ち着いた雰囲気を出している。まるで神々しいものを見たかの様に先程までの騒々しさが小さくなっていく。驚愕なのか感嘆なのか。どちらなのかは分からないが、どちらもなのであろう。
颯爽と自分の席に戻るヘレーナを見つめる視線は熱い。その視線を気にしないヘレーナの事を、うわー、すごいなぁーと、クラウンは思っていた。というより、爆弾投下のテンポが早すぎて、考える事を放棄したという方が正しい。そのせいで、先程までバリーと仲良く喋っていた人物の事に全く気付くことが出来なかった。いつものクラウンであれば気付いたのかも知れないが、状況が状況であり、混乱状態に近いものであった。
「あー、先生。流れ的に僕も言った方が早そうなので、先に自己紹介していいですか」
「……………ああ。いいだろう」
奇妙な間があったが、気にせずにスタスタと壇上に進むアックスを皆が見つめる。壇上に立ったアックスは簡潔に紹介する。
「ウッド=アックスです。よろしく」
もはやざわめきは起こらない。元々覚悟はしていたのだろう。3人もこのクラスに五大公爵家が居れば後2人居てもおかしくはない。生徒達も考える事を放棄し、アックスを見つめるだけであった。
壇上で一礼をし、席に戻るアックスを驚いた目で見るクラウン。その光景が可笑しかったのか、アックスは笑いながら話しかける。
「流れ的にも次はクラウンじゃないの。今のうちに行った方がいいよ」
意地の悪い笑みを浮かべ、少し大きめの声でクラウンに話しかける。笑顔の裏にある感情を瞬時に理解したバリーがさらに追い討ちをかける。
「そうだぜクラウン。今のうちに行った方が良いぞ」
言葉の裏にあるものを理解したクラウンは、頭が真っ白になった。2人の会話を聞いていた生徒達の目線がクラウンに集中する。クラウンが前に出なきゃいけない--という雰囲気になり、何処にも逃げ場がない事を悟る。足取り重く、クラウンは壇上に向かう。昨日読んだ[友達100人出来る本-ユニークな自己紹介編-]は、もはや頭から消え去っている。壇上に立ち、生徒全員の身構えた視線を受けながら、震える声で自己紹介する。
「……あっ……えーっと、フ…フレイゼン=クラウン…です。クラウンってよんでくだひゃい。…ほの、普通ですいません…」
クラウンの自己紹介に、生徒達は肩の力を抜く。五大公爵家の最後の1人だと身構えていたが、伯爵家という事に全員安堵する。壇上から自分の席を見ると、ニヤニヤと笑うアックスと、腹を抑えながら笑いを我慢しているバリーの姿が見える。少しだけ殺意が芽生えたが、表情には出さずに席へと戻る。
席に着いて最初にした事は2人を睨む事だった。色々な感情を乗せた視線だったが、今の2人には届いてない。
その後は、事件も起こらず淡々と自己紹介が続く。怒涛の自己紹介の時間は終業の鐘の音とともに、幕を閉じるのであった。




