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白銀の英雄譚(仮)  作者: もぶいち
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第1章 始まりの日

豪華な一室にて、大きな天蓋付きベッドに眠る小さな男の子がいた。

スヤスヤと幸せそうに寝ているベッドの横に、黒の執事服を着た若い男性が立っていた。

若い男性は、男の子の寝顔を見ると微笑み、これからする仕事の事を考え少しだけ罪悪感を感じる。


「ーー起きてください。クラウン坊ちゃん」


「ううん…。もう少しだけ…」


「………はぁ。仕方ないですね。少しだけ…失礼しますよっ!」


若い男性は勢いよく男の子が眠る布団をめくる。大きな音を立てても、男の子は小さく丸まり起きる様子は無い。

若い男性は呆れたように首を振り、一室の窓に向かう。そのまま重厚なカーテンを開け、外の光を室内に入れる。


「…ううん…おきるからぁ…やめてよぉ…」


「いいえ。坊ちゃんが起きるまで起床のお知らせ(嫌がらせ)は辞めませんからね」


そう言いながら、窓をゆっくりと――わざと――音が出るように開ける。

黒板を引っ掻くような音を出しながら、窓が開いていく。その音が男の子に聞こえたのだろう。小さな耳を抑え、ベッドの上で転げ回っている。


「やめてよぉ…。おきるからぁ。やめてってばぁ」


「おはようございます。クラウン坊ちゃん。お目覚めの気分はいかがでしょうか」


「さいあくだよ…それだけはやめてっていっているのに…。トールのばか」


ぶすっとした顔を見せながら、男の子は文句を言う。それを微笑みながら若い男性(トール)は「それは良かった」と答える。


「さて、クラウン坊ちゃん。今日の朝食は当主様もご一緒されます。遅れることのないようお願いします」


「えっ、ちちうえが…?わーい、いそいでいくね!」


さっきまでの不機嫌な顔は今では無く、ご機嫌な顔でベッドから降り寝間着を着替える。その様子を確認したトールは軽く頷き、部屋から出る。

部屋から出ると外には1人のメイドが立っていた。

メイドに着替えが終わり次第連れてくるように、と命令し頷くのを確認した後、トールは朝食場所へと向かっていった。



クラウンが朝食場所に向かうと、豪華なテーブルの奥に40代前半くらいの男性が座っていた。クラウンが入ってきたことを見ると男性は陽気に声をかけた。


「おお、おはようクラウン。朝の気分はどうだ」


「おはようございます、ちちうえ。トールにおこしてもらったので、すごくきぶんはいいです」


「はっはっは。流石はトール。私の可愛いクラウンの顔をここまで変化させるとは」


「お褒めに預かり光栄です。クージル様」



クージルと呼ばれた男性が、軽く笑みを浮かべるとトールを見つめる。その目は、懐かしいものを見ているような目である。


「まぁよい。さて、クラウン。今日はお前の6歳の誕生日である。よって、お前が楽しみにしていた『精霊の加護』を受けることができる。もちろん、私も一緒に神殿に向かうぞ」


「えっ……。ちちうえもいっしょにきてくれるんですか?でも、ちちうえにはおしごとがあるんじゃ…」


「そんなものはどうでも…ゴホン。安心しろクラウン。今日の仕事は昨日済ませてあるから大丈…」


「クージル様。本日は領地の男爵様方との税収についての会議があった筈ですが」


「ええい。そんなことはどうでもよい。クラウンの方が大事なのだ。よろしく頼むぞ、トール」


「……先代が苦労していたのが少し理解できたような気がします。日程を明日に変更と男爵様方にはお伝えしておきます」



トールがくたびれた様子を見せながらも、これからする事をしっかりと理解しているのは、優秀な証であろう。


「わぁい。ちちうえといちにちいっしょ。うれしいなぁ」


「そうかそうか。嬉しいか。うんうん、やっぱりクラウンは世界一可愛いな。なんでも買ってあげちゃうぞー」



デレデレとあまり直視したくない顔をしながら、クラウンを見つめる男性こそクラウンの父親であり、エイジニア王国フレイゼン領領主のフレイゼン=クージル伯爵である。


「さて、クラウンよ。神殿には昼前までには着いておきたい。なので食べ終わり次第準備をしてくれ。ああ、トール。この前頼んでいた礼服が届いている筈だ。クラウンに渡しておいてくれ。では、先に私は部屋に戻る」


朝食を食べ終わり颯爽と部屋に戻る父の背中を見ながら、今日一日父親と居れることを知ったクラウンの顔はこの上ない幸せな顔をしているのであった。




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