王立学園 -教室 2-
今度は男子生徒の視線を辿ってみると、バリーの後ろの席に辿り着く。そこには綺麗なストレートヘアの女の子が座っていた。
(あー…なるほどなるほど。そういう事。同じ視線って事ね)
好意の目線。一度学習したクラウンはすぐ理解した。
「…というよりはこのクラス全員顔立ち整ってるんだよなぁ。凄いレベルだと思うよ」
「んあっ。いきなりどうしたクラウン。なんか変なもん食ったか」
「…びっくりしたー。いきなり喋ったかと思ったら変な事言ってどうしたの」
「えっ、僕なんか変な事言ったっけ」
「ああ、なんか顔立ちが整ってるとか…」
「凄いレベルだとかも言ってたよ」
(心の声が普通に漏れてたぁーーー)
「いや、…あのね…うん。ごめん。忘れてください」
「いやいや、忘れることはできないなー。なぁ、アックス」
「そうだね。何を考えていたのか白状してもらわないと」
ニヤニヤと特有の顔をしながら、2人はクラウンに近づく。顔を赤くし否定をするが、2人は納得していない。その時、天からの助けが届く。
「あーい、全員席につけー。今からHR始めるぞー」
「あっ、始まるみたいだよ。前向かなきゃねっ」
「…ふーん。あとでじっくり聞くことにするよ」
「あとでしっかり聞くからな」
一時は助かったと思ったが、現状がさらに酷くなっただけであるとクラウンは嘆く。そんな気分のクラウンとは裏腹に壇上の教師が話を続ける。
「はい、えー、お前らの担任のドランだ。よろしく。学園での注意事項は生徒手帳に書いてあるので必ず読んでおくように。それでだなー、この学園では爵位を持っている生徒だけが通っているわけであるが、学校内では上下関係は示さないように。それとこれは俺からのお願いだが、このクラスの生徒はどうか名前呼びをするようにしてほしい」
「なんでですかー」と、左端の席の生徒から声が上がる。
「外に出たらまぁ、上下関係があるわけだが、せめて学校内だけでも対等にお喋りして欲しいっていう俺のお願いだ。そんなんじゃ学園生活が楽しめないからな。まぁ、それはお前ら同士で決めてくれ。んじゃ、まずは自己紹介からするか。廊下側先頭からよろしく」
そういうと、ドランは壇上を降り教室の後ろへと向かう。
「簡潔に。スピーディに行こう。んじゃー、1番からー」
出席番号順に次々に自己紹介をしていく。フルネームを言う生徒もいれば名前しか言わない生徒もいる。別にどちらでも良いらしく、その仕方で続いていく。そして、一つ目の爆弾が落とされる。
「アクア=ミリィです。よろしく」
非常に簡潔な自己紹介だが、ざわめいたのには理由がある。彼女の名前に、五大公爵家の名字が入っていたのだった。
五大公爵家とは、水の公爵家<アクア>。木の公爵家<ウッド>。土の公爵家<アース>。風の公爵家<ウィンド>。そして火の公爵家<フレア>。
王国の中で、国王陛下の次に権力を持っており重要な役割も持つ貴族である。また各属性を取りまとめる長であり、その実力は各属性の頂点であるとも言われている。
この下には、侯爵[語尾にムが付く]、伯爵[語尾にゼンが付く]、子爵、男爵と続く。
そう、彼女は入学式で言われた五大公爵家の一人であった 。未だにざわめきが収まらない教室にて、慣れたようにミリィは席に戻る。
愛くるしい笑みを浮かべながら、品良く歩く姿は流石は五大公爵家。その名に恥じぬ気品さであった。
「はい、静かにしろー。五大公爵だったとしても、この教室内では同級生だ。隔てなく接するように」
流石にそれは無理だろ--という、他の生徒の声が微かに聞こえる。確かに自分より上の立場の者にタメ口を聞くことなど、常識が許してくれない。社長にタメ口で、「今晩呑み行こうぜ」などと言えるはずない。間違いなく、解雇が待っている。もしかすれば、本当に首が飛ぶかもしれないが。
この空気に慣れているのであろう、ドランは首を振り、「それじゃあ、次の者、自己紹介してくれ」と促すのであった。




