第2章 王立学園 -入学式当日-
月日は流れ、2年後。
衝撃の日から、クージル達は色々と実験を行った。まず始めに、その場にいた風属性のトールに協力して貰い魔法が使えるかを確認した。結果、クラウンが魔法詠唱中に触れているとその魔法が使えるという事がわかった。そこでジルは他の属性持ちが詠唱中に接触する事を禁止にした。仕組みは解明出来てはいないが、クラウンが触れればその属性魔法が使えるという、結論に至ったからだ。
また、クラウンの魔力消費量が尋常ではないことが判明した。これは魔法道具を使って調べた内容であるが、検証結果には魔力消費量が他の人と比べ半分で済むという事もわかった。これには流石のジルも頭を抱える。目の前の可愛い弟が化け物級の能力の持ち主だと知り、絶対に何があったとしても敵にだけは回さない様にしようと心に決めた瞬間であった。
ジルからこの事を聞き、恐ろしい事を閃く者がいた。
--魔法は完璧だけど、武術も出来たら最強じゃね?
彼はそう考えてからの行動が早かった。すぐさま騎士団に戻り、引退したとある教育係に連絡を取り家庭教師になって欲しいと懇願した。最初は「引退したのだから」と断ったのだが、弟に教えてほしいと言われ、しぶしぶと首を縦に振った。引退した教育係とは、彼の剣の師匠であり騎士団の元団長である。息子がしっかりと実力をつけた為引退したのであったが、常日頃から勿体無いと思っていた彼はチャンスとばかりに声をかけたのであった。
その教育係が来てからクラウンの生活は変わり果てた。初日から実践稽古をつけられ、武器も剣ばかりでなく他の武器も使わされた。「苦手なものは無い方が良い」と言いつつも見本などは見せず、技術を盗めと言わんばかりのスパルタ式であった。
なぜここまでするのかとクラウンは聞いた事があった。すると「俺の弟だからきっと才能がある。だから俺を超える様な最強の男にしてください」と言われたからだと、教育係は笑いながら言った。その時初めてクラウンに殺意というものが芽生えたのである。
そして、クラウンは10歳になった。この世界では10歳になると王立学園へと入学する事となる。王立学園へは爵位を持っている一族のみ入学する事が出来るが、爵位を持たない一族は、各領地にある領立学校に入学する様になっている。
入学式当日、クラウンの姿は礼拝堂にあった。この2年間、クラウンは毎朝礼拝堂へと足を運び、石板の前で祈りを捧げていた。自分の才能は神々からの贈り物だと考え、感謝の祈りを捧げるのが日課となっていた
。
「クラウン様、そろそろ式典のお時間ですよ」
後ろから聞き慣れた声が聞こえる。クラウンは祈りを終えると声の方へ振り返る。
「ありがとうマリー。それじゃあ馬車に戻ろうかな」
馬車へと戻ろうとするクラウンに、マリーが話しかける。
「クラウン様、ご入学おめでとうございます。心よりお祝い申し上げますわ」
「ふふっ、ありがとう」
ふと、クラウンは昔の事を思い出した。魔力反応は出るが魔法属性がわかってない時に、目の前にいる女性のおかげで魔法を使える事がわかった。あの時の気持ちは忘れることは無い。そこからは激動の日々が待っていたのだが………。
「どうかしましたか?」
遠い目をしていたクラウンを不思議に思ったマリーが話しかける。クラウンは「大丈夫。何でもないよ」と言い、深く呼吸をしマリーをしっかりと見る。
「…ありがとうマリー。貴女のおかげで、僕は魔法が使える様になったよ。僕にとってマリーは一生涯の恩人だ」
「…そう言ってもらえて、本当に嬉しいですわ。でも、ジル様にも言われている様に、禁止事項はお守りくださいね」
泣きそうになるマリーだが、涙を堪え、ジルに言われたことを思い出しクラウンに伝えた。
「大丈夫!それは絶対に守るよ。それじゃあ、そろそろ時間だし行くね」
馬車へと乗り込み、学園へと走り去る。それを見送っていたマリーの目に、馬車の中から手を振るクラウンが目に入った。その光景と昔の記憶が重なり、マリーは一人涙を流すのであった。
改稿予定あり。(寮-9まで)




