沈黙の事実 -衝撃-
「クラウン様をお連れしました」
そう言いながら、トールがクラウンを部屋へと招き入れる。少しだけ寝ぼけた様な顔をしていたクラウンだったが、部屋にクージル達が居ることを知り目が覚めた。
「おっおはようございます。父上、ノーム兄様、ジル兄様」
「うん、無理矢理起こしてしまってごめん。ちょっとクラウンに聞きたいことがあってね」
「なっなんでしょうか」
「大丈夫だよ。別に怒っていないから安心して?とりあえずこっちに座ってくれる?」
「わっわかりました」
恐る恐るジルの隣の椅子に座るクラウン。その姿が小動物に思えた。
「んで、ジル。おめーの聞きたい事ってなんだよ?」
「そうだそうだ。もう私は知りたくて堪らないぞ。こんなに焦らされるのは久し振りだぞ」
「はぁー。まぁいいや。…クラウン、聞きたいことがあるんだけど、昨日マリー様に教えて貰って身体強化が使えたって言っていたよね?」
「はい、マリーに身体強化をかけてもらい、それで自分でも出来るようになりました」
「………そうか、ありがとう。ちょっとだけ実験をしてみたいんだけどいいかな?」
「…痛いですか…?」
「ふふふ、痛くないよ?そんな心配はしなくていい。ただ魔法をかけるだけだから」
「それなら大丈夫ですけど。でもなんでですか?」
「…この実験が成功したら教えてあげるよ。みんなにね」
「なんだかよくわかんねーが早くしてくれよ!」
「ふぅふぅ。ここまで焦らすとはなかなかやり手だな、ジルよ」
「………それじゃ魔法をかけるので立ってくれるかい?」
「わかりました」
クラウンはその場に立つと、目の前でジルが手をかざしながら魔法を唱える。
「肉体増強・火」
「よし、それじゃあ父様と腕相撲をしてくれ。そうだな…3割程度の力でやってくれ」
「よくわからないですが、父上腕相撲をしましょう」
「うむ……クラウンよ。お前は今強化されているからな。本気でやるなよ。腕が折れるどころでは無いからな。いや、本当に」
「怪我しても俺が回復魔法使うから安心しろって。それじゃあ行くぞー。レディー…………ゴー!」
決着は一瞬だった。鈍い音を立てクージルの手がテーブルに叩きつけられる。声にならない悲鳴と苦悶の表情を浮かべるクージルに対し、ノームが素早く回復魔法をかける。
「…あー気持……痛かった。というより、強化している状態で腕相撲って負けるに決まってるではないか!折れたりしなくて本当に良かった…」
ブツブツと文句を言いながらクージルは椅子に座りなおす。腕をさすりながら痛そうにしている。回復魔法を受けたのでもう痛くないはずではあるが…。
「そんな事より、クラウン。今強化魔法をかけたけれど、自分では出来そうかい?」
クージルを心配そうに見ていたクラウンだが、ジルに声をかけられ振り向く。
「うーん……。マリーに教えてもらった時みたいな感じはしなかったです」
「そうかそうか……。ということはこっちの可能性ってことか……。それじゃあ、もう一度同じ魔法をかけるね」
先程と同じ様にクラウンは立ち上がる。そして、ジルは手を掴み同じ魔法を唱えた。すると、先程とは違いマリーに教えてもらった時の様な感覚を受ける。
「…どうだい?多分これで使えるとは思うんだけど…」
「はい……マリーの時の同じ物を感じました」
やはり……とボソリと呟いたジルは、頭を抱える。
「おい!1人で納得してんじゃねーよ!ちゃんと説明してくれよ!」
「じゃあ、クラウン。今教えた魔法を使ってみせて」
「強化魔法だよね。--肉体増強・火」




