-武闘祭初日 -
武闘祭当日、どこからか花火があがったような音が聞こえる。天候は快晴。花火の音と共に商人達は準備を始める。力自慢の者達と同様に、商人達も今日から本番を迎えるのだ。あちこちで数々の種類の声が聞こえる。少しだけ慌ただしい屋台の通り道を歩く人物がいた。フードを深く被り性別がわからないが、『種族』という観点では1発でわかる。如何にも怪しげな色をしたマントの下から尻尾がチラチラと見えているのだ。そのまま、とある宿屋の前に着くとフードの人物は中へ入っていくのであった。
「わっちは学院に行くでありんすが、初戦敗退なとせんでくんなまし。全員が本戦にすることを信じていんすよ」
制服に着替えたマユリがクラウン達にそう言ってから出て行く。マユリが観れるのは本戦からなので、必ず残ってくれという彼女なりのエールであった。
「任せてよ!ぼくたちは全員残るよ」
クラウンの返事を聞き、マユリは「いってきます」と返事を返す。クラウンの言葉は全員の総意であった。今日まで頑張ってきたのはクラウンと共に行動したいから。ここで結果を出さなければ意味が無いし、それに公爵家としてのプライドもある。見えない重圧があるのかバリー達の表情は固い。
「大丈夫だよ。みんなが教えてもらった先生たちは王国の隊長格なんだ。正直言って、それより強い人はいないと思うよ!」
クラウンの言葉はバリー達にとっては気休めでしか無い。緊張をほぐそうとクラウンは必死になって言葉を考える。
「あー…。それにほら。もし初戦で負けてもヒューイさんたちがまた鍛えるって言ってたし。大丈夫だよ!」
クラウン自身も何を言っているかわからない。しかし、必死さが伝わったのかバリーが笑い出す。
「ぶははっ!確かにクラウンの言う通りだ。俺たちはあの地獄の稽古を耐えたんだ!全力を尽くしてそれでもダメだったらまた頑張ればいいのさ!」
「ふふっ、そうだね。これで終わりってわけじゃないんだ。逆に自分の力試しだと思おう」
「そうね。全力を尽くしたなら、素直に結果を受け入れるべきだわ。余計なことを考え過ぎていたわ」
「うんうん。それに、あの地獄の稽古を受けたくないなら目の前の敵を全部やっつければいいんだ!先手必勝!あたしは全員を蹴散らすぞー!」
次々に思い思いの言葉を発しながらバリー達は気合を入れる。しかし、その表情に先程までの固さはない。全く無いというわけではないが、程よい重圧はあるのだろう。目の前の雲が晴れたような表情でバリー達は席を立つ。
「よーし、それじゃそろそろ受付に行くとするか!」
バリーの声に続くようにクラウン達も部屋から出ていく。屋敷の外でヘイゾウ達と出会い、次々に声をかけられる。内容は頑張れなどの激励だ。門の所にはエースやヒューイ達が待っている。受付まで一緒に行くつもりだろう。ヒューイ達と合流し、受付を目指す。ヒューイはミリィとバリーにアドバイスをし、エースもアックス達に話をしている。時々冗談を交えながら受付へと辿り着く。
「それではお前たちの検討を祈っておく。理想としては全員本戦出場を勝ち取ってこい!ただ、悔いが残る戦いはするな。全力を尽くせ!」
ヒューイの励ましを受け、クラウン達は受付へと向かっていく。各自受付を済ませると魔法陣へと案内される。どうやら今年の武闘祭は例年以上に人が集まっているらしく、他の都市の武闘場を借りて予選を行うらしい。少しだけ、魔法陣に対して抵抗があったがクラウン達は覚悟を決め予選会場への転移を受け入れるのであった。




