-自業自得 -
「フハハハハッ!さすがは火の公爵家。文句無しの逸材だ」
「ちょっ…。そろそろ休憩くれ…」
「あと手合わせ5回してからだな。もちろん、私に一太刀でも浴びせれば休憩だぞ?」
「くそっ!それができるんならとっくに休憩してるよっ!」
ホウジョウ家の訓練広場にて、バリーとヒューイが剣の稽古をしている。ヨシツネの部屋から出たあと、すぐさまヒューイの元へ向かい、剣の稽古を付けてもらうよう頼み込んだ。理由を聞かれるとは思っていたが、そのような事は無く快く了承を貰った。翌日の朝早くから稽古をつけてもらい、少しは上達したとバリーは思っている。しかし、まだ初日。開催まではまだ時間がある。バリーにとっての地獄は門を開いたばかりだ。
手合わせが終わり休息に入る。バリーは疲労困憊でその場に大の字になり倒れる。アネモネが水を2人に手渡してくれ、バリーはそれをありがたく受け取り勢いよく飲む。水を美味しく感じたのは久しぶりで、ぷはっと声が出る。その様子にアネモネは優しく微笑む。
「お疲れ様。団長の稽古は大変だよねー」
「大変だけど、すごく勉強になるぜ。ところで、ミリィはどーなってんだ?」
「ミリィちゃんも今休憩してるよ。魔力を殆ど使わせたから長めに休憩させてるのよ」
ミリィはアネモネに師事し、魔法と武術の両方を教えて貰っている。午前は魔力、午後は武術と中々のハードスケジュールではあるが、アネモネが様子を見ながら調整していくので何も問題は無かった。
「ところで、ミリィちゃんから理由聞いたけどみんな友達想いだねぇ。おねーさん涙出ちゃうよ」
「大事な友達だからな。…でも、それだけが理由じゃねーけどな」
「え?他に理由があるの?」
アネモネが驚いた表情でバリーを見つめる。余計な事を口走ったと思いながら、バリーは頭をかく。
「なになに?教えてよ!おねがーい!」
アネモネが猫なで声で迫る。結局根負けしたバリーが頬をかきながら答える。
「…その…。やっぱり強くなりてーからさ」
恥ずかしそうにぼそぼそと話すバリーに、アネモネは目をキラキラさせる。
「うふふふふ。いいねいいね!良い理由じゃない。おねーさんそういうの大好きッ!」
アネモネはバリーの頭を乱暴に撫でると満面の笑みを浮かべる。側から見れば、姉弟みたいな光景だ。
「よーし、休憩は終わりだぞ…って、何をイチャついているんだ?」
ヒューイが後ろから声をかけると顔を赤らめ頭を撫でて貰っているバリーが目に入った。ヒューイの言葉に弾けるように離れるバリーではあったが手遅れであった。
「ほほーう?バリーはアネモネみたいなヤツが好みなのか」
「ちちちげーよ!そんなこと思ったことねーよ!」
「何をそんなに慌てるんだ?別に好意を持つのは普通の感情ではないか?」
「俺は別に好意なんか持ってねーよ!ただ、恥ずかしかっただけだって!」
「まぁ!照れるなんてバリー君って可愛いー!」
「よかったなアネモネ。未来の旦那候補が見つかったぞ?」
「わーい!玉の輿だぁー!」
ヒューイとアネモネがバリーをからかうように話を続ける。ヒューイ達は結婚適齢期ではあるが、別に焦っているわけではない。元より、2人とも自分よりも強い男が好きなので一太刀も浴びせられないバリーは眼中にないのである。暇つぶしとして丁度いい玩具としてバリーは2人に選ばれたのであった。
「だから!!好きとか全く思ってねーってば!まず俺は年上は無理!5以上離れてるとかもうババアじゃんか!」
バリーの言葉に笑い声が止まり無音となる。訓練広場には他の兵士たちもいたが、剣を止めバリーを見ている。正確には、冷酷なオーラを出している2人を見ているのだが。
「……バリーよ。貴様には女性への接し方を教えなければならないな」
「…強くなる云々に、まずは礼儀を知っとかなきゃね」
ヒューイ達のオーラが禍々しいものへと変化していく。それを感じた兵士達はその場から離れていくが、近くでオーラを浴びているバリーはその場に腰を落とし、歯をガチガチと鳴らしている。
「ミリィちゃんはもう少し休憩してていいからね」
「喜ぶがいい。貴様は今から私たちに教えを受け、一段と強くなれるであろう」
「ごごごごめんなさい!嘘です嘘です!ババアなんかじゃないですぅぅぅぅぅ」
丁度、時刻は正午。訓練広場から聞こえる絶叫でエチゴの住民に時刻を知らせるのであった。




