-行方 2-
『武闘祭』とは『エチゴ』で行われる『ホウジョウ家』独自のお祭りである。お祭りとは言うものの、中身は武力の底上げ。平民でも他国の者でも参加することが出来る。優勝者には金品か兵士団への入隊の権利が渡され、就職活動の一環として利用するものも多い。街では賭け事も行われ、開催からは1週間ほど盛り上がりを見せる。あくまでも国民からはお祭りではあるが、兵士からすれば実力テストの様なものであり初戦敗退などすれば、除隊を勧告されるので文字通り必死だ。
ホウジョウ家は1ヶ月後の『武闘祭』の準備に追われ、兵士達が街中を走り回っている。3ヶ月前に公表するのが例年通りなのだが、ヨシツネの強引な意見に街中が大忙しなのである。その様子を部屋から見る2つの影があった。
「父上、『武闘祭』の開催理由を聞いても?」
「言ったはずだが?兵士の増員であると」
「違います、それは表向きの理由でしょう。裏の意味をお聞かせください」
「少しぐらい思案を巡らせたのか?マユリよ。すぐ考えられることではないか」
ヨシツネはマユリの目を見ながら話す。マユリ自身、考えはしたが自信を持ってこれだという事が出来ない。マユリの間を感じ取ったのかヨシツネは溜息をつく。
「お前もホウジョウ家の一員なら座学に励むべきだな。こんな簡単な答えすら出てこないのならば、価値はない」
冷たい一言にマユリは唇を噛む。ヨシツネはマユリに座る様指示する。
「…考えてはいたのだろう。言ってみよ」
「……バリーたちを餌にし、ふるいにかけるおつもりでしょう」
「概ね正解だな。だが、まだ甘い。考えてもみよ。この場に公爵家の子息、令嬢が集まり技を競い合うのだぞ?我が兵士団としても一生にあるか無いかの好機だ。我が兵士たちも、公爵家の子どもたちにとっても多いに学べる場ではないか。デメリットも無いのに、みすみす見逃せと?」
「…ッ!しかし、それではっ!」
「マユリ、利用するということも大事なのだ。だが、これは彼らが望んだことではないか。実力があることを証明すれば良いだけの話だろう?」
「…連れて行く気が無いくせに」
「無論だ。利用すると言ってもあくまでも我が領地内だけでだ。危険な場所に連れて行って怪我などさせてみろ。すぐさま国家間の問題に発展するであろう」
「…それはわかります。しかし…」
「諦めろ。お前がなんと言おうと私の考えは変わらぬ。これは私だけの責任に収まるものではないのだから」
ヨシツネの瞳にマユリは返す言葉が無い。マユリも他国の重鎮に怪我などを負わせたらどうなるか理解している。一方で、クラウンの力になりたいと今も努力をしているバリー達の力になりたいとも思っている。揺れる気持ちを抱きながらマユリは拳を握り締める。
「……例え優勝しようが、クラウンとパーティを組むことは出来ない。そんなのが認められますか!」
「お前が認めるものではない。当主である私が決めることだ。……少し頭を冷やせ」
ヨシツネが話は終わりだと告げると、マユリは俯きながら部屋を出て行く。ヨシツネはマユリが今から行動するであろう内容を考えながら、深い溜息をつくのであった。
「…ヨシツネ様。いかがなさいますか」
部屋の隅から若い男の声が聞こえる。ヨシツネは外を見ながら告げる。
「放っておけ。あの子は全て伝えるであろうが、別に問題では無い。それよりも、クラウンを常に監視しておけ」
「御意」
部屋の隅から人の気配が消え、ヨシツネは外を見ながら呟く。
「…若いとは素晴らしいな。マユリも良い友達と出会えたものだ」
ヨシツネの言葉は誰にも聞かれる事なく、部屋の中へと溶けていくのであった。




