-秘密 2-
ヨシツネの目はクラウンの右胸のポケットに向けられている。クラウン自身は隠してるつもりはなかったが、見透かされているのであれば言われた通りにするしかない。胸ポケットのボタンを外し呼びかけるとピンと耳を立てたギンチヨが顔を出す。
「おいで、ギンチヨ。ヨシツネ様が見てみたいってさ」
言葉が通じたのか、ギンチヨはポケットから肩へ登りそのまま腕をつたってテーブルへと降りてくる。
「ほほう…。名付けをしておるのか。これまた愛着が湧いたのかな?」
「え?マユリから聞いてはいないんですか?この名前もマユリが言った名前を採用したんですよ」
「…そうなのか?マユリからはそんなことは聞いておらぬが…。そうかそうか。マユリが名付け親か」
目を一瞬だけ丸くしたヨシツネだがすぐに表情を戻す。そして、ギンチヨをじっくり見つめる。
(……妙だな。魔物の見た目をしているが魔力量が見えない。しかし、この目はどこかで見た記憶が…)
ヨシツネに先程までの朗らかな表情は無い。クラウンの前にあるのは、当主としての顔であった。だが、ギンチヨを見つめながら表情が変化していく。厳格から驚愕、そして感動。ヨシツネの表情の変化にクラウンはただただ不思議に思うしかなかった。やがて、唇を結んでいたヨシツネがゆっくりと口を開いていく。
「……クラウンよ。本来ならば客人待遇せねばならぬところであるが、ちと変更することになる」
ヨシツネの口調が変わったことにクラウンは気を引き締める。自分の父親が伯爵として命令を出している時と同じ雰囲気を感じたからだ。
「お前は我が近衛の少数と共に修羅の地へと行ってもらう。……理由は話すことはできない。申し訳ないがな」
クラウンは何故と問いただしたかったが、ヨシツネの語る事は出来ないとの言葉に黙る。故に、クラウンの脳内には不満の渦が巻き起こっている。その表情を見てか、ヨシツネがさらに言葉を付け加える。
「お前が文句を言いたいという気持ちはわかる。だが、ここは私の提案に従ってほしい。その分、見返りはあるぞ?」
「…金品などは一切いりません。ぼくはただ、理由が知りたいのです」
「………。…クラウンよ、修羅の地にて戦闘のイロハを学んでこい。理由が知りたければ、そこにいけ。そして、お前は目覚めることになるであろう」
ヨシツネの奇妙な言い回しにクラウンは眉をひそめる。だが、理由を聞いても返ってこないのなら、素直に命令に従うしかないだろう。クラウンはしばらくヨシツネの目を見ていたが、不承不承ながらも頷くのであった。
「…話は終わりだ。出立の日時は後で知らせよう。もう部屋へと戻れ」
クラウンが立ち上がるとギンチヨが腕をつたい肩へ登る。そのままヨシツネに一礼をしクラウンは部屋から出ていく。部屋から出たのを確認したヨシツネはポツリと言葉を呟くのであった。
「お!クラウン、帰ってきたのか!……どうした?そんな顔して」
「ぼくも何が何だか…。でもはっきりわかってるのは少し怒ってるってことかな」
部屋へと戻ってきたクラウンに気付いたのはバリーであった。しかし、クラウンの表情を見たバリーは様子がおかしいと思った為問いかけたのである。
「お前が怒るなんて珍しいな。何かあったのか?」
興味津々にバリーが尋ねる。クラウンはヨシツネの部屋で聞いた内容を大雑把に話す。その途中、クラウンに気付いたアックス兄弟が話に参加してくる。話し終えたクラウンは意見をバリー達に求めた。
「……てな具合だったんだけど。どう思う?」
「どう思うって聞かれてもな…。ヨシツネ様の命令なんだろ?断れなくね?」
「うーーん…。僕もバリーと同じかな。直々の命令だもんね」
「……その前に、『ギンチヨ』ってなんだい?アックスたちは知ってるみたいだけど…」




