-隔離 2-
マユリがヨシツネに報告をしていた同時刻。クラウン達とヒューイ達の姿は別の広間にあった。この城は基本的に和室がメインではあるが、他国の要人用に洋風の一室も準備してある。ただし、靴は脱いでいる。
「さて、まずは現在わかっていることを伝えたいのだが良いか?」
ヒューイが腕組みをしながらバリー達へと問いかける。頷きで返答するとヒューイが口を開く。
「お前たちが使用した魔法陣には細工がしてあった。犯人はまだわかってはいないが、使われた魔法道具は『帝国』の物だと判明した」
ヒューイの言葉にバリー達は顔を見合わせる。予想していた事が的中していたからだ。
「その顔はある程度は予想していたって顔だな。さすが公爵家、名に恥じぬ頭脳の持ち主だ。……だが、まだ完全に帝国の手の者だとは決まっていない。不穏分子は何処にでも湧くゴキブリみたいにいるからな」
「……ならばそのゴキブリどもを一網打尽にはできないのでしょうか?」
ヒューイはアックスを一瞥すると鼻で笑う。
「ふん、お前がアックスか。その物言いは兄譲りだな。……一網打尽にしたいところではあるが証拠が足りない。今のところわかっているのが使用された魔法道具が帝国の物ということだけなのだ」
ヒューイが残念そうに言うと、それをフォローするかのようにエースが続く。
「帝国の物だっただけでも大収穫なんだけどね。…それでなぜ狙われたか、理由はわかるかい?」
「…俺たちが目的じゃねーのか?」
「間違ってはいないと思う。だけど、狙い方が雑な印象を受けるんだ」
エースの言葉にクラウン達は首を傾げる。雑な印象とは何を示しているのかが理解出来ないからだ。
「雑な印象って?まとめて狙うのが道理じゃないの?」
「アックス、まとめて狙うのなら確実に殺せる場所を選ばないかい?」
エースの言葉にピンときたのか、アックスが口を丸く開ける。
「エース兄よぉ、どういう意味だい?もう少しわかりやすく言ってくれよ」
バリーの言葉にクラウンやミリィ、ヘレーナも同意とばかりに首を縦に振る。
「ええ?これでもわかりやすいと思うけど……。うーん……帝国の貴族がいたとして、こいつを殺せば帝国に大打撃を与えることが出来る。ただ、この貴族は1人で出歩くことをしない。転移系の魔法道具を使うがどのような場所に転移させる?」
エースの問題にバリーとミリィは少し頭を抱える。ヘレーナとクラウンは理解したのかアックスと同じ表情を浮かべている。
「…2人とももうちょい勉強しようね?」
エースが可哀想なモノでも見るような目つきで2人を見る。その目にバリー達は苦笑いで答える。
「僕だったらその場合、『確実に殺せて逃げられない場所』を選ぶ。失敗の可能性を少しでも減らさないとね」
ここまで言われればバリー達も理解の色を示す。伝わった事に安堵したエースであったが、表情を真面目なものに戻す。
「だから、バリーたちをなぜここに飛ばしたのかがわからないんだ。出来るなら帝国とかの方がいいだろ?この部分に違和感を感じてるんだよ」
エースの考えに一同は思案を巡らせる。確かに目の前に大チャンスが転がり込んできたのだ。しかし、詰めが甘いと言うべきか、逃げられる可能性がある場所へ転移させられたのだ。エースはそこに違和感を感じて皆に話したのである。
「でもさ、この転移妨害の実験だったっていう可能性があるんじゃないの?」
アネモネの言葉にエースは顔を上げる。
「そうか…。既存の魔法道具ではなく、改良型の場合もあるのか。ヒューイさん、少し研究所に連絡をしてくるね」
「ああ。そういうのはお前が得意とするものだからな。吉報を待っているぞ」
ヒューイの言葉を受け、エースは部屋から出て行く。クラウン達はその後ろ姿を見送るがヒューイの言葉に目線を戻す。
「さて、この件については以上だ。詳しくはまたまとまってから教えよう。次に話す内容は重要なことだ。異論などは一切認めない。もう決定事項だということをしれ」
ヒューイの圧がかかる言葉にクラウン達は唾を飲み込み、心して話を聞くのであった。




